今回ご紹介するのは昭和62年に放送が開始されたテレビアニメ『ミスター味っ子』です。
本作は、主人公・味吉陽一(声・高山みなみ)が、悪の料理人グループである味将軍グループと味勝負を繰り広げる番組です。味将軍グループは、個人経営の飲食店を強引な手法で廃業に追い込み、グループに所属する料理人の店の勢力を広げようとするグループで、それに対するのが、陽一が属する味皇料理界というグループでした。
そんな中、第74話「日本一のスキヤキ勝負!思い出の味を探せ」で、衝撃の事実が判明します。何と、味皇(声・藤本譲)と味将軍(声・銀河万丈)は兄弟だったのです。
その昔、味皇(本名・村田源二郎)と味将軍(本名・村田源三郎)は、長兄・源一郎(声・小林清志)と3人で村田食堂という店を営んでいました。
そして、戦後間もない頃、腹を空かした子供達が辺りには沢山おり、村田食堂は、子供達に食べ物を分け与えていたのです。このことが、後の味皇と味将軍の歩みを決定付けました。
味皇は、心のこもった料理を振る舞うことが大事だと考えたのに対し、味将軍は、量が多いことが大事だと考えるようになったのです。
その結果、味将軍は量に固執するあまり、料理に心を込めることを忘れてしまったのです。この味将軍の態度に対し、味皇は、「お前が間違っていた訳ではない」と語りかけます。確かに、食べ物が乏しい時代の人にとっては、食べ物を沢山食べることが、何よりも嬉しかったに違いありません。しかし、心を置き去りにし、量のみを追い求めた味将軍の考えは、まるで戦後日本のあり方そのもののようでありました。
味将軍が、心を置き去りにしていたことに気付き、態度を改めたのは、戦後40年以上も経ってからでした。果たして、それは遅過ぎたのか。それとも、遅くはなかったのか。そして、現実の日本はどうなのか。現実の日本人は心の豊かさを取り戻したのか。昭和62年と言えばバブル景気が始まった年であり、そういう点でも『ミスター味っ子』は、実に考えさせられる作品でした。そして筆者は、『ミスター味っ子』の主人公は村田兄弟だと信じて疑わないのです。
(文:コートク)