おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】149回 DAVID ディビッド/板橋しゅうほう

【うちの本棚】149回 DAVID ディビッド/板橋しゅうほう「うちの本棚」、今回ご紹介するのは板橋しゅうほうの『DAVID ディビッド』です。
「ニューオカルトSF」とも単行本カバーには記されていますが、「クトゥルー神話」を彷彿とさせる「本」が登場する辺り、ワクワクいたします。


  • 【関連:148回 エイリアンクラッシュ/板橋しゅうほう】
     
    初出は東京三世社の「WHAT」。第1巻が第1部、第2巻が第2部という構成になっているが、残念なことに予定していた構想を全て描ききる前に連載が打ち切りとなったのか、最後はかなりはしょった形で完結している。いや、未完の印象が強い。

    第1巻の帯には「未来版切り裂きジャック」とか、第2巻の帯には「神の子創造計画」といった興味を引く言葉が記されているが、これは編集側のあおりにすぎず、正確に本作の内容を示しているとは言い難い。

    では本作はどういう内容だったのか……。

    時代は多数のスペースコロニーが存在する未来。そのひとつである「マルコポーロ」というコロニーが最初の舞台となる。そこに住む資産家の変わり者が、一冊の古書を入手する。それは4千年の知識を蓄えた、生きている本だった。その本の力を使って資産家は「神の子」を創造しようとする。「外見は美しく、心は醜悪」そんな女性を探して資産家は夜の街に出掛けていくので、「未来版切り裂きジャック」はここから発想されたあおりなのだろう。とはいえ連続して女性が襲われるといったことはなく、最初のひとりで条件以上の女性を資産家はゲットしてしまう。そして人工授精によって「神の子」を宿した女性は、自分の意思ではなく、胎児の本能でかつての仲間を殺し始める(このあたりを「切り裂きジャック」と判断してもよいが、無差別な連続殺人ではないし、「切り裂きジャック」とイメージを重ねるのはなかなか強引だ)。

    一方「マルコポーロ」に新任した刑事、ロメロも偶然から生きている本=アルハザード奇脳本と関わることになり、資産家を調べることになる。

    資産家も当初の目的と違った成長を見せる「神の子」を抹殺しようと動き出すが、胎児は母の身体を離れ、ロメロの恋人の胎内に入って地上に下りていく。第1部はここで終わっている。

    第2部は、それから6年が経過しており、地球は巨大な監獄となっていて、人類の大半はコロニーに移住している。誕生したディビッドは地上で「神の子」として教祖となっている。ロメロの弟アンソニーが新たな主人公として第2部に登場し、ディビッド抹殺のため地上に降りることになる。また政府はバニッシュボムで地上を浄化する計画を持っており、その起爆装置の起動もアンソニーが請け負うことになった。死んだと言われていたロメロもサイボーグ化していまだにディビッドを追っており、ついに兄弟の対面ともなるのだが……。

    というのが主なストーリー展開。

    単行本帯には「新境地」とも記されているが、サイボーグや超能力などそれまで板橋が好んで扱っていたテーマも多く、本作がとりわけ板橋作品で斬新だったという印象はない。むしろ板橋作品の集大成とも言えるような構成が用意されていたのではないかという気さえするのだが、そこに至る前に物語は終了してしまったようである。

    願わくば作者本人の手でリメイクし、完全な形を見せてほしいという気がしないでもない。

    書 名/DAVID ディビッド(全2巻)
    著者名/板橋しゅうほう
    出版元/東京三世社
    判 型/A5判・ソフトカバー
    定 価/690円(1、2巻共)
    シリーズ名/マイコミックス
    初版発行日/第1巻・1986年2月10日、第2巻・1987年8月5日
    収録作品/第1巻・DAVID PART 1 ACT ONE~ACT SIX、第2巻・DAVID PART 2 STAGE 0~STAGE 2

    DAVID 1 DAVID 2

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

    あわせて読みたい関連記事
  • 華の会メール・バナー
    PR

    オトナ世代の恋愛マッチング

  • 華の会メール・バナー
    PR

    趣味でつながる30代からの恋愛マッチング \華の会メール/

  • あの頃のデスクトップが戦場に!「Desktop Survivors 98」Steamに登場
    ゲーム, ニュース・話題

    あの頃のデスクトップが戦場に!「Desktop Survivors 98」Ste…

  • まるで昔のおもちゃ屋さん!あの頃の夢が詰まった「子ども部屋」がステキすぎる
    インターネット, おもしろ

    まるで昔のおもちゃ屋さん!あの頃の夢が詰まった「子ども部屋」がステキすぎる

  • ポケベルカプセルトイのアップ
    商品・物販, 経済

    これぞ、おっさんホイホイ!「ポケベル mola」のカプセルトイをやってみた

  • 平成の思い出(8cmCD)のジャケット
    ライフ, 雑学

    マック「平成バーガー」が完全におっさんホイホイ!?「たまごダブル」と共にあの時代…

  • 今の小学校には視聴覚室がないらしい 様変わりする教育現場にびっくり
    インターネット, おもしろ

    小学生の疑問「視聴覚室ってなに」にびっくり 様変わりする教育現場

  • 国指定重要文化財の高島屋東京店(旧日本生命館)
    コラム, 雑学

    子どもはちょっとおめかし 昭和40~50年代のデパートあれこれ

  • 本棚堂書店という店名らしく本棚の中に開店しているという設定
    インターネット, びっくり・驚き

    本棚の隙間でひっそり開店 こだわり満載の「書店のジオラマ」

  • 「エッチスケッチワンタッチ」はまだ健在 小学生集団の言葉に愕然
    インターネット, びっくり・驚き

    「エッチスケッチワンタッチ」はまだ健在 小学生集団の言葉に愕然

  • インターネット, おもしろ

    ハッシュタグ「初めて使ったハンドルネーム晒せ」でザクザク出てくる黒歴史に悶えるネ…

  • ゲーム, ニュース・話題

    「昔のゲームは良かった」と思いをはせる理由に共感

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学生の耳からシャーペン消しゴム 耳鼻科で無事摘出

      小学6年生の男児が耳の痛みを訴え受診したところ、耳の奥からシャープペンシルの消しゴムが摘出されました…
    2. マクドナルド非公認レシピ「改造てりたま」

      マクドナルド非公認レシピ!夏のてりたま欲を満たす「改造てりたま」を作ってみた

      春限定の人気商品「てりたまバーガー」を夏でも味わうため、筆者が考案した「改造てりたま」の作り方を紹介…
    3. 江頭2:50の“トルコ伝説”がポテチ化 ファミマ限定「伝説のケバブ風味ポテトチップス」を実食

      江頭2:50の“トルコ伝説”がポテチ化 ファミマ限定「伝説のケバブ風味ポテトチップス」を実食

      江頭2:50さんが60歳の節目に放つ、まさに“レジェンド級”のコラボ商品が登場です。YouTubeチ…

    編集部おすすめ

    1. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    2. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    3. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    4. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    5. 作文嫌いの救世主 親子で楽しむ「魔法のワークシート」が超便利

      作文嫌いの救世主 親子で楽しむ「魔法のワークシート」が超便利

      夏休みの宿題において、多くの小学生が悩まされる「作文」。特に低学年の子どもにとっては「何から書けばいいのか分からない」壁にぶつかることもしば…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト