『ときめきメモリアル』(通称・『ときメモ』)は、1994年にコナミが発売したPCエンジン用のテレビゲームです。
但し、一般的には、1995年に発売されたプレイステーション版『ときめきメモリアル forever with you』によって人気に火がついたとされています。1994年に光栄が発売した女の子向けスーパーファミコンソフト『アンジェリーク』と共に、恋愛ゲームの代表作として語り継がれています。
さて、まずはゲームのおおまかなストーリーから。このゲームは、ヒロイン・藤崎詩織と隣同士の家に住む幼馴染みである主人公が、藤崎に好意を寄せており、そのため、頭の良い藤崎と同じ高校に頑張って入学するところから始まります。しかし、主人公は藤崎に相手にされないので、気に入られようと努力するのです。そして、卒業時までの主人公の高校生活を描くというのが、このゲームの粗筋です。因みに主人公の顔は画面には映りません。これは、『ドラゴンクエスト』シリーズの主人公が喋らないのと同じ理由だと考えられます。
では次にシステムを説明します。重要な点は主に2つ。
(1)パラメータ・・・画面の上方には、体調、文系、理系、芸術、運動、雑学、容姿、根性、ストレスという9つのパラメータが表示されています。文系の勉強をすれば文系のパラメータが上がり、運動なり体育会系の部活動をすれば運動のパラメータが上がります。そうやってパラメータを高めて、藤崎に気に入られようとする訳です。但し、たまに休息をとらないと、体調のパラメータが低下すると共にストレスのパラメータが上昇して病気になったりするので、注意が必要です。更に、どれかパラメータを上げると、同時に他のパラメータが下がってしまうので、その点も注意が必要です。
(2)好感度・・・このゲームには藤崎以外にも沢山の女の子が登場するのですが、主人公に対する女の子の好感度もにこちゃんマークのようなもので表されています。このマークが表す好感度が上昇すると、女の子は主人公に友好的になるのです。藤崎の場合、初めのうちは常に露骨に不機嫌そうな表情をしており、プレイヤーとしてもあまり良い気分ではありませんが、好感度が上昇するとにこやかな表情となって、こっちも嬉しい。しかし、好感度を表すマークにも、恐ろしい悪夢のような要素があります。それは、にこちゃんマークのようなものの上に重なって登場する爆弾マークです。このマークは、女の子とデートをする間隔が空くと現れるもので、爆弾マークが現れてもなお、その女の子とデートをせずに放置すると、主人公がその女の子を傷つけたという噂が広まり、何と全ての女の子の好感度が低下してしまうのです。何と恐ろしいことでありましょう。
という訳で、以上の2つの点がこのゲームのシステムの要諦ですが、好感度のところで述べたように、このゲームは、登場する女の子全員と頻繁にデートをしないとクリアできない(正確に言うと、隠しキャラがいる関係でちょっと違いますが)システムになっています。いわば、(友達関係ではあるものの)浮気をしないとクリアできない訳です。この点について、書籍『別冊宝島 僕たちが好きなTVゲーム 90年懐かしゲーム編』も、書籍『90’sゲーム魂』も、登場する女の子の人数を抑えるためにパラメータを調整すべきである(詳しくは後述)という、同じことを言っています。これに対し、いつぞやの新聞記事によれば、某女性向け恋愛ゲームソフトの女性スタッフは、『ときメモ』の主人公が複数の女の子とデートする点に、(はっきりとは述べていないものの)違和感を持っていたようです。まあ、そりゃそうだ。ではなぜ、コナミはそういうシステムにしたのでしょうか?
