おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

日本近海で民間船と衝突したアメリカ駆逐艦 船体の修理を終え2年ぶりに海へ

 2017年6月17日未明に静岡県沖でフィリピン船籍のコンテナ船と衝突し、船体に大きなダメージを負ったアメリカ海軍のミサイル駆逐艦フィッツジェラルド(DDG-62)。アメリカ本土ミシシッピ州パスカグーラにあるハンティントン・インガルス造船所で船体修理工事を行なっていましたが、2019年4月16日(現地時間)にドライドックから出渠。およそ2年ぶりにその姿を海に浮かべました。

  •  フィッツジェラルドは2017年の6月17日未明、静岡県沖を航行中にフィリピン船籍のコンテナ船ACX クリスタルと衝突し、右舷前方の居住区画や通信・機械室が大きく損傷し、浸水しました。この事故で、損傷した居住区画に閉じ込められた乗組員が死亡したほか、艦長室にいた当時の艦長ベンソン中佐らが負傷しています。

     フィッツジェラルドは事故後、しばらくの間は自力で横須賀へ向かっていましたが、最終的に2隻のタグボートに曳航されて横須賀へ帰着。海難審判に必要な損傷部分の確認と、応急修理を行ったのち、ドック型運搬船に載せられてアメリカ本土へと回航されました。

     この時撮影された写真を見ると、貨物船の船首が押しつぶした艦橋構造物や、破壊されたイージスシステムの「目」となるAN/SPY-1レーダーが痛々しさを感じさせます。さらに、貨物船のバルバスバウ(球状船首)が突き刺さった喫水線下の様子を艦内から撮影した写真は、居住区画が押しつぶされた無残なもの。突出したバルバスバウが、ちょうど昔の軍船についていた体当たり攻撃用の衝角(ラム)のような役割を果たしていたのです。




     アメリカ本土へ移されたフィッツジェラルドは2018年1月19日、ミシシッピ州パスカグーラにあるハンティントン・インガルス造船所のドライドックへ入渠。破壊された船体と上部構造物の修復工事に入りました。

     そして1年あまりの歳月を費やして、船体の修復が終了。事故以来、およそ2年ぶりにその身を海に浮かべたのです。海軍海上システムコマンドから出されたステートメントによれば、損傷したレーダーをはじめとしたイージスシステムなど電子戦システムを新しいものに入れ替え、同時に新しい造船手法による近代化策も適用したとしています。

     海軍水上戦隊の副司令官であるジム・ドーニー少将は「この修復作業は非常にチャレンジングなものでした。我々の計画チームは、建造したバス鉄工所で綿密な計画を練り、実際に作業に当たったチームも素晴らしい働きをして、修復だけでなく近代化改修も行うことができました。フィッツジェラルドを乗組員のもとに返し、高い戦闘力を提供できる状態にでき、ホッとしています。船を水上に戻せたことで、これから各部の動作試験や、乗組員たちの能力回復訓練が始まることを楽しみにしています」と、フィッツジェラルドの修復作業について語っています。

     フィッツジェラルド修復にかかった予算総額はまだ明らかになっていませんが、2017年末にアメリカ海軍が海軍研究所に対して明らかにした額では、約3億2700万ドルとされています。

     事故後にフィッツジェラルド艦長に就任したギャレット・ミラー中佐は「ドックから出たというのは一歩前進であり、我々乗組員がフィッツジェラルドを元いた場所――海へ返す日が近づいたということを意味します。これまでおよそ1年にわたって乗組員たちは厳しい訓練を続けてきましたし、艦隊に復帰してその戦闘力をフルに発揮できることを誇りに思います」とコメントしています。

     フィッツジェラルドはこれから修理後の各種試験を経て、艦隊に復帰することになります。横須賀へ帰ってくるのも、そう遠くではないでしょう。

    Image:U.S.Navy

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 弾道ミサイル対処訓練を行う護衛艦あたごの乗組員(画像:海上自衛隊)
    宇宙・航空

    弾道ミサイルに対処する日米共同訓練「レジリエント・シールド2023」

  • 横浜の「動くガンダム」前で再入隊の宣誓をするラビーチ2等兵曹(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    ガンダムの前で服務の宣誓!意外と自由なアメリカ海軍の再入隊式

  • ずらりと並んだF/A-18E/FとEA-18G(78式組長さん提供)
    インターネット, おもしろ

    増えも増えたり50機あまり スーパーホーネットとグラウラーのプラモ飛行隊

  • 並走するフランス・イタリア・アメリカの空母(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    アメリカ・フランス・イタリアの空母部隊 地中海で共同訓練

  • 開会式の記念写真右から3人目が海上自衛隊の野口1佐(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    日本を含む60か国が参加 中東で最大規模の海軍共同訓練始まる

