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【ミリタリーへの招待】恒例の大作戦

こんにちは、咲村珠樹です。今回は季節ネタです。12月となって、クリスマス商戦も始まりましたね。イルミネーションも始まっていますが、今年は電力の需給状況をにらみながら実施しているところも多いようです。そしてミリタリー関係では、恒例の大作戦に向けて、準備が開始されました。近年とみに有名になったので、ご存知の方も多いかもしれませんが……。


  • NORAD(North American Aerospace Defense Command=北米航空宇宙防衛司令部)は、アメリカとカナダで組織される、北米大陸に対する空と宇宙からの脅威に備える統合防衛組織です。24時間態勢で弾道ミサイルや戦略爆撃機、また偵察衛星などの動向を監視し、異変があれば即座に防衛命令を発してアメリカ、カナダに対する脅威を排除する……という任務を帯びています。いわば北米防空の最前線。元々は冷戦時に仮想敵国(主にソ連)のICBM対策として誕生したものですが、現在は廃用になった人工衛星など(スペースデブリ)の落下に備える為の監視も行っています。

    そのNORADが半世紀以上にわたって、12月に入ると毎年「最大の作戦」を実行しているというのは知る人ぞ知る話。世界の上空を超高速で飛行する物体を、偵察衛星や防空レーダーで捕捉し続け、リアルタイムで位置を確認するという、持てる能力をフルに発揮した作戦です。

    その目標というのは……サンタクロース。

    NORADが半世紀以上にわたって追跡する……

    防空の最前線を担当する組織が、全力を挙げてサンタクロースを追跡し続けるのです。

    きっかけは1955年のクリスマス商戦。アメリカ・コロラド州コロラドスプリングスに本社があった百貨店、シアーズ・ローバック(Sears Roebuck。シカゴにあるアメリカ最大の超高層ビル、シアーズ・タワーでも知られています)が、クリスマスのおもちゃ販売キャンペーンとして新聞広告に「サンタクロースと話せる電話」を設置したと、電話番号を掲載したことがきっかけでした。いわゆるテレホンサービス、リカちゃん電話みたいに「お電話ありがとう、サンタクロースだよ。わしは今、よい子のみんなの為に、世界中からプレゼントを用意しているところなんじゃ……」なんてメッセージが流れるようなものだったんだろうと思います。子供が喜ぶサービスで店の知名度を上げ、おもちゃを買ってもらおうということだったのでしょう。

    ところが誤算が生じました。掲載された広告に誤植があったのです。それもあろうことか、肝心の電話番号に。

    当然、間違った電話番号に「サンタさんとお話ししたぁい!」という子供達からの電話が殺到します。掲載された番号(ME 2-6681)が存在しない番号だったらよかったのですが、加入者がいて電話がつながってしまいます。

    つながった先は、当時NORADの前身であるCONAD(中央防衛航空軍)の司令部が置かれていた、同じコロラドスプリングスのエント空軍基地。しかも機密であった、司令官用直通電話(ホットライン)の番号だったのです。

    急にホットラインが鳴り、もしや……と不安を感じながら受話器を取り上げた当時の指揮官、ハリー・W・シャウプ大佐(Harry W Shoup。1917年9月29日~2009年3月14日)は、聞こえてきた「もしもし、サンタさん?」という子供の声をどのように感じたのでしょうか。後年の回想によると、シャウプ大佐は

    「おお、なんてこった!と思ったからね。忘れもしない。国防総省直通のレッドフォン(ホット)ラインが鳴り、(上司であるアメリカ防衛空軍司令)パートリッジ(Earle Everard”Pat” Partridge)大将からの電話だと思って『はい、こちらシャウプ大佐』と答えた。『……閣下。シャウプ大佐です。お判りですか?』……そうしたら『……ほんとにサンタさん?』という声が聞こえてくるじゃないか。私は周りの部下達を見回し、誰かがいたずらを仕掛けてるんじゃないかと思った。あまりにもおかしな光景だったからね。そして『……もう一回言ってくれないか?』と電話口に話しかけた。そうしたらまた『……ほんとにサンタさんなの?』と返ってきた」

