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にんげんっていいな『アルパカかあさん』優しい笑いに包まれて/第01巻(だけ)レビュー

 本連載では、数多くある漫画から選りすぐりの1冊をピックアップ。その「第01巻だけ」レビューをお届けします。

  • 【関連:僕らオッサンは『私がモテてどうすんだ』つっこみながら読むよ?/第01巻(だけ)レビュー】

    「マーくん 早く起きないと遅刻するよ」
    「今日のお味噌汁の具は なんだろなっ」
    「たまねぎだよっ」※自分で答えた

     今どきめずらしい、「昭和の母」が朝ドタバタとする風景である。最近「昭和」というコトバのイントネーションがこれまで「昭↓和↑」であったはずが、最近では「昭↑和↑」と上り一辺になっているのを、長年活躍してきた俳優・歌手の訃報が報道されると耳にする。それがニュースキャスターすら同様で、本来の正誤はともあれ、もはや筆者の生まれた「昭和」という時代がはるか昔になってしまったと、しみじみ実感させられる次第だ。

     朝ドタバタと息子を起こしながら、いっぽう味噌汁をつくる母が着るのはパリッとした生地の白い割烹着であり、筆者の実家でも見られないのと同じく、もはや日本中で失われた朝の風景だろう。しかし、その風景は世代に関係なく、人々が忘れたとて理由もなく懐かしさを誘うものだ。もしかしたら「割烹着を着た母」とは、私たち日本人が密かに慕う「瞼(まぶた)の母」と言えるのかもしれない。……その母が、「人間」ならばっ!!

    アルパカかあさん

     ――はい。というわけで、冒頭まじめぶってみましたが今回は、もっふもふ日常コメディ『アルパカかあさん』をお届けしたいと思います。「昭↑和↑」の新型イントネーションと同じく最近流行しているのが「Web連載」の漫画。サイト上にて最新話が更新されていき、ある程度ストックが溜まって単行本化、という流れで展開される作品群です。本作『アルパカかあさん』も’13年7月にオープンした秋田書店の漫画サイト「Championタップ!」でWeb連載されたのち、昨年12月に第01巻が発売されたばかり。

     比喩でもなんでもなくアルパカそのものな主婦「アルパカかあさん」(通称:パカさん)と、反抗期まっさかりの息子・高校生マーくんの日常をユーモラスに描いていきます。各話6~8ページほどの短いエピソードで構成されており、このあたりはWeb連載時の読みやすさを意図しながら、同時にテンポの良さともなり、緩い語り口ながらダレずに読みやすい。

     この作品最大の特徴は、何といっても「ツッコミ役 不在」による優しい面白さでしょう。通常、コメディやギャグというジャンルでは、常識はずれの行動をとる「ボケ役」に対し、常識をわきまえた「ツッコミ役」が論理的なツッコミを入れることで、場面が完成します。
     『チャンピオン』系列誌でいえば『侵略!イカ娘』(安部真弘、『週刊少年チャンピオン』)がわかりやすい例でしょう。深海から地上にやってきた主人公「イカ娘」は常識など通用しないうえ、髪の毛と一体化した触手を自在に操り騒動を巻き起こします。そこに、イカ娘が居候する海の家の娘・栄子があらわれ「おい、なにやってんだ!」とツッコミで(時には拳で)締めて、オチることにより場面は完成されます。これが定番中の定番。

     ところが『アルパカかあさん』においては、マーくんを起こそうとする第01話冒頭、「アルパカ」であるパカさんが前触れなく登場していることから分かるように、一切の説明つまり「なんで、おかんがアルパカなんだ」というツッコミを入れるキャラクターが登場しません。そう、起こし方はもちろん、部屋の掃除や洗濯にまで敏感に反応する息子・マーくんですら、根本的な問題=パカさんという存在のナゾ、にはツッコミを入れないのです。

    「母さんのおやつ用に 草刈ってきてくれるぅ~」
    「自分で行け!」

     いやいや、そこは「自分で行け!」ではなく、核心にツッコむならば「おやつって草かよ!」「ってか何でかあちゃん、アルパカなんだよっ!」など が定番のツッコミであるはず。かろうじて、幼いころのマーくんがパカさんにツッコんでいますが……

    「なんで 母ちゃんはここいるの?」
    「ねー 不思議ね~」

     と、パカさん軽くスルー。このように「パカさん」という本作最大の謎に対して「ツッコミ役 不在」であることにより、優しい笑いができあがるのです。アルパカであることをのぞけば、普通の主婦であるパカさんは家事をこなし、ママ友とお茶して映画を鑑賞し、単身赴任でペルーあたりにいる夫へ想いをはせます。そんな中でパカさんに接する人々は……

    「アルパカがアルパカ(毛の服)着るとか どんだけ過剰包装~!」
    「なんだ… 良識のあるいいアルパカじゃないか…」
    「今どこ?」「あ、アルパカの横ー」

     などと、パカさんの存在自体には疑問を持たずツッコまず、優しいリアクションで、笑いはふっと浮かんでくるかのよう。コメディなのでもちろん「笑い」も大事な要素ですが、絵柄にもにじみ出る、もっふもふの高級毛のような「優しさ」こそ、本作『アルパカかあさん』の魅力なのです。にんげんっていいな。

     なお、優しい笑いを届けてくれる本編のほかにも、巻末には「四コマ漫画」が付いています。そもそも『アルパカかあさん』とタイトルも“らしく”、四コマになっても面白いと感じただけに、個人的にはこのオマケがかなり嬉しい。一コマ目の上ではなく、四コマ目の下にタイトルが来る、という珍しい構成で、こちらは直球笑わせてくれます。最後まで、お見逃しなく。

    画像協力:『アルパカかあさん』http://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/72782/

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