これは筆者の推測ですが、理由は2つあると思われます。
1つは、難易度を上昇させるためです。主人公の本命である藤崎に気に入られるためには、体調、ストレス以外の全てのパラメータを高くし、且つ、藤崎の好感度を表すマークを最大にする為に藤崎とデート等をする必要がある訳ですが、前述のように、どれかパラメータを上げると他のパラメータが下がる上に、休息もとらなければなりません。これに加えて、登場する女の子全員と頻繁にデートをしなければならないのです。
実は、本作に登場する多くの女の子は、主人公のパラメータによって登場するか否かが決まります。例えば、何年生の時点でどの能力値が幾つを超えたら誰が登場する、といった具合です。ということは、藤崎に気に入られようとする場合、登場する女の子の数が沢山になる、ということです。そういう訳だから、先の2冊の本が指摘したパラメータを調節するというのは、藤崎を目当てにした場合は極めて重要です。纏めると、登場する女の子全員とデートしなければならないシステムは、藤崎に気に入られることを目指すプレイヤーの足枷になるものであり、藤崎に気に入られることの難易度を上昇させるものとなっています。同時に、この点に『ときメモ』の本質の一点が表れています。と言うのは、このゲームは、プレイヤーとシステムが戦うゲームであり、藤崎は、RPGで言うところのラスボスと同じ地位にいる、と言うことが出来るのです。このようなシステムが目の前に立ちはだかれば、それを打倒してやろうと考えるのがゲーマーというものです。ゲーマーがRPGでラスボスを倒そうとするのと、『ときメモ』で藤崎を攻略しようとするのは、まあ或る意味では同じ行為と言えるんじゃないでしょうかね。
もう1つの理由は、エンディングを多様なものにするためでしょう。本作のエンディングは、女の子が主人公に告白するというもの(誰からも相手にされないこともある)ですが、もしプレイヤーが特定の女の子とだけ親しくすると、その女の子のエンディングしか出現し得ないので、作り手はそれを回避したかったのではないでしょうか。場合によっては館林見晴という隠しキャラがエンディングに於いて主人公に告白するのも、エンディングを多様なものにしようとするが故でしょう。
ところで話は変わりますが、コナミは、プレイヤーの心を動かすために、2つの要素を用意していました。
1つは、あだ名の存在です。ゲーム開始時、プレイヤーは主人公の氏名、誕生日、血液型を入力するのですが、その他にあだ名も入力します。そして、主人公に対して誰か女の子の好感度が高まると、その女の子は主人公をあだ名で呼ぶようになるのです。流石はコナミ。プレイヤーは○○君と呼ばれても嬉しくないが、あだ名で呼ばれると嬉しいことをよくご存知でいらっしゃる。
もう1つは、キャラクターの設定です。こちらの点こそが重要です。ヒロインの藤崎は勉強の成績も優秀、スポーツも万能なので、逆説的ではあるが何の個性もない人物です。それに対して、その他の女の子は、色々と個性を持っています。まさにこの点にコナミの作戦があったと言えるでしょう。例えば、或る女の子は1枚の絵画を2時間も見つめているような絵画好き、また或る女の子は図書館に入り浸る読書好き、別の女の子は勉強嫌いの遊び人、更にまた別の女の子はジャンク屋で目の色を変えて部品を買い漁る、といった具合です。中には、アニメ好きで、遊園地で特撮ヒーローショーを見てはしゃぎ、特撮ヒーローの変身セットをプレゼントすると喜ぶ女の子まで登場します。そんな女子高生いるわきゃねぇだろ!と突っ込みたくもなりますが、これはコナミの作戦です。プレイヤーが自分と気の合いそうな女の子を見つけるために、色々な女の子を用意したのでしょう。この2つは、プレイヤーの心を動かすのに効果的でした。ただ、エンディングで女の子がカメラ目線で主人公に告白するのは露骨過ぎましたな。
最後に、『ときめきメモリアル』というゲームの根幹をなす、最も中心にある要素とは何だったのか、指摘しておきたいと思います、エンディングで誰からも告白されなかった場合、主人公が、高校三年間に何もしなかった、高校生活をやり直したい、と嘆く場面があります。幾ら何でも高校三年間に何もしなかったということはあり得ませんが、主人公のこの台詞に本作の本質が表れています。本作は、高校三年間を描くゲームですから、部活動、テスト、体育祭、学園祭、修学旅行の場面が登場します。例えば、筆者の場合、主人公を野球部に所属させ、甲子園の高校野球大会で優勝して、主人公が高校卒業後にプロ野球選手になったこともあります。つまり、『ときめきメモリアル』は、高校生活をやり直したいという嘆きに応える、高校生活シュミレーションゲームだったと言えるのではないでしょうか。
<スタッフ>発売元・コナミ、キャラクターデザイン・小倉雅史、音楽・メタルユーキ
(文:コートク)