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【うちの本棚】227回 遠い雷鳴の中/奥友志津子

遠い雷鳴の中 「うちの本棚」。今回からしばらく奥友志津子の単行本を紹介していきます。まずは超能力を扱ったSF作品を表題にした『遠い雷鳴の中』です。

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    遠い雷鳴の中

     奥友志津子を知ったのがどういう経緯だったのか、とんと記憶がない。少女漫画でSF作品を描いているという印象が強かったのは確かなのだが、なにか作品を読んだというより、いきなり単行本を購入していたような気がする。3冊目の単行本『シルバームーン』というタイトルに惹かれたのだろうか…。
    絵は好みのタイプであり、安定した作画レベルでもあったので、それから新刊、古書を問わず見かけたら買うという感じではあったのだが…。

     この『遠い雷鳴の中』は奥友志津子の最初の単行本だと思う。カバー表紙の折り込み部分に書かれた作者のコメントによると、デビュー5年目ということだ。
    ラブコメあり、ファンタジーあり、SFありと、奥友志津子を最初に読むにあたって、作者の特徴的な作品を集めているという感じがする。
    ならばデビューから最新作までの中から収録作品を選んだのかといえば、『ラブ・アタック大成功』が昭和52年の発表である以外は昭和54年、本書が刊行された年に発表されたものばかりで、いわば最新作品集という趣がある。さらにいえば表題作である『遠い雷鳴の中』は昭和54年の「デジール冬の号」掲載であるから、本書の刊行と初出誌の刊行はほぼ同時期だったといえる。

     『3月はブルースにかこまれて』はテンポのいいコメディ作品なのだが…。
    個人的な印象として、ちょっとタイプは違うのだが清原なつのの「花岡ちゃん」と同系統の主人公という感じを受けた。高校2年にして人生を悟っちゃってる感じがなんともいい。

    『ストレンジ・デイズ』はSFコメディ。
    理由はともかく、妖子の周囲には次元の裂け目ができやすく、不可思議なことが起こるというものだ。そんな妖子とルームメイトになった加奈、国子、栄の3人が振り回されるのだが…。時に作者の悪のりとも思えるほどの展開を楽しむべき作品。

    『ラブ・アタック大成功』は正統派(?)のラブコメ作品。
    ちょっと…いやかなり強引な気がしないでもないのだが読ませてしまうところは奥友志津子の力量を感じさせる。

     表題作である『遠い雷鳴の中』は、超能力を扱ったSF作品。非常に優れた作品であり、奥友の代表作といってもいいだろう。とはいえ、初出当時、掲載誌の読者層がこの作品をどう受け止めたのかは気になるところだ。別の媒体であったら奥友の評価も変わっていたのではないかという気がする。
    『自然淘汰』もSF作品。こちらはコンピューターに管理された世界を描いている。テーマ自体は初出当時でも目新しいものではなくなっていたと思うが、アプローチの仕方は奥友らしさが出ているといえる。

     読後感のさわやかなコメディ作品と重々しいラストのSF作品。本書は現在入手困難な状況だと思われるが、古書店などで見かけた際には迷わずに手に取ってみてほしい。けして古臭くなっていない作品に出会えるはずである。

    初出:3月はブルースにかこまれて/秋田書店「ひとみ」昭和54年3月号、ストレンジ・デイズ/秋田書店「ひとみデラックス」昭和54年夏休み増刊号、ラブ・アタック大成功/集英社「りぼんデラックス」昭和52年春の号、遠い雷鳴の中/秋田書店「デジール」昭和54年冬の号/秋田書店「デジール」昭和54年春の号

    書 名/遠い雷鳴の中
    著者名/奥友志津子
    出版元/秋田書店
    判 型/新書判
    定 価/350円
    シリーズ名/HITOMI COMICS
    初版発行日/昭和54年11月25日
    収録作品/3月はブルースにかこまれて、ストレンジ・デイズ、ラブ・アタック大成功、遠い雷鳴の中、自然淘汰、文章とイラストによる描き下ろし(?)のエッセイ1~5

    (文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

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    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
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