「うちの本棚」、今回は奥友志津子の隠れた人気シリーズ「星子シリーズ」2編を収録した『砂糖ぬきのコーヒー一杯』をご紹介します。
このシリーズ、読めば読むほど味わいのあるものなんですが…。
本書は奥友志津子の2冊目の単行本。初出に関しては本書の扉ページに「ひとみ・ひとみデラックス掲載」との記載があるだけで、各作品に関してのデータはない(ネット上で確認できるものもあったが、信用に足らないため割愛した)。
表題作である『砂糖ぬきのコーヒー一杯』および『きみらよ反旗をひるがえせ』の2作は、最初の単行本『遠い雷鳴の中』に収録された『3月はブルースにかこまれて』の続編。主人公の星子は作者も予想外の人気があったらしい。このあたりも清原なつのの「花岡ちゃん」に共通しているように感じたりもする。
『きみらよ反旗をひるがえせ』は秋田書店「ひとみ」昭和54年12月号に掲載されたようだ。大学受験を目前にした星子と腐れ縁の京介を中心に描かれる日常だが、星子のいとことして登場する女子大生、久美子の存在が、また清原なつのの「花岡ちゃん」に登場する笹川華子女史に似ていたりする。さらに言えば星子が思うところの人生や生きる意味ということ自体が「花岡ちゃん」でも語られているようなことだったりするのではあるが…。もっとも思春期にはありがちな思考であって、共感する読者が多かったからこその人気だったのだと思う。
タイトルのイメージだとクラスや校内で教師や学校に対して反対運動でも始めるのかと思ってしまうが、凡庸として生きているように見える人々の心の中にも、何かしら生きる目的なり「反旗」があるのだという内面を意味したものだった。
『砂糖ぬきのコーヒー一杯』は大学生になった星子のエピソード。ネット上では秋田書店「ひとみ」昭和54年9月号との記載が確認できるが、55年の間違いであろう。
大学に入ってみると、期待していた生活とは違っていて目標や目的を見失いつつある星子。その彼女の前に内藤 笙という学内でも有名な才女が現れる。迷っていた星子に答えのヒントを与えるような存在で、彼女のいる演劇部に関わることになっていくのだが…。今回のエピソードではいままで恋愛経験のなかった星子が恋をするというのが一番のテーマ。そのため連作の中ではもっとも少女漫画的な内容になっているといっても言い。
読んでいて思ったのは、「花岡ちゃん」もそうなのだが、内田善美の『空の色に似ている』にも印象が近いシリーズだったということ。この星子のシリーズが「花岡ちゃん」シリーズや『空の色に似ている』ほど話題にならないのはずいぶんと残念なことだと思う。やはり発表媒体の問題だったのだろうか。
これは余談のようなものなのだが『砂糖ぬきのコーヒー一杯』には星子の飼い猫が登場する。最初のシーンでは「ロン」と呼ばれ、2回目に登場したときには「ポン」と呼ばれていて、おかしいなと思ったら「ロン」は三毛猫で「ポン」はトラ猫。どうやら2匹の猫がいたらしい。また浪人せずに大学に入っているので、まだ未成年のはずの星子と京介が平気で酒タバコっていうのはまずかったんじゃないの? と(笑)。
『九月終章』は、両親を亡くし、育てられていた祖母にも死なれた遠い親戚の少女を引き取り、姉弟として暮らすようになった主人公によって語られる、美しすぎる姉の物語。
『幻想庭園』はファンタジーホラーという印象の作品。こういうミステリアスな作品に奥友らしさを感じてしまうのは、SF作品の印象が強いからかもしれない。
今回、本書を改めて読んでみて思ったのは、星子のシリーズを中心にした作品集などが再刊行されてもいいのではないかということ。そろそろ奥友志津子の再評価を始める時期に来ているのではないだろうか。
書 名/砂糖ぬきのコーヒー一杯
著者名/奥友志津子
出版元/秋田書店
判 型/新書判
定 価/370円
シリーズ名/HITOMI COMICS
初版発行日/昭和56年7月15日
収録作品/きみらよ反旗をひるがえせ、砂糖ぬきのコーヒー一杯、九月終章、幻想庭園
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)