ノミネート作品を一般募集し、SNSを巻き込んだ一般投票を行う、文字通り「今、ファンが一番支持している作品」を決定するWEBマンガのナンバーワン決定戦、「WEBマンガ総選挙2018」(主催:ピクシブ株式会社/日本出版販売株式会社)の結果が2018年9月13日発表されました。
熱い支持を受けて第1位に輝いたのは、一二三さん作「四十七大戦」。日本の47都道府県を象徴するご当地神「ゆる神」たちが首都の座を巡って勝負を繰り広げ、最終的に鳥取が勝利するまでの戦いを振り返っていく……というこの作品。作者の一二三さんに、受賞の喜びと作品の裏側について、お話を伺いました。
都道府県や各地方の県民性や特産物といった個性を反映した「ゆる神」たちが、それぞれの地方のアピールポイントとなる武器や技を繰り出して戦うバトルを描く「四十七大戦」。また、バトルシーン以外でも、その土地を知っている人なら「あるある!」と思わせてくれる言動や、ちょっとした所に隠された県民ネタ(福岡さんの登場回で、福岡さんが福岡県久留米市の会社が作るアイス「あいすまんじゅう」を、一緒にいる佐賀さんが佐賀県小城市の会社が作るアイス「ブラックモンブラン」を食べていたり)にも注目です。
そんな、それぞれの「地元愛」が散りばめられた「四十七大戦」。作者の一二三さんに、第1位になった心境と作品づくりの裏側をうかがいました。
47都道府県に1柱ずつ存在するご当地神「ゆる神」。彼らが首都の座を争い、鳥取が勝利するまでの道のりを描くWEBマンガ作品「四十七大戦」(作:一二三/アース・スター エンターテイメント)。一般からノミネート作品を募集し、SNSも駆使しながら幅広く一般から投票してもらって、今一番ファンに支持されている作品を決定する「WEBマンガ総選挙2018」で、みごと第1位に輝きました。これを記念して、作者の一二三さんにインタビューを行いました。
――「WEBマンガ総選挙2018」第1位おめでとうございます!受賞を聞いた時のお気持ちを聞かせていただけますか?
去年この総選挙にノミネートされた時は圏外だったので1年での変化に私も驚いています。編集部の協力も含め、これまでの積み重ねが結果に繋がったと思うので、そこは素直に嬉しかったです。受賞の知らせは担当さんからのメールで知ったんですけれども、しばらく放心してました(笑)。中間発表で2位だったのもあり、最終的に(コラボカフェの開催権などがある)3位以内には入ろうと気を張っていたので、安心したというのが大きかったんですけれども。一番の理由は、前回私は10位以内にも入らない圏外だったうえに当時の一位作品の得票数が桁違いだったので、ノミネート時から「1位はさすがに無理だろう」みたいな感覚があったんです。なので「まさか獲るとは」という驚きと、それだけ熱心に投票してくださった方がいるという事実に「今後は、今まで以上に生半可な気持ちでは書けないな」という身が引き締まるような感覚がすごかったです。
――ご自身にとっても、去年の結果からの大躍進は、いい刺激と緊張感になっていたんですね。
そうですね。特にこの総選挙は投票したあとシェア機能でつぶやく方が多くて、ある程度投票が可視化されるので刺激も緊張感もすごかったです。
――SNS時代ならではですね……ちなみに、第1位受賞までにどういう仕掛けをされたりしたんでしょうか? 以前、書店での注文書がネットで話題になり、私たちも記事として取り上げたことがありましたが。
【拡散希望】「本が書店になければ予約・取寄して下さい」という状況で作者・読者ともにストレスフリーになれるフォーマットを作りました。加工・二次配布フリーなので宣伝をしたい作家さんは是非ご利用下さい。一般の方も、作家さんが取り寄せを求める呟きをしていたら是非教えてあげてください。 pic.twitter.com/AWj0vKNBdX
— 一二三@四十七大戦+ (@hifumix_0123) January 10, 2018
