9月20日は「空の日」。お盆の帰省ラッシュも終わり、今度は秋の行楽シーズン。今年は連休も結構あるので、遠出しやすい年と言えそうです。飛行機に乗って旅行する方も多いかもしれませんね。そんな訳で、今回の「宙にあこがれて」は、乗れたらラッキーな「特別な飛行機」のお話です。
飛行機の中には、通常とは違った塗装をまとった「スペシャルマーキング(特別塗装)機」というものが存在します。いずれも何かを記念したり、キャンペーンで行われるもの。様々なデザインがあり、我々の目を楽しませてくれます。
日本で、これらスペシャルマーキング機の本格的なさきがけとなったのは、1993年9月12日に東京~札幌(千歳)線でデビューした全日空の「マリンジャンボ」。創業(日本ヘリコプター輸送)からの累計搭乗者数5億人突破を記念したもので、ボーイング747-400Dの機体をクジラに見たてて、周りを海の生き物達が泳ぐ……といったデザインでした。これは大人気となり「ジャンボが就航できない空港でも見たい!」という声にこたえ、ほぼ全国の空港に乗り入れ可能なボーイング767-300に同様の塗装を施した「マリンジャンボJr.」まで登場して、全国を飛び回りました。
この時のデザインは公募されたもので、デザインしたのは当時12歳の小学6年生だった大垣友紀恵さん。採用された時のインタビューで「デザイナー志望」であることを話していましたが、その後見事に夢を叶え、現在では広告会社のアートディレクターとして、JAグループが展開する「みんなのよい食プロジェクト」のシンボルマーク「笑味ちゃん」を手がけるなど、第一線で活躍しています。
翌1994年には、日本航空からミッキーマウスをはじめとしたディズニーキャラクターを機体に描いた「JALドリームエクスプレス」が登場。日本航空が東京ディズニーリゾートのオフィシャルエアラインである為に実現したコラボで、いわゆる「キャラ塗装」の元祖ともいえる存在です。これは搭乗時にCAの皆さんが、ディズニーランドで見かける「ミッキーの耳」を頭に付けて乗客を迎えるという演出がなされました。
これらをきっかけにして、日本でも多くのスペシャルマーキング機が登場するようになりました。
現在この手のキャラクターもので有名なのは「ポケモンジェット」シリーズですね。1998年から、代々デザインを変えて(それぞれ別の機体で)就航しています。
ポケモンジェットは国内だけでなく、海外にも行けるように国際線仕様の機体(B747-400・JA8962)にも「ポケモンジェットインターナショナル」が登場し、大人気となりました。
この他にも、キャラクターものには、かつて日本航空に「たまごっちジェット」(2006年)、全日空にスキーツアーのキャラクターだった「スヌーピー号」(1996年シーズンと1997年シーズン)や、ユニバーサルスタジオジャパンのオフィシャルエアラインになったことで誕生した「ウッディジェット」(2001年~2009年)、ガンダムとコラボして、機内で限定ガンプラを販売した「ガンダムジェット」(2010年~2011年)などがありました。
もちろん、キャラクターもののスペシャルマーキングは日本だけではありません。台湾のエバー(長栄)航空では「ハローキティ」(エアバスA330-300・B-16331)があり、専用サイト(http://evakitty.evaair.com/jp/)も開設しています。フィンランドのフィンエアー(FINNAIR)では地元のキャラクターで、フィンエアーがオフィシャルエアラインをつとめるムーミンを描いた「ムーミンジェット」(エアバスA340-300・OH-LQC)が就航しています。どちらも日本便(エバー航空は札幌・成田・福岡の各空港発着便、フィンエアーは成田・中部・関西の各空港発着便)に投入されているので、日本でも見ることができます。
また、各航空会社が参加しているアライアンス(搭乗マイルの融通が出来る連合)の統一マーキングというものもあります。各航空会社に最低1機は存在しているものですが、国際空港で並ぶと、どの航空会社の機体か一瞬判らないことも。日本の航空会社では、日本航空がアメリカン航空・ブリティッシュエアなどの「ワンワールド」、全日空がルフトハンザ航空・ユナイテッド航空などの「スターアライアンス」に加盟しており、そのスペシャルマーキング機を目にすることができます。
この他にも、新機種を導入した際に、最初の数機だけ通常と違う塗装にするというケースもあります。全日空がボーイング777を導入した際は垂直尾翼に「ANA」ではなく「777」と書いたところ、書体と文字の角度の関係で「フフフ」と読む人がいたというのは、ファンには知られた話です。ボーイング737-700を導入した際は、最初の2機(JA01AN・JA02AN)だけ通常塗装の青の部分を金色に変えた「ゴールドジェット」で登場しました。個人的には、尾翼の感じが「ファンタ ゴールデングレープ」の缶を想像させる仕上がりだなと思いましたが……。現在、導入初号機だったJA01ANはエア・ドゥに譲渡され、塗装を変更中です。また、2011年のボーイング787導入時も、最初の2機(JA801A・JA802A)が特別塗装になり、現在も飛んでいます。
この例で豪華だったのは、今はなき日本エアシステム(JAS)がMD-90を導入した時。レインボーをイメージとしていた同社は、レインボーカラーの7色つながりで『7人の侍』の黒澤明監督にデザインを依頼し、虹をモチーフとした7種類の塗装パターンで就航させたのです。これは当時保有する全てのMD-90が、いずれかの「レインボーカラー」になったので、特別だけど通常塗装……みたいな感じでした。日本エアシステムでは、ボーイング777を導入した際もデザインを一般公募し、虹色のリボンが機体に巻きついているというデザインで「レインボーセブン」という愛称で就航させました。これも全機同じデザインで、他機種と比較すると特別だけど、全機同じなので通常塗装という異色の存在でしたね。
