「うちの本棚」、今回取り上げるのは竹宮恵子初期の長編ラブコメディ『ウェディングライセンス』です。
ラブコメとはいえ、竹宮らしい登場人物とストーリー展開が魅力の作品に仕上がっています。
本作は竹宮恵子の長編ラブコメディ。竹宮作品にしては「正統派の」といってもいいかもしれない。
主人公は神学校に通う学生だが、父がマフィアのボスであり、その父が暗殺されたことで母によって無理やり二代目ボスの座に着かされてしまう。口をきくこともなく遠くから眺めるだけのような憧れの女の子がいたのだが、マフィアのボスになってしまったことで、その恋もあきらめなければ…と少女漫画的なストーリー運びになっているが、ボスになったことで身の回りの世話をする小姓が着き、ルスというその少年は、主人公リバティに同性愛的思いを寄せたりして、竹宮カラーが濃厚になっていく。
神父を目指していた少年が、いきなりマフィアの世界に放り込まれるということで、主人公の周囲の環境変化や、父を暗殺した相手の推測、マフィア内の陰謀等への疑心暗鬼と、さらには自身の正体を隠しての憧れの女の子へのアプローチなど、一気に読んでしまえるスピード感のある展開になっている。とはいえ、タイトルである「ウェディングライセンス」がなにを意味するのか、かなりあとにならないとわからないし、勢いで付けてしまったタイトルについて体裁を整えるような、ちょっと強引なところが見えないわけではない。もしかすると編集者から「『ウェディングライセンス』というタイトルのラブコメでお願いします」と押しつけられたのかと疑ってしまうところもある。あるいは描き始めてから当初の予定以上にマフィアのボスになってしまった主人公の活躍にのめり込んでしまって、後半軌道修正したのかもしれない。
作品自体は最初にも述べたように正統派のラブコメだし、コマ割りなどの画面構成もしっかりと少女漫画的なものになっているのは確かなのだが、たとえば最初の1ページ目、主人公の父が暗殺されるシーンを見てみると、少女漫画というよりは横山光輝作品のような印象を受ける。これは竹宮本人が石森章太郎を筆頭に少年漫画からの影響を強く受けていることにも起因しているのだろうが、その少年漫画的な部分が、竹宮作品に男性読者が少なからずいたことの要因にもなっているのはないだろうか。少女漫画的な内容や画面構成ではあっても、少年漫画的な匂いがして読みやすかったのではないかという気がする。このあたりは後の吉田秋生の作品にも共通することだろう。
初出:小学館「週刊少女コミック」1973年4月号~8月号
書 名/ウェディングライセンス(全2巻)
著者名/竹宮恵子
出版元/朝日ソノラマ
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/サンコミックス・竹宮恵子傑作シリーズ4、5
初版発行日/昭和51年9月1日(2巻とも)
収録作品/ウェディングライセンス、1巻巻末に全作品リスト
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)