12月14日は赤穂浪士討入りの日。主君の無念を晴らそうと、赤穂藩の家臣47人が仇討ちを果たした一連の流れは、歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」や映画、ドラマなどで有名です。これをモチーフにした和菓子として知られているのが「切腹最中」。お詫びの品として使われることも多いこの和菓子を、あらためて食べてみました。
赤穂浪士の討ち入りはお芝居の題材として親しまれ、同じくお芝居としても有名な曽我五郎・十郎兄弟による「曽我兄弟の仇討ち」、剣豪荒木又右衛門の助太刀で知られる「鍵屋の辻の決闘」と並んで、日本三大仇討ちのひとつとされます。
その発端となったのは今から320年前の1701(元禄14)年、浅野内匠頭こと赤穂藩主の浅野長矩が江戸城松の廊下で突如、吉良上野介こと高家旗本の吉良義央に切りかかった事件。時の将軍徳川綱吉は激怒し、浅野に即日切腹を命じました。
この事件をモチーフに創作された和菓子が「切腹最中」。表と裏の最中皮が接する部分を腹に見立て、そこが開いてはみ出るくらいの餡を詰めたものです。
作っているのは、東京・新橋にある新正堂という和菓子店。大正元年(1912年)創業だったことから、新橋と大正から1字ずつとって屋号にしたといます。
この新正堂が店を構える場所(東京都港区新橋4丁目)は、かつて「田村町」といいました。町名の由来は、仙台藩伊達家の分家にあたる、田村右京大夫(仙台岩沼藩主のち一関藩主)の屋敷があったことから。
このお屋敷、1701(元禄14)年に浅野内匠頭が刃傷事件の後に身柄を預けられ、切腹した現場なのです。新正堂から少し離れた日比谷通り沿いには、1940(昭和15)年に建てられた「浅野内匠頭終焉之地」という石碑があります。
このことにちなんで誕生したのが「切腹最中」。新正堂の店頭には、切腹最中のぬいぐるみも展示されています。
価格は1個230円(税込)。オンライン通販もありますが、1個ずつの単品販売は新橋の店頭のみとなっています。また、秋から冬の季節限定で栗の切腹最中も販売されているため、今回は通常のを5個と栗を5個の計10個を購入してみました。
大きく口を開けた最中皮の間から、大きくはみ出た餡が特徴の切腹最中。上から見ると、最中は梅花の形をしていることが分かります。
2つに切って中を見てみると、餡の中に大きな求肥が入っていることが分かります。餡だけだとつぶれてしまいがちですが、求肥があることで形が整っているわけですね。
口にしてみると、パリッとした最中皮は、米の香ばしい香り。餡はそれほど重くなく、すっきりと澄んだ甘さが特徴です。グラニュー糖のような、純度の高い砂糖を使っているようですね。
求肥の食感ももっちりとして、ちょうど良い固さとボリューム。栗の方は、小さくカットされた栗が餡に混ぜ込まれています。
甘みがしつこく残らないこともあって、1個といわず続けて手を伸ばしやすい感じ。緑茶も良いですが、最中皮の香ばしさから、ほうじ茶とも相性が良いように感じられます。甘いものは心を落ち着かせるといいますから、これを食べていれば浅野内匠頭も刃傷に及ばなかったのかも……と思ってしまいました。
(咲村珠樹)