先日、ネットで「オレンジを、だいだい色と言う人は、昭和の人ですか?」という質問を見かけました。

 回答にも「久しぶりに聞いた」や、もう昭和生まれでも言わないという声があり、今ではすっかり忘れられている様子。これを機会に、色の和名とカタカナ名の関係を探ってみました。

 オレンジ(だいだい)色は、英語ではオレンジ、日本語では同じ柑橘類のダイダイの果皮から命名されたもの。どちらも同じように柑橘類から色名が取られているのは珍しく、ちょっと興味深いですね。

 ダイダイは長期間実をつけること、また名前を「代々」と重ね合わせて、鏡餅の上にのせて代々重ねて家が繁栄しますように、と願いを込める縁起物で知られます。また、青い未熟果の果汁は香りと酸味があり、「だいだい酢」としてポン酢と同じように料理に使われます。

 筆者の場合、実家の庭にダイダイの木があるので見慣れていますが、オレンジと違って一般的に出回る果物ではなく、見たことがない、という方も少なくないでしょう。鏡餅にのせるのも、通常の温州みかんで代用するご家庭が多いようです。

 赤はそれほど「レッド」とは呼ばれませんが、サバという漢字(鯖)を「さかなへんにブルー」と表現した有名人もいるように、青は比較的「ブルー」と呼ばれやすい印象。しかしこの場合も「青い」や「青みがかる」という表現では、ブルーではなく和名が使われています。

 青(ブルー)と同じく「グリーン」と呼ばれることが多くなった緑は、昔の日本では「青」と同一視されていました。今でも英語での「Green Signal」を「青信号」と言ったり、「草が『青々と』茂る」と表現していますね。

 白と黒も、比較的「ホワイト」「ブラック」と表現される機会が増えてきたように感じます。色白にすることを「ホワイトニング」と表現する美容分野や、色の印象から派生した「ホワイト企業/ブラック企業」などのように、イメージを託すには和名より、英語のカタカナ表現が使われやすいようです。

 金と銀ではどうでしょう。「ゴールド」よりも「金」、逆に「銀」では「シルバー」を使うことが多いような気がします。「きん」と「ぎん」で発音が紛らわしいため、片方を英語表現にしているケースもあるのかも。

 カタカナ色名で区別がつきにくいのは「ベージュ」と「カーキ」。どちらも黄褐色系の色ですが、ベージュはフランス語で「生成りの毛織物」を指し、英語のカーキはヒンディー語やペルシャ語の「土ぼこり」が語源。同じ色であっても、一般的な服飾では「ベージュ」、ミリタリーテイストの場合は「カーキ」を使うことが多いようです。

 逆に、カタカナ表現より和名で呼ばれることの多いのが、車の色。それこそたくさんの色味があり、それぞれに「ピュアホワイト」や「カーマインレッド」、「オーロラフレアブルーパール」などといった名前がつけられていますが、正式な色名より「白」「赤」「青」と表現される方が圧倒的なようです。

 なぜ色によって和名とカタカナ名、どちらかが優勢になるのかは不明ですが、単純に耳にする頻度だけではないような気もします。使われる場面やイメージによって、何らかの形で無意識に選択しているのかもしれません。

 あまり知られてはいませんが、色の和名は「東雲(しののめ)色=朝焼け雲の色」や「勿忘草(わすれなぐさ)色=ワスレナグサの花のような青」など、語源をともなった素敵な名前が数多くあります。色の和名を調べ、なぜそういう名前になったのか、知ってみるのも楽しいと思いますよ。

(咲村珠樹)