生まれも育ちも鹿児島の筆者が、都会に行くと驚くことがたくさんあります。前職では定期的に東京を訪れる機会がありましたが、毎回のようにびっくりしていたのが、「エスカレーターを歩く人の多さ」です。
そもそも階段を歩くのが辛いから、自動で階層を行き来出来るエスカレーターに乗っているのに、それじゃ意味なくない?と何度思ったことか。みんな何をそんなに急いでいるのでしょうか……。
■ 田舎の人が思う都会における謎マナー「エスカレーターは片方に寄って乗る」
地元の駅やショッピングモールでもエスカレーターの利用者は多いですが、歩いて昇り降りする人はほとんど見かけません。一方都会はというと、デパートや駅などエスカレーターがあれば必ず歩いている人を目にします。このため「都会の人は何かとせっかちな人が多いのかな」と感じることが多々ありました。
驚くことに、そんな人たちのために、エスカレーターを利用する際は「左側に寄って乗る(右側は空けて後から来る人を通す用)」なんて謎のマナーも。なお、東京では左に立つ場合がほとんどですが大阪など右に立つ地域もあります。
余談ですが、むかし大阪にもよく出張していたときのこと。大阪のデパートなどあちこちにあるエスカレーターでは右に立つ人が多かったものの、新大阪の新幹線改札内に入ると今度はみんな左立ちに。しかし次に訪れたときは、右立ちに。恐らくその場にいる人の属性の偏り(大阪の人が多いか東京の人が多いか)によって、新幹線改札内エスカレーターのルールは揺らいでいた模様。とはいえ、当時の観察の結果は左の方がやや多かったです。
この「片側空けて立つ」というのを日本ではじめたのは、斗鬼正一さん著の「エスカレーター片側空けという異文化と日本人のアイデンティティ」によると、阪急電鉄の呼びかけ。このときは右立ち推奨だったそうです。その後自然と各地に広まり、東京では左立ちに。
■ エスカレーターを歩くのは禁止行為
はじまりは「急いでいる人のために片側を空ける」という思いやりからの行為でしたが、近年では禁止する動きが強くなっています。当然ながら、いくら片側に寄っているとはいえ、歩いて昇り降りすることで人と衝突したり、つまずいて転倒したりと、さまざまなリスクがあるからです。
エスカレーター付近で、ポスターの掲示や音声放送を通じて、歩かないように注意が呼びかけられているほか、一般社団法人日本エレベーター協会のHPでは、エスカレーター上の歩行は「危険」「禁止」と記されています。つまり田舎や都会といった土地柄は関係なく、エスカレーターは明確に「歩いて利用してはいけない場所」なのです。
また、片側に寄って乗ったり、歩行したりすることで、製造時に想定しない負荷がかかり、故障を引き起こしたり、部品の交換時期が早くなる、といったトラブルの原因にも。運用保全やメンテナンスを行う業者に対しても、大変迷惑がかかる行為です。
エスカレーターを利用する際はステップの中央かつ黄色い線の内側に乗って、安全に利用するようにしましょう。
■ 空港などの「動く歩道」も歩くためのものではない
ちなみに、空港などに設置されている、「動く歩道」こと「オートウォーク(ムービングウォーク)」においても同様に「歩かない」ことが推奨されています。
これは本来重たい荷物を運ぶのが大変だったり、子ども連れ、年配の方の移動を補助するために設置されているもの。広い空港内を行き来するのは確かに大変ではありますが、早く移動することを目的に、歩いて利用することがないようにしましょう。
<参考>
江戸川大学「エスカレーター片側空けという異文化と日本人のアイデンティティ」
一般社団法人日本エレベーター協会「エスカレーターを安全、快適にご利用いただくために」
(山口弘剛)