あとは、航空会社の取り組みや周年記念のようなスペシャルマーキングもあります。エコに取り組んでいることを示す為に登場したスペシャルマーキング機は、日本航空も全日空も同じように尾翼を緑にしていたのが印象的でした。あとは「創立◯◯周年」といったものですね。
また、プロモーションとして施されるものもあります。判りやすい例では、オリンピックや万博をきっかけにした観光促進、または企業広告などです。日本における広告塗装(アドカラー)の元祖は、1997年に登場した日本エアシステムの「ポカリスエット号」(エアバスA300-600R・JA8562)。垂直尾翼を除く全体がポカリスエットカラーになり、異彩を放ちました。
プロモーション用としてのスペシャルマーキングは、かつては全て塗装し直していたので、次の塗装変更のタイミングとなる全般検査までの飛行期間が長い為、どうしても費用がかさんだり、長期のキャンペーンになるので小回りが利かないといった弱点がありました。しかし現在では、飛行中に起こるプラス40度からマイナス70度にも及ぶ温度変化や機体の膨張・収縮への追従性、時速1000kmを超えることもある風にもはがれない接着剤など、過酷な環境にも対応できる耐久性の高いカッティングシートや、色あせにくい印刷用インクが開発された為、塗装を変更することなく簡単に、かつ比較的安価で短期間のキャンペーンにも使えるようになりました。
塗装を変更していないので、これらはどちらかというと「ラッピング機」と呼んだ方がいいのかもしれませんね。
東日本大震災以降は、いわゆる「がんばろう日本」というメッセージを機体に掲げたものも登場しています。「がんばろう日本」のメッセージを掲げた、日本航空グループ(JALエクスプレス)のボーイング737-800(JA302J)は、津波被害から復旧した仙台空港に初めて到着した便に充当されました。あれは、航空会社のメッセージが直接被災者に届いたような印象を与えたんじゃないでしょうか。
全日空には「心をひとつに、がんばろう 日本」と、日の丸を挟んでメッセージが書かれた機体が飛んでいます。こちらは国際線用の機材にも同じ内容が英語で書かれたものが飛んでいて、海外にもアピールするような形に。
民間機だけでなく、自衛隊機や軍用機にもスペシャルマーキングが存在します。多くは◯◯周年記念とか、大規模な演習や航空祭(エアショウ)などのイベントに合わせて施されるものです。
大規模な演習では、航空自衛隊だと戦闘機部隊の対抗戦である戦技競技会(戦競)に合わせて、各飛行隊が意気込みをスペシャルマーキングに託して参加しており、ファンの間では「戦競塗装」として知られています。海外では、部隊名のモチーフにトラを使っている各国の戦闘機部隊が集結する国際演習「タイガーミート」があり、それに合わせて、トラをモチーフにした塗装を施した、様々な機体がやってくることで有名です。
アニメ・まんが関連のスペシャルマーキングもあり、かつて第204飛行隊のF-15Jが茨城県の百里基地にいた時代、戦競塗装として新谷かおるさんや出渕裕さん、貞本義行さんなど、そうそうたる面々がデザインしたワルキューレが機首に描かれた「MYSTIC EAGLE(ミスティックイーグル)」シリーズ(1994年~2003年)がよく知られています。元々は、第204飛行隊のマークもデザインした整備班員の渡辺悟志さん(現在は退官してイラストレーター)が企画して始まったもので、たまたま常連だったホビーショップの縁で新谷かおるさんと知り合い、そこから多くのクリエイター達とのつながりができ、今や伝説とも言われる1997年(新谷かおる・近藤和久・笠原俊夫)と1997年(出渕裕・永野護・園田健一・貞本義行)の塗装が生まれたとか。
この他にも2010年、鳥取県の航空自衛隊美保基地(米子空港)の開庁50周年記念で、所属する全機種に「ゲゲゲの鬼太郎」が描かれたこともありました。これは、原作者の水木しげるさんが美保基地のある境港市出身という縁で実現したもので、米子空港も「米子鬼太郎空港」という愛称を持っています。また同年、宮城県の航空自衛隊松島基地に所属する松島救難隊も創設50周年を迎え、こちらの機体には宮城県出身の石ノ森章太郎さんの代表作である『サイボーグ009』の島村ジョーが描かれました。
航空祭のスペシャルマーキングでは、2010年の航空自衛隊百里基地航空祭で、同基地を舞台にした史村翔さん・新谷かおるさんの作品『ファントム無頼』に登場する機体と同様のマーキングをした、第302飛行隊のF-4EJ改が登場しました。主人公の神田・栗原コンビが乗る680号機は架空の機体ですが、西川・水沢コンビが乗る320号機は第302飛行隊に実在し、ちゃんとその機体がマーキング機に充当されていたのがすごいところ。原作を知るファン達をうならせていました。
様々なバリエーションがあるスペシャルマーキング。秋には日本航空のボーイング787に、宮崎駿さんと子供たちが描いた「乗ってみたい空を飛ぶ乗り物」をデザインした「空を飛ぶ。」プロジェクトのスペシャルマーキング機が登場します。2008年に募集してから、機体納入スケジュールが遅れるなど、のびのびになっていた企画ですが、ようやく実現します。
デザイン募集といえば、実は現在、全日空で創立60周年を記念した、新たなスペシャルマーキング機(B767-300)のデザインを公募しています。プロアマ、年齢問わずで、締め切りは9月30日。マリンジャンボのように、自分がデザインした特別な機体が空を飛ぶかもしれないので、ぜひ応募してみてくださいね。
全日空「創立60周年記念 機体デザインコンテスト」
(文・写真:咲村珠樹)