  • トンガとの友情を見せるラグビーボールを示す航空自衛官(画像:Commonwealth of Australia)
    宇宙・航空

    火山災害のトンガ 自衛隊や各国軍による救援活動が進む

  • チュニジア海軍と訓練中の空母ハリー・S・トルーマン(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    NATO艦隊が地中海で共同演習を開始 冷戦後初めてアメリカ空母も参加

  • サンディエゴを出港する空母エイブラハム・リンカーン(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    空母エイブラハム・リンカーン 東太平洋地域へ展開

  • 空母ジョージ・H・W・ブッシュ艦上のMQ-25(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    アメリカ海軍の無人空中給油機MQ-25 初めての空母運用試験終了

  • ポートランドから照射されるレーザー(画像:U.S.Navy)
    宇宙・航空

    アメリカ海軍 中東アデン湾でレーザー兵器の実射試験を実施

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 新作ゲーム「裏バイト:逃亡禁止 たつ子の謎」
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    「裏バイト:逃亡禁止」の恐怖をゲームで 小学館がマダミス「たつ子の謎」を11月配…

  • 新物板うに手巻きセット(5貫分)
    商品・物販, 経済

    くら寿司、旬の「新物うに」登場 板うに手巻きセットや北海たこうにも販売

  • 無印良品、大盛りカレーを拡充 和出汁仕立てと香味野菜デミグラス登場
    商品・物販, 経済

    無印良品、大盛りカレーを拡充 和出汁仕立てと香味野菜デミグラス登場

  • OpenAI、新動画生成モデル「Sora 2」発表 アプリで“カメオ出演”も可能に
    インターネット, サービス・テクノロジー

    OpenAI、新動画生成モデル「Sora 2」発表 アプリで“カメオ出演”も可能…

  • 将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕
    ゲーム, ニュース・話題

    将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

  • 綾瀬はるか出演CMで新商品「ハピネスミスト」デビュー 洗えない布製品に5つ星ホテルの香り
    商品・物販, 経済

    綾瀬はるか出演CMで新商品「ハピネスミスト」デビュー 洗えない布製品に5つ星ホテ…

  • トピックス

    1. 「フツーの人」と「デブ」の食意識の違いをイラストで可視化 あなたはどっち?

      「フツーの人」と「デブ」の食意識の違いをイラストで可視化 あなたはどっち?

      「もしかして、フツーの人っておなか空いてる時以外おなか空いてないの?」そんな衝撃の(?)問いかけとと…
    2. コーヒーにごま油……!?かどや公式のちょい足しアレンジを試してみた

      コーヒーにごま油……!?かどや公式のちょい足しアレンジを試してみた

      10月1日は「コーヒーの日」。そんな記念日に合わせて、かどや製油公式Xが提案してきたのは……まさかの…
    3. 「えもじの子(仮)」

      LINEの人気キャラ「えもじの子(仮)」が有料で復活 一部未収録に完全復活を望む声も

      つぶらな瞳ととぼけた表情で人気を集めたLINE絵文字「えもじの子(仮)」の無料配布版が10月1日、有…

    編集部おすすめ

    1. フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

      フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

      「みんなの75点より、誰かの120点」を合言葉にドン・キホーテが展開している偏愛メシシリーズ。10月1日に「本当にこの組み合わせが好きな人が…
    2. 将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

      将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

      オンライン将棋対局サービス「将棋倶楽部24」が、2025年12月31日をもって終了することが発表された。運営する席主の久米宏氏が10月1日付…
    3. pium、“カスハラ声明”きっかけに炎上 接客批判受け謝罪と改善策

      pium、“カスハラ声明”きっかけに炎上 接客批判受け謝罪と改善策

      アパレルブランド「pium」が9月30日、店舗スタッフの接客に対する多数の指摘や批判を受け、公式Xにて謝罪文を公開しました。併せて再発防止策…
    4. 「ビー・バップ」クラファン始動、清水で“高校与太郎祭”実現へ 返礼に「鉄橋ダイブ」関連も

      「ビー・バップ」クラファン始動、清水で“高校与太郎祭”実現へ 返礼に「鉄橋ダイブ」関連も

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」のロケ地として知られる静岡市清水区で、作品ゆかりの企画を集めた大型オフラインイベント「清水 ビー・バップ・…
    5. 第7回京都アニメーションファン感謝イベント『私たちは、いま!! ―京アニのセカイ展―』

      京都アニ「第7回ファン感謝イベント」追加情報を公開 新商品や書籍予約、グッズ二次予約も発表

      株式会社京都アニメーションは、10月25日・26日の2日間で開催予定の「第7回京都アニメーションファン感謝イベント『私たちは、いま!! ―京…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト