おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

オジさん(S57年生れ)は懐かしいの!『オイ!!オバさん』/第01巻(だけ)レビュー

 本連載では、数多くある漫画から選りすぐりの1冊をピックアップ。その「第01巻だけ」レビューをお届けします。

 『オイ!!オバさん』。なんか少女漫画っぽいタイトルと、可愛らしい絵柄だなぁ(表紙を見つつ)。きっと、年の差カップルの微笑ましい「ラブコメ」が描かれるんだろうねぇ(表紙をぺらり)。

  • 【関連:超4コマ級。キャラ濃いぃ!『繰繰れ! コックリさん』/第01巻(だけ)レビュー】

    オイ!!オバさん

     ▼01ページ
     JK明子(15)、妊娠発覚――。
     同じく母(50)、妊娠発覚――。

     …ハード過ぎる。そして、重すぎるっ。いきなりの妊娠発覚に「ラブ」があるかはともかく、「コメ(ディ)」に関しては母娘同時妊娠・家庭が修羅場! なんて、引きつった笑いしか浮かんでこない。こんな昼ドラというか最早レデ●コミみたいなプロローグ、少年誌じゃ前代未聞でしょうが? 01ページ目からいきなりメタ発言も飛び交うし、リングにあがった瞬間からパイプ椅子でメッタ撃ちされるようなモン(反則攻撃)ですよ、こいつは……。

     やがて時は流れ、15年後――。母(当時50)が産んだ主人公の高校1年生・透クンと、明子(当時15)が産んだ同じく高1のヒロイン・菅子チャンが、神様の気まぐれか何とクラスメイトに。この二人によるドッタンバッタン ラブコメを描く物語が、本作『オイ!!オバさん』です。
     幸か不幸かこの菅子チャン、透クンにとっては「叔母」にあたるわけですが、廊下ですれ違えば花ビラ舞うような美少女。ちょっとしたことでも身内をイジられると恥ずかしい年頃なのに、自分と同い歳の叔母がクラスメイトで、しかも校内で噂になる美少女ときては、はれ物どころかメガトン級の爆弾を抱えて高校生活を送るようなもの。大丈夫かっ、透クン。

     超カワイイけど、実はオバ(叔母)さんでした――♪(きゃはっ) ということなら、まぁ「ラブコメ」の範疇でしょう。が! 透クン以外の人に「オバさん」と呼ばれると、菅子チャンは髪の毛が逆立ち、瞳から光は消え、殺気があたりを覆いはじめ―― と某ミスター・オーガばりに変貌ッッ。絡んできた不良をワンパンで★にして、明らかになった菅子チャン・中学時代の通り名は、「悪魔女(メドゥーサ)」だったのです。

     ……ハードな導入部からイヤな予感がしていたけど、やっぱりか。やっぱりお家芸「ヤンキー」要素を入れてくるのか、『月刊少年チャンピオン』! このまま進めば「不良(ヤンキー)バトル漫画」になっちまうぜェ!?!? と心配しましたが、戦い終わって「フツーの女の子になりたい」とつぶやく菅子チャンに、ほのかなラブコメを感じホッと締めくくる第01話です。そして、第01巻を読み終えると、何とも言えない懐かしい気持ちになるのでした。

     今では、同ジャンルの顔である任侠漫画の巨編『本気!(マジ)』(立原あゆみ)や、ストリートの感覚、不良少年=カラスという美意識を取り入れ、’80年代から続くヤンキー像を一新した『クローズ』(高橋ヒロシ)など、『チャンピオン』系列誌はアウトローたちを描いた作品で少年誌随一の実力を誇ります。
     そのいっぽう、美少女が実はヤンキーっぽい側面を持っていたり、幼馴染的な存在と一つ屋根の下で暮らしたりという設定が、’90年代では『特攻天女』(みさき速)、’00年代に入っては『明日のよいち!』(みなもと悠)など、同系列誌の名作で描かれており、本作もそれら系譜に連なる作品と言えるでしょう。

