本連載では、数多くある漫画から選りすぐりの1冊をピックアップ。その「第01巻だけ」レビューをお届けします。
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今回、初のグルメ漫画=「ラーメン」が題材の作品をレビューということで、原稿を書く前に気分をアゲるべく、近所にあるお気に入りのラーメン店を久々に訪問です! こちらは、豚骨&魚介スープに野菜ポタージュを加えた濃厚トリプルスープが特徴の「つけ麺」が名物で、思わず割ったスープを完飲する(※飲み干す)こと必至。
味はもちろん魅力なのですが、通う理由はもうひとつあり、店内に置かれた『ラーメン発見伝』(原作・久部緑郎、作画・河合単)を着丼(※提供)までに読むことが、ささやかな楽しみだったりします。厨房からただよう小麦・脂・魚介etc.の香りを嗅ぎつつ、ラーメン漫画を読むのもオツじゃありませんか。
国民食と呼ばれて久しいラーメンですが、関連イベントが全国で開催されていたり、メディアによる熱烈な取り上げ、行列まで話題に挙げられる昨今、「ラーメンを食すこと」それ自体がエンターテインメントといえます。そう、漫画とラーメンはとても相性が良いのです。
さて、本作『ラーメン大好き小泉さん』(以下、『小泉さん』)。表紙を見れば、いわゆる「二郎(系)」とおぼしきラーメン屋のカウンターで湯気に包まれ、恍惚となる女子がひとり。うん。この子、絶対ヘン。そもそも第1話のタイトルが「ヤサイマシニンニクアブラカラメ」と「コール」(※トッピングと味調整の依頼)になっている時点で、この漫画ヤバい匂い、もとい背脂の匂いがプンプンだ……!
『小泉さん』をひとことで言えば「JKラーメン日記」。学校ではクール系美少女と目される小泉さんが、通って、並んで、大好きなラーメンをひたすら食す放課後ライフを、ゆる~く描いています。作者・鳴見なる氏は作品同様、高校生のころから暖簾をくぐっていたラーメン女子らしく、落ち着き払って麺をすする小泉さんの姿は、作者自身が色濃く投影されているように思えます。
作中で取り上げられるラーメン店は、第1話で舞台となり世界観を表現する「ラーメン●郎」のほか、こってりスープが特徴の「天下●品」、からうまの代名詞「蒙古タンメン●本」など、有名店がモチーフとなっています。
実際の店舗をしっかり取材しているのでしょう。湯気立つ細麺・太麺をしっかり描き分け、かじった具のスープが滴る断面まで、提供されるラーメンを丁寧に、いかにも美味そうに描写しています。が、これに留まらず、カウンターに置かれた調味料やポップなど細々とした備品類、券売機のボタン、スタッフの服装まで店の雰囲気を構成するディテールを抜かりなく描いており、とてつもない満足感が得られるのです。
自分で行ったことがある店ならば「そうそう、こんな感じだね」と嬉しくなってしまうほど、ラーメンとラーメン店を細部まで“拾い”きっています。ここに、並々ならぬ情熱を見た。
またグルメ漫画ほど、ウンチクが楽しいジャンルはありませんよね。ラーメンは麺の量やゆで具合、スープの濃さや辛みの調整など、細かいオーダーを挙げればキリがなく、それら複雑な選択肢を上手く組み合わせられるかが、通の証明であり、ウンチクはもはや無限大と言えるでしょう。
作中「ラーメン●郎」ではタイトルどおり「ヤサイマシニンニクアブラカラメ」をよどみ無くコールし、あえてスープを吸わせたモチモチ麺を「天下●品」にて堪能し、「蒙古タンメン●本」では涙なくして食せない激辛「北極」にチーズを加えるなど、小泉さんのオーダーは通好み。いちラーメンファンとしては、自分たち秘蔵のウンチクが漫画で描かれることに“こそばゆさ”がありつつも、「日の目を見るなんて」と喜びを感じてしまうのです。
先ほど、小泉さんをクール系と紹介しましたが、ラーメン店に通う中で同級生の女子たちと交流もあり、表紙でほわーっとした小泉さんを見初めてジャケ買いした読者諸氏も、大丈夫。ゆるーい女子高生ライフも盛り込まれていますから、そちらの面でもお腹いっぱいになれますよ。
正直なところ、当初「ラーメン●郎」にハマる女子高生という設定だけで、「もう5割方“勝ち”だよね」と本作を甘くみていました。だって、それだけで面白いですから。しかし、読んでみれば企画設定ありきではなく、『小泉さん』は情熱がこもった魂のある本格派だったのです。自分で味わってみなければ、漫画もラーメンも本当の味はわからない――。ってことで、今回は締めさせていただきます!
画像協力:
『ラーメン大好き小泉さん』
http://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/67228/