大阪府で、木工製品工作等の製作販売をしているあつしぃ工房さんが、自身のTwitterでつぶやいた「適正価格」に関する投稿に、6万を超えるいいねが寄せられています。

「今日の会社での出来事。
製品製作依頼が来て、約500万(適正価格)で見積書を先方に送ったら
『他の会社はオタクの3分の1の値段でやるっていってるけど~?もう一回見積もりしてくんね?』
的なニュアンスの文章が返ってきましたので社員一同話し合った結果、1000万で見積もりを返答させて頂きました」

 案件がひと段落したため今回の投稿を行ったという、あつしぃ工房さん。とはいえ、これだけだと事の顛末が分かりにくいということで、後日その詳細についても投稿されています。

「本件は数社が仕事を分担しないと完成しない商材なのですが、各社がマージンを取ると先方のマーケットプライスより高くなる為、全ての企業がマージン取るのを辞退された金額が500万となります。
なので各社適正なマージンを加味させて頂いた結果が1000万となります」

 最初の投稿にもあるとおり、あつしぃ工房さんはまず「500万円」という見積書を送付しています。これは()書きもされているよう、適正価格とのこと。

 これに対し、依頼者側は「3分の1(約167万円)でも問題ないという会社もいる」と、他社を引き合いに出してあつしぃ工房さん側に値下げを要求しています。そもそも、3分の1でやるという会社があるのならば、そこに頼めば良いのに……と思うのですが。

 そこで、あつしぃ工房さん側は再検討した結果、事前段階では加算していなかった「マージン」を上乗せした上で、改めて見積もりを送付。結果、物別れに終わったというのが一連の内容です。

 一見すると、あつしぃ工房さん側の「報復措置」が際立つ内容でもありますが、実は本件のようなケースは割とよくある話でもあります。

■ ちゃんと業界事情や相手の会社規模を把握していますか?

 価格というのは、業界や会社側がその時の原料事情や輸送コスト、人件費(人月)などを考えた上で設定。なおかつ半年や1年スパンで都度変動していくもので、移り変わりが早いものです。このため一般的な見積書には「有効期限」が設定されています。

 また当然ですが、一定レベルの利益を確保しておかないと、どの業界も成り立っていきません。よく「○○って高すぎじゃない?」という意見がネット上では語られていますが、それはよくよく調べてみると、実は妥当だったり(むしろちょっと安いほど)……みたいなオチになることもしばしば。

■ 条件交渉は信頼関係が絶対不可欠

 筆者は以前在籍した企業で、販促アイテムやノベルティグッズなどを製作していました。つまり発注側の立場として、あつしぃ工房さんのような受注業者側と幾度か折衝したことがあります。その経験からしても、発注側が受注者側に競合価格をちらつかせて交渉するというのは大変失礼な行為だと考えます。正直、圧力と言えるでしょう。

 それに他社の事情を安易に話す人間は「口の軽い奴」として忌避されるだけ。条件交渉というのは、信頼関係が絶対不可欠な要素であり、その原理原則を守れない人間は、その業務に不適格であると言わざるを得ません。

 今回最初に提示された「500万円」は、競合の“大半”がほぼ同じ価格を提示しているならば、それが「市場適正価格」といえます。そして依頼者側のいう3分の1(約167万円)の価格で提示した会社は、もし実在するならばバランスブレイカー的な存在。発注側は不審に感じた方が無難です。安かろう悪かろうかもしれない、と。

 恐らくですが発注者側は安い見積書をみて、不安を感じたのでしょう。しかしながら、安い見積書が出てきた以上、もしかすると“ワンチャン”他社もそれぐらいの額になるかもしれない。だったら「より高品質な商品実績のあるところ(安心できる企業)」に値下げをさせて、依頼したほうが無難と感じたのでは?と推測します。

 相見積(複数の会社から同時に見積書をとること)をとったことがある人なら分かるかとおもいますが、同じ案件でも出てくる金額はバラバラです。

 相手の企業規模や、投入してくれる人員数(人月数)、原料品質、作業内容、作業範囲(品質管理をどこまでするか、輸送はなど)、保証の有無が大いに反映されるからです。同時に、金額はそれなりに商品の品質やスケジュールにも影響してきます。

 高いところはやはり至れり尽くせり高品質、安いところは「発注担当者が心中覚悟」でなければならない時もあります。正直後者はギャンブルです。安くてもしっかりしたところはありますが、そういうところは既に人気で危うそうな発注者からは受けない、と相手を選んでいるところもあります。つまり既に、信頼関係があってこその値段。

 筆者は、ビジネスの話をする際、よく「三方よし」の観点から見ることは意識づけています。これは日本三大商人である「近江商人」が残した言葉で、「売り手と買い手に加えて、社会にも貢献できてこそ商売といえる」という経営理論。

 たかが見積書、されど見積書。書かれた金額の向こう側には必ずそれぞれのワケが存在しています。相手の状況や立場を思う思いやりの心を持っての商売は、それが何かしら反映され、結果としてWinWinの結果に繋がっていくものです。

<記事化協力>
あつしぃ工房さん(Twitter:@dgf11010/Instagram:@diversion_guitar_factorys)

(向山純平)