その節はありがとうございました……! この作品はずっと編集部や営業さんと一体になって色々なことを試してきていたので、それらが今回上手くかみ合った感じはあります。一番のきっかけはLINEスタンプのSNS企画ですね。他のノミネート作の方が「〇位以内に入ったら○○を描く」みたいな公約を掲げられていて、担当さんにこういうことができないかと提案したんです。それで、「10位以内に入ったらLINEスタンプ製作」「投票完了のツイートにキャラクター名を併記してもらって、票が多かった上位5位のキャラを書き下ろしスタンプにする」という企画を始めました。その時に「書店でもらえるシリアルナンバー付き投票券は(LINEスタンプ投票では)5票分に換算する」というルールも付けたことで、投票券で積極的に投票してくださる方が増えてブーストがかかった気がします。ただこれは担当さんが試しに買ってみたところ、ついてこないことも多かったらしいので……。書店でついてこなかった時に「ください」と言うのは勇気がいると思うんですけど、この漫画1巻の頃から予約票を配布して予約してもらうよう呼び掛けていたので、読者の方も行動力がかなり鍛えられていたのは大きいと思っています。予約はまだ浸透していなくて、書店に拒否されることも多いので、それでも手に入れようと熱心に頑張ってきてくださった皆さんには頭の下がる思いです。
※編集部注)2018年の「WEBマンガ総選挙」では、SNSアカウントをつかって1日1回1ポイントが投票できたほか、対象書店で書籍を購入すると一気に10ポイント投票できるシリアルナンバー投票券が配布されていました。また、書店ごとになくなり次第終了だったため、入手できなかった場合もあります。
――それはすごく楽しい企画ですね! ファンにとってもキャラ投票みたいな感覚で楽しめますし、実現したらみんなが嬉しいと思います。
ありがとうございます!前々から単行本が出るたびに、編集部と作者で読者参加型のSNS企画をやってきていて、担当さんも運営にある程度経験値が溜まっていましたし、読者の方が一番盛り上がってもらえるのは何か、というのもしっかり共有されていたんですね。この投票券は、去年は一枚3ptだったのが今年10ptになっていたので、運営もSNSでの知名度以外の評価軸が欲しいんだろうと察して活用させていただきました。結果として、SNSとリアルとの相乗効果が出たという感じでした。
――ここからは作品の内容についてお伺いします。鳥取県を主人公……つまり鳥取が首都になるとした理由は?
最初に担当さんから「なんでもいいからイメージボードとして映画のポスターっぽいものを描いてみて」といわれ「スタバの数で争う」という一枚絵ネタを描いたのが始まりです。「スナバのある鳥取に最後のスタバができた」というのが少し前に話題になっていたので、鳥取のキャラクターを中心に据えて壮大なシュールギャグ調でラフを描きました。
――最後にスタバができたから鳥取(笑)
深夜のノリでしたし、シュールに笑わせられたらいいなという程度でした(笑)
――だから審判(レフェリー)が「スタベちゃん」なんですね。ということは、スタバ最後の地が別の土地だったら、そこが主人公になった可能性も?
ラフの段階ではそうだったかもしれません。ただそのあとに「地方創生」というテーマを交えて本格的に作る上で、他の県にしてもいいのでは、という話も結構出まして。それで改めて調べていったら、鳥取は予算や人手が少ないぶん、発想の力で色々挑戦的なことをやっているところが、面白いと同時に主人公っぽいなとなったので、改めて主人公になった経緯があります。なので、最初のノリはもちろんきっかけでしたが、それだけではなかったです。
――ちなみに先生ご自身は鳥取出身とか、鳥取にゆかりがあったりとかは?
私の出身は太平洋のエロマンガ島の隣にある「ギャグマンガ島」という孤島なので、基本的にどの県にもゆかりはありませんね。地域ネタの大げさなイジりも全県まんべんなくやろうと思ってます。
――これ、そのまま使わせていただきますよ?(笑)
よろしくお願いします(笑)
――このように作品を描き進めていく上で、各都道府県について新たに知った点などはありますか?
特定の県ではないんですが、繋がりの深い県の組み合わせに「気が強い県+おとなしい県」みたいな真逆の性格の組み合わせが多いのは面白いです。厳格な鹿児島とのんびりした宮崎、プライドが高い京都と自己アピールの強くない滋賀、みたいな。
――私は宮崎出身ですが、確かに宮崎は九州の他の県に比べて自己主張が少ないですね……鹿児島、熊本、大分と、キャラの立った(名物の多い)県が周りにあるから、影が薄くなるのかもしれませんけど(苦笑)。
学生時代に暗記で覚えていたころは分かりませんでしたが、やはり県同士の繋がりには個性やキャラクター性を感じる瞬間が多いので、そこが魅力的でつい描きたくなってしまいますね。
――キャラとして、動かしやすい県はありますか?
