「うちの本棚」、竹宮恵子傑作シリーズから3冊目の『ジルベスターの星から』をご紹介します。
それほど話題にはなっていないかもしれませんが、本作が少女漫画における本作的なSF作品であることは間違いないでしょう。
朝日ソノラマの「サンコミックス」における「竹宮恵子傑作シリーズ」の3冊目はSF作品を集めたものになった。これは初めて買った竹宮の単行本だったと思う。表題作である『ジルベスターの星から』は個人的に竹宮作品の中でも大好きなもののひとつ。
70年代前半まで、SFコミックは少年のものだった。
石森章太郎もかつて少女マンガ誌にSFコミックを発表したが、読者の支持は得られずに終わり、少女マンガ誌においてSFジャンルは敬遠される傾向にあったのは事実だったろう。それでもSFが好きな少女漫画家は育ってきていて、萩尾望都が『11人いる!』を、そして竹宮がこの『ジルベスターの星から』を発表するに至ったわけだ。SF風の少女漫画や、SFをベースにしたラブコメではない、「SFコミック」であることを強調したい。
正直なところ少女漫画を本腰を入れて読もうと思うようになったキッカケは本作であり、萩尾の『11人いる!』だった。それは少女漫画にも本格的なSF作品があるじゃないかという驚きと発見に他ならない。
竹宮がSF小説のファンであることは本作品の余白(初出時には広告スペース)に『デューン』について触れたものがあることでもわかるが、本作に登場するロケットは横山光輝に影響を受けたのではないかという印象もある。もっとも本書カバーイラストに描かれているロケットはもっと抽象的なイメージになっているが。
端的に言って本作品は悲劇的な話である。少年漫画やSF小説だったら、悲劇的な部分だけが印象に残るものになっていたのかもしれない。だが、少女漫画というロマンをベースに置いたジャンルの上で描かれた本作品は、余韻の残る名作に仕上がっている。SFコミックのアンソロジーを編むとしたら絶対に外せない作品のひとつだ。
『真夏の夜の夢』は『ジルベスターの星から』の2か月後に発表されたものだが、冒頭の降り始めた雨のひと雫目を受け損なう少年のシーンが今でも印象に残っている。どうにもセンチメンタルなシチュエーションだが、最初に読んだ当時妙に共感したのを覚えている。
『ハートあげます』と『ヒップに乾杯』は同じ主人公の登場するシリーズもので、「こぼれ話」によれば、もっとシリーズ作品を描くつもりだったとのこと。残念ながらその機会には恵まれなかったようだ。70年、71年と初期の作品で画的にはまだまだ垢抜けていない印象が残るが、ストーリーやテンポは竹宮カラーが出来上がっている。読者としてもっとシリーズ作品は読んでみたかった気がする。
『ブラボー!ラ・ネッシー』はSFコメディと言えるものだが、SFと言い張っているのは作者だけなのかもしれない。
『ルナの太陽』は68年発表の、竹宮にとって最初のSF作品になるようだ。ピノキオ的なロボットを主人公にしたハートフルな作品である。
改めて本書を読んでみると充実した内容だったといえる。収録された作品の内容もそうだが、竹宮恵子のSF作品の代表的なものを集めている感もある。竹宮のSF作品というと『地球へ…』などの長編や『集まる日』といった超能力テーマの作品が挙げられがちだが、実のところ本書に収録されたような作品にこそ竹宮SFの本質があるのではないかという気がしてならない。
初出:ジルベスターの星から/1975年3月「別冊少女コミック」、真夏の夜の夢 ミッドナイト・ドリーム/1975年5月「別冊少女コミック」、ハートあげます/1970年5月「月刊ファニー」、ヒップに乾杯/1971年5月「別冊少女コミック」、ブラボー!ラ・ネッシー/1973年9月「少女コミック」、ルナの太陽/1968年12月「月刊なかよし」
書 名/ジルベスターの星から
著者名/竹宮恵子
出版元/朝日ソノラマ
判 型/新書判
定 価/350円
シリーズ名/サンコミックス・竹宮恵子傑作シリーズ③
初版発行日/昭和51年6月30日
収録作品/ジルベスターの星から、真夏の夜の夢 ミッドナイト・ドリーム、ハートあげます、ヒップに乾杯、ブラボー!ラ・ネッシー、ルナの太陽
こぼれ話/竹宮恵子
「愛・変革・そしてメッセージ」/大沢健一(TVディレクター)
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)