    と発言しています。さすがに、一瞬何が起こったか判らなかったようです。

    しかしシャウプ大佐は、不測の事態にも動じない優秀な軍人でした。相手はサンタと信じている子供。その夢を壊してはいけないと、サンタクロースの住んでいる北極から何かが飛び立った形跡がないか、部下に調べさせた結果を伝えました。恐らく、自分はサンタクロースではなく、彼を追跡監視しているんだ……みたいなことも同時に伝えたんでしょう。次々にかかってくる電話に、大佐は同様の対処をしました。

    そのままでは誤植の広告を出した新聞社、広告代理店、そして広告主のシアーズ・ローバックは、軍に対してエラい迷惑をかけてしまったことになります。もちろん謝罪はしたのでしょうが、CONADは逆にこのハプニングを面白く感じたらしく、防空の最前線を担当する組織に、クリスマスの晩、空飛ぶサンタクロースのソリを追跡する……という任務も付加しました。「クリスマス休戦」なんて言葉もあるアメリカ軍ですから、シャレというか、クリスマスくらいはサービスしよう……なんて考えが浮かんだのかもしれません。以来シャウプ大佐は「サンタ大佐」というニックネームでも知られるようになりました。

    以来、クリスマスでの「サンタクロース追跡監視」は恒例の作戦となり、1958年にCONADから現在のNORADに改組された後も、脈々と受け継がれてきたのです。最初は電話サービスのみだったのですが、インターネットが一般化1997年からは、12月1日に専用サイトを開設し、アメリカ山岳標準時の12月24日、午前2時30分(日本時間24日午後6時30分)から翌25日の午前3時30分まで25時間、サンタクロースの現在位置を逐次報告するようになっています。それと同時に、判りやすくNORADの本来任務も紹介されている、なかなか優秀なミリタリーサイトともいえるでしょう。

    もちろん、旧来からの電話も設置されており、公開されている電話番号「1 877 HI-NORAD(1 877 446-6723)」にかけると、NORADのオペレーター(カナダ国防軍、米軍の現役軍人と国防総省の職員)から直接サンタクロースの現在位置を聞くことができます。毎年200を超える国と地域から、7万件を超える電話がかかってくるそうですよ。1964年には、このNORADサンタクロース追跡監視をテーマにした公式アルバム(A面はサンタクロース捕捉のドキュメント、B面はNORAD音楽隊によるクリスマスソング集)までリリースされています。

    電話は英語でしか話せませんが、専用サイトの方は英語だけでなく、日本語のページも用意されています。他にはフランス語(カナダ・ケベック州の公用語のひとつ)・ドイツ語・イタリア語・スペイン語・ポルトガル語・中国語のページがあり、世界中からのアクセスに対応しています。現在では900万ページビューを超える驚異的なアクセス数だとか。

    2007年からはGoogleと提携し、GoogleマップやGoogle Earthで現在位置を表示できるようになり、各地の固定カメラで捉えられたサンタクロースの姿をYouTubeで見られるようにもなりました。サンタ追跡マップは、こんな感じ。


    サンタクロース追跡が始まるまでの期間は、サンタクロースの知識を深められるようなコンテンツが楽しめます。「KIDS COUNTDOWN」コーナーにはゲームなどもあります。サンタクロース専用ソリの解説なんか、かなり興味深いものがありますよ。ボタンひとつで世界中のラジオからゴキゲンなクリスマスソングだけを選び出して聴けるようになってたり、いつでも温かいココアが飲める装置がついていたり……。もちろん、プレゼントをあげる相手を捜す為の「よいこレーダー」も標準装備です。

    毎年恒例の大作戦、北米防空の最前線を担当する「NORADの本気」をぜひ感じてみてください。上記のシャウプ大佐による証言も、英語版サイトでは大佐の肉声で聞くことができますよ。

    ▼NORAD Tracks Santa(日本語版)

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    https://twitter.com/noradsanta
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    (文:咲村珠樹)
    ※画像はイメージです。

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