基本はコメディなので、主人公の鳥取さんを除くと場を明るくしてくれるキャラクターが描いていて楽しいですね。特に大阪さん、長崎さん、沖縄さん、三重さんあたりでしょうか。逆に鹿児島さんや愛知さんみたいにそうそうボケてくれなさそうなキャラクターは試行錯誤が多いです。愛知さんは今後色々新しい面が描けると思うんですが、まだタイミングではないので……。
――愛知さんというと、姿は「名古屋嬢」を反映してるようで、そして少しだけ、地元で「山」と呼ばれる喫茶「マウンテン」の小倉抹茶スパが出てきたりと、その強烈な個性がチラ見せされてますが、それは今後楽しみですね。
ありがとうございます! それでも基本的にはどの県も元の個性が強いので描きがいは大きいです。
――実際にその県に足を運んで取材されることもあるそうですが、その際に注目しているポイントみたいなものはありますか? 福岡さんと佐賀さんの初登場回で「あいすまんじゅう」と「ブラックモンブラン」が出ていて、よく見てるなぁと思ったのですが。
ページ数が少ないと代表的な土産物を描いておしまいになりがちなぶん、細かいところに頑張って入れているので見て頂けてうれしいです(笑)。基本的には普通の観光と同じなんですが、合間でコンビニやスーパーの品ぞろえなどをチェックして、その地域の「生活」にも目を向けようとは思っています。あとは市街地の区画とか建築とか、車の運転の荒さなんかも毎回確認していますね(笑)。意外と地味なところの方がネタが多くて面白いです。
――私も旅先でよくスーパーに立ち寄って、品揃えの違いを見たり、街並みの特徴や中高生の制服の着こなしに出る地方性を楽しむ趣味があるんですが、なんとなく判ります。車の運転も県民性が表れるんでしょうか?
県民性かは分かりませんが、西に行くほど運転が激しくなる傾向はある気がします。東京みたいな道路が狭くて密集しているところと比べると、道路が走りやすくてスピードが出しやすいなどそういう影響もあるかもしれません。実際佐賀の方は「平野で道が真っすぐだから飛ばしやすい」ということをおっしゃってました。
※編集部注)九州最大の平野である筑紫平野は佐賀県の総面積の1/3を占め、そこに佐賀県の人口の半分が集中している。
――このように、各都道府県の特徴をキャラとして造形する際、気をつけている点などはありますか?
熱心な方だと結構細かい造形まで見て下さるんですが、やはりライトな読者の方は流し読みもあると思うので「ぱっと見でキャラが伝わるかどうか」を一番大事にしています。佐賀さんだったら「寡黙」、愛媛さんだったら「おっとり」というふうに。そういうざっくりしたイメージには、かなり取材や今まで出会ってきた人の影響が入ると思います。ただしぱっと見だけだと、やはり「その県」らしさが薄くなりがちなので、細かい部分に地域ネタを入れていることも多いです。ページ数的にいつも調べたネタが入りきらないので、さりげない小ネタで主張しているところはあります(笑)
――読者としては、読み返すたびに気づくネタが増えて、その場所に行った時に確かめたくなります(笑)。さて、そろそろ締めの質問に入りたいと思います。まずは今回の「WEBマンガ総選挙2018」第1位について、ファンの方にメッセージをお願いします!
この度は本当に熱い応援ありがとうございました! 作者も思い描いていなかったところに作品を連れていけたのは、ひとえに皆さんの投票と声援のお陰です。今まで支えていただいた分、これからもっと作品を盛り上げていきますので、今後ともよろしくお願いします!
――最後に、これからの展開について、お話しできる範囲で聞かせていただけますか。例えば「次回予告風」に。
とりあえず次回北海道の回なので、「ついに対戦は東日本に突入!かと思いきや、今まで静観していたあの地域がついに…!?」という感じでしょうか。今のところの予定ですが。
――沖縄から一気に北海道……一番広い上、様々な独自性を持った地域ですし、期せずしてとんでもない災害に見舞われた場所ですから、どのように表現されるのか、楽しみにしたいと思います。今日はありがとうございました!
ありがとうございました。これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!
(インタビュー:宮崎美和子/咲村珠樹)