2018年9月11日に種子島宇宙センターから打ち上げられる、JAXAの国際宇宙ステーション補給機「こうのとり7号機(HTV7)」。有人宇宙船開発にも役立つJAXA独自のサンプル回収カプセル(HSRC)や、日本のGSユアサが製造したリチウムイオン電池、そして食料や水が搭載されています。このほかにも大型実験ラックが搭載されているのですが、そのうちの一つは、欧州宇宙機関(ESA)の新しい生命維持装置です。
2018年9月11日の7時32分(日本時間)に、種子島宇宙センターからH-IIBロケット7号機で打ち上げ予定の国際宇宙ステーション(ISS)補給機「こうのとり7号機(HTV-7)」。搭載品は過去最多・最重量となる大型実験ラック4台、ISSの運用に欠かせないバッテリー(現在のニッケル水素電池からリチウムイオン電池へ交換)、生鮮食料品や水のほか、JAXAの小型回収カプセル(HSRC)、JAXAが2021年にH3ロケットで打ち上げ予定の人工衛星に使用する排熱システムの実験装置、そして九州産業大学とシンガポール大学が開発した「SPATIUM-I」、日本の一般サラリーマン有志によって結成された一般社団法人リーマンサットスペーシズが開発した「RSP-00」、静岡大学が開発した「STARS-Me」という3機の超小型衛星(CubeSat)などが搭載されています。
日本として気になるのは、将来の有人宇宙船開発につながる大気圏再突入技術を磨く、HTV搭載小型回収カプセル(HSRC)や、日本製のISS用バッテリーでしょうか。変わったところでは、一般のサラリーマン有志が集まって開発した超小型衛星、リーマンサットこと「RSP-00」も面白い取り組みです。
大きなものといえば、今回過去最多・最重量となる4台の大型実験ラック(アメリカ3台・ヨーロッパ1台)。このうちヨーロッパ、欧州宇宙機関(ESA)の実験ラックとして搭載されるのは、将来型の生命維持システムです。先進閉鎖系システム(ACLS)と名付けられたこの実験ラックは、有人宇宙船で最大の課題となる水と空気の問題を現在より効率よく解決するための実験を行う装置です。
有人宇宙船でもっとも気にしている生命維持の指標は、二酸化炭素濃度。ISS内の空気は、もともと地球の大気組成よりも二酸化炭素濃度の多い状態ですが、それでも許容される濃度は最大0.4%まで。これ以上になると脳機能に障害を負う可能性が高まります。このため、いかに二酸化炭素濃度を下げるかが重要です。
これまでの手法では、多くの場合フィルターを使って二酸化炭素を吸着し、外へ排出する方式がとられていました。そして酸素は、水を電気分解することで得ています(副産物の水素は外へ排出されます)。しかしこれは、地球からの補給が簡単に受けられる地球周回軌道だからできること。将来の火星探査や月面基地など、ひんぱんに補給が受けられない計画では、持ち込む水の量は膨大になってしまい、現実的な方法ではありません。
今回、ESAの委託を受けてエアバスが製造したACLSという生命維持装置は、「閉鎖系」という名の通り、一種のリサイクルシステムを用いたものです。二酸化炭素を吸着する働きのあるアミン樹脂のフィルターで二酸化炭素を分離し、今度は「サバティエ反応」という化学反応の一種で、水から酸素を取り出す際にできた水素と二酸化炭素を反応させて、触媒を用いてメタンガスと水を作ります。
水はそのまま飲料水や、また電気分解して酸素を作る原料となります。メタンガスは熱分解することで水素と少量の炭素(熱分解炭素)へ。炭素は個体なので、人間が定期的に掃除すれば大丈夫。ほとんどのものはリサイクルすることができます。この方法ならば、大量の水を持ち込まなくても長期間酸素や二酸化炭素、そして水の問題をクリアできるというわけです。
現在の予定では、9月11日に打ち上げられたこうのとり7号機は、日本時間9月14日の20時ごろにISSに結合され、宇宙飛行士による「荷ほどき」がされることになっています。そして、ACLSはドイツのアレクサンダー・ゲルスト宇宙飛行士(JAXAの油井亀美也、大西卓哉、金井宣茂の各宇宙飛行士と同期生)によって、11月2日にアメリカの実験モジュール「ディスティニー」内に据え付けられる予定。その後はドイツにある地上管制センターで、設計通り水から酸素を作って空気から二酸化炭素を回収し……というサイクルが順調に行われるかを確認することになっています。
ACLSの実験は、2019年末まで行われる予定。これがうまくいけば、火星への有人飛行がまた一つ現実味を帯びてくることになります。
(咲村珠樹)