刺繍というと布の上に平面的な絵柄というイメージですが、PieniSieniさんが手がけるのは周囲に布がなく、立体で表現される独創的なもの。今にも動き出しそうなリアルな昆虫や植物など、刺繍のイメージを覆される作品について、話をうかがいました。

 マイホームを建てたことをきっかけに、家の中のベッドカバーやカーテンを制作していたというPieniSieniさん。やがて誰かに作品を見てもらいたいと、ブログやSNSのほか、ハンドメイドコミュニティサイト「アトリエ」で作品やレシピをアップするようになったといいます。

 最初は身近にあるフェルトを使い、簡単に作れるお花などのレシピを紹介していたそうですが、続けていくうち作品が単調になってきたと感じ、フェルトに刺繍を施すなど装飾を加えるようになったのが2013年ごろのこと。技法を研究していくうち「いつの間にか我流の立体刺繍になりました」と語ってくれました。

 PieniSieniさんの立体刺繍は、刺繍の必需品である枠(フープ)を使わない「オフフープ(R)」という独自の技法が使われています。裁断済みのフェルトを土台にし、それを包むように刺繍を施していくため外部からは刺繍糸しか見えず、厚みのある存在感が作品の特徴。

ウツボカズラをモチーフにした立体刺繍作品(PieniSieniさん提供)

 作品のモチーフは花や昆虫、そしてキノコが多いそうです。花はお母様が好きだったことから、自然と作るように。しかし花は「静」のイメージがあり、対照的な「動」のイメージで昆虫を作るようになったのだとか。

セミの羽化をモチーフにした立体刺繍作品(PieniSieniさん提供)

 「昆虫は『動』のイメージで作品に躍動感が生まれます。つまり『どこから来たのだろう?』『これからどうなるのだろう?』『そこに何があるのだろう?』と作品を見て下さった方々の想像力を刺激するモチーフだと考えています。これにより昆虫を取り込んだ作品は、人を惹きつける力があると感じています」

威嚇するカマキリをモチーフにした立体刺繍作品(PieniSieniさん提供)

 作品作りには、どれくらいの時間がかかるのでしょう。例としてオニヤンマ(横約14cm×縦約9.5cm、フレーム直径20.5cm)での場合を教えてもらいましたが、7色ほどの刺繍糸を使い、3〜4日の制作期間だそう。広げた翅は金属で自作したものを使っています。

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 キノコもPieniSieniさんが好んで作るモチーフ。名前の「PieniSieni(ピエニシエニ)」はフィンランド語で「小さいキノコ」という意味だそうで、そんなところにもキノコ好きな一面がうかがえます。

2022年秋の展示会でメインビジュアルとなった立体刺繍作品(PieniSieniさん提供)

 PieniSieniさんは立体刺繍に関する著書のほか、2017年に「日本フェルタート(R)協会」を設立し、立体刺繍の普及活動もしています。2023年1月からは手芸用品店のクラフトハートトーカイ各店舗で、ヴォーグ学園オンラインレッスン「はじめて作る立体刺繍のお花アクセサリー」が開講されるほか、3月にはお子様向けのワークショップも実施予定なのだとか。

 PieniSieniさんの立体刺繍作品はTwitterのほか、Instagram(pienikorvasieni)や公式サイト「PieniSieni」で見ることができます。公式サイトには立体刺繍講座や展示会の出展情報も掲載されているので、興味を抱いた方はチェックしておくとよいかもしれません。

<記事化協力>
PieniSieniさん(@kippermum)

(咲村珠樹)