妖怪人間ベム-田中「うちの本棚」、今回取り上げるのは「はやく人間になりたい」のセリフも有名な『妖怪人間ベム』です。前回取り上げた『黄金バット』とは第一動画つながりともいえますね。

コミカライズ版『妖怪人間ベム』はオリジナル色の強い作品で、コミック版だけでも十分に楽しめる作品に仕上がっています。


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本作は第一動画制作による異国情緒溢れるホラーアニメ『妖怪人間ベム』のコミカライズ作品。アニメ版は韓国のテレビ局が制作に参加しており、キャラクターや背景など、それまで馴染んできた国産アニメとは一線を画する雰囲気が特徴でもあった。製作者の談によれば逆輸入といってもいいものだったという。

そのコミカライズ作品は田中 憲によって講談社の「ぼくら」の別冊付録「テレビコミックス」に連載されたわけだが、田中 憲はのちの田丸ようすけである。単行本巻末の作者のコメントによれば、田中は東映動画の出身であり、アニメ作品のコミカライズに抜擢されたのもそのあたりの理由もあったのかもしれない。

コミカライズ版『妖怪人間ベム』は、アニメ作品を元にしているが、当初はガリ版刷りの企画書程度の素材しか提供されなかったらしく、アニメ本編では採用されなかった妖怪人間たちの誕生エピソードが描かれるなどオリジナル色の強い仕上がりになっている。そのため、コミカライズ版でも途中から「人間になるため」に悪と闘っていることになるが、誕生エピソード自体は「悪と闘う妖怪人間」として生れたことになっている。

ちなみに、アニメ版の設定では17~18世紀に作られた人工生命の細胞がのちに成長したものとされ、コミカライズ版では戦争中にドイツの科学者によって作られたことになっている。いずれにしろ人に作られたものであり、そのアイデアの元はホムンクルスにあると言っていいだろう。

田中は白土三平に影響を受けたと語っていて、スピード感のある作画にその印象を残している。とくにベロの描写では、白土三平の少年忍者を彷彿とさせる感がある。

アニメ作品ではヨーロッパ風の町並みなども印象に残るが、コミカライズ版では主に日本を舞台にしていて、山間部での描写が多い。

前述したようにオリジナル色の強い本作は、アニメ作品のイメージ通りではないが、妖怪人間を主人公にしたアナザーストーリー的に楽しめる作品と言っていいだろう。

コミカライズ版連載当時は、雑誌掲載後に単行本化するという流れは確立しておらず、本作も単行本にまとめられたのは2002年。実に34年を経てからである。最初のB6版単行本には携帯ストラップの「おまけ」が付いていた。

初出/講談社「ぼくら」(昭和43年8月号~昭和44年4月号・別冊付録「テレビコミックス」)
書誌/講談社・B6版(2002年5月23日)
       文庫版(2010年)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/