     『チャンピオン』系譜上にて系統だてて見れば、菅子チャンは『特攻天女』主人公・祥のような「ヤンキー姉御肌ヒロイン」、透クンは『明日のよいち!』主人公・与一のように「女難に悩む男の子」。そんなカップリングに、『本気!』『クローズ』が代表格である『チャンピオン』系列誌の「アウトローの匂い」がちょっぴり隠し味として加わったのが『オイ!!オバさん』であると、無粋ながら分類することも可能です。
     しかしながら、筆者は系統/分類に関して言及したいのではなく、本作が『チャンピオン』系列誌作品の流れを汲んだいわば「正統派」作品であり、伝統を次代に継承する「名作」であると、主張しておきたい。

     近年の少年漫画誌では、カゲキな性表現を盛り込む、本来は大人向けエンターテインメントで描くようなテーマを軸とするなど、少年漫画の枠を超えた作品が目立つようになってきました。もちろん「枠を超える」ことも進化の方向性のひとつですが、過去から連なる「流れを汲んで」描くこともまた、異なる進化の道だと思います。
     『囚人リク』のレビュー(https://otakuma.net/archives/2014102201.html)において、「少年が大敵に立ち向かう」ことを少年漫画の血脈としてご紹介しました。本作を構成する「ヤンキー姉御肌ヒロイン」「女難に悩む男の子」、そして「アウトローの匂い」もまた少年漫画、特に『チャンピオン』作品では伝統的なファクターです。

     第01話プロローグを読んで衝撃を受け、第01巻読後に感じた懐かしさ。それは、筆者にとって忘れがたい上記名作と同じファクターを、本作中に見て取ったからに他なりません。現・少年少女にも楽しんで貰いたい作品ですが、かつての懐かしさに触れたい大人にも読んでもらいたい――。そう、本作『オイ!!オバさん』は「思いでの少年漫画」を呼び起させるのです。

     さて、第02巻では「菅子チャンのはからいで、透クンは憧れの持田さんと下校デートすることに」そこへ、謎のヤンキー女子が乱入する模様。おっ、これは「お家芸」を楽しめそうだ~。

    画像協力:『オイ!!オバさん』
    http://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/53081/

    あわせて読みたい関連記事
  • コラム・レビュー

    バラしたいほどいい女……!『富江』のバイオグラフィー/第01巻(だけ)レビュー

  • コラム・レビュー

    めんど臭さもネ申クラス…『神のごときミケランジェロさん』/第01巻(だけ)レビュ…

  • コラム・レビュー

    その顔がほしい。処女作『累(かさね)』で晒す「美醜」の彼岸/第01巻(だけ)レビ…

  • コラム・レビュー

    にんげんっていいな『アルパカかあさん』優しい笑いに包まれて/第01巻(だけ)レビ…

  • コラム・レビュー

    僕らオッサンは『私がモテてどうすんだ』つっこみながら読むよ?/第01巻(だけ)レ…

  • コラム・レビュー

    漫画家マンガに「異界」出没!ドラマ放送中『東京都北区赤羽』/第01巻(だけ)レビ…

  • コラム・レビュー

    年末年始は全巻イッキ読み! おすすめ漫画10選/第01巻(だけ)レビュー【番外編…

  • コラム・レビュー

    超4コマ級。キャラ濃いぃ!『繰繰れ! コックリさん』/第01巻(だけ)レビュー

  • コラム・レビュー

    暖簾(ページ)を手繰れば本格味『ラーメン大好き小泉さん』/第01巻(だけ)レビュ…

  • コラム・レビュー

    王道!『囚人リク』。脈々たる血の系譜を読むぅぅ/第01巻(だけ)レビュー

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 音楽劇「謎解きはディナーのあとで」(撮影:阿部章仁)
    エンタメ, 舞台

    上田竜也が毒舌執事に挑む 玉井詩織&橋本良亮と共演「謎解きはディナーのあとで」開…

  • 当時、イベント関係企業のSNSに投稿された告知画像
    社会, 経済

    “マジックミラー号”展示などで波紋 中野駅前大盆踊り大会が謝罪声明

  • 「走る先には何がある!?京成スカイライナーキャンペーン」オリジナルQUOカード
    イベント・キャンペーン, 経済

    京成電鉄、中島健人QUOカードが当たるキャンペーン 9月10日から

  • 鬼滅の刃マンチョコ<無限城編>
    アニメ/マンガ, 商品・グッズ

    ロッテ、「鬼滅の刃マンチョコ<無限城編>」を10月21日発売 シリーズ第5弾

  • タカラトミー「グランドモールトミカビル」を自主回収 子どもの指挟み事故発生で
    商品・物販, 経済

    タカラトミー「グランドモールトミカビル」を自主回収 子どもの指挟み事故発生で

  • コレコレチャンネルより
    エンタメ, 芸能人

    コレコレさん「LINEで謝罪」も…稲田直樹さんは声明で“間接否定”

  • トピックス

    1. 味ぽん公式紹介の「味ぽんチーズ肉巻き」が背徳のうまさ! 実際に作ってみた

      味ぽん公式紹介の「味ぽんチーズ肉巻き」が背徳のうまさ!? 実際に作ってみた

      ミツカンの人気商品「味ぽん」の公式アカウントがXで紹介したレシピ「味ぽんチーズ肉巻き」に6万件を超え…
    2. 「私はロボットではありません」に偽装しウイルス感染 警視庁が注意呼びかけ

      「私はロボットではありません」に偽装しウイルス感染 警視庁が注意呼びかけ

      よく目にする「私はロボットではありません」という確認画面は、Googleの「reCAPTCHA」によ…
    3. 隣家からの怒号を音痴で撃退!母と娘が歌声響かせた、1週間の脱力戦記

      隣家からの怒号を音痴で撃退!母と娘が歌声響かせた、1週間の脱力戦記

      隣家から毎晩のように聞こえてくる喧嘩の怒鳴り声。文句の1つでも言ってやりたくなりますが、平穏なご近所…

    編集部おすすめ

    1. ゲームのバグ?すり抜け?壁に「埋まっている」ように見えるワンちゃん

      ゲームのバグ?すり抜け?壁に「埋まっている」ように見えるワンちゃん

      「ココちゃんは壁をすり抜けます」という一言と共にXに投稿された一枚の写真。写っているのは、まるでゲームのバグで壁に埋まってしまったかのような…
    2. 当時、イベント関係企業のSNSに投稿された告知画像

      “マジックミラー号”展示などで波紋 中野駅前大盆踊り大会が謝罪声明

      中野駅前大盆踊り大会の実行委員会は9月9日までに公式サイトを更新し、前夜祭での演出をめぐり区民や行政から批判を受けた件について声明を発表した…
    3. ポケモン公式Xで「逆転」現象 「メガカラマネロ」登場の匂わせ?

      ポケモン公式Xで「逆転」現象 「メガカラマネロ」登場の匂わせ?

      ポケモンシリーズの最新情報を伝える公式Xアカウント「ポケモン情報局」に何やら不穏な動きが。プロフィールや投稿がすべて逆さまに「逆転」する現象…
    4. 鬼滅の刃マンチョコ<無限城編>

      ロッテ、「鬼滅の刃マンチョコ<無限城編>」を10月21日発売 シリーズ第5弾

      アニメ「鬼滅の刃」とロッテの人気菓子「ビックリマン」が再びタッグを組む。株式会社ロッテは、絶賛公開中の「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第一章 …
    5. タカラトミー「グランドモールトミカビル」を自主回収 子どもの指挟み事故発生で

      タカラトミー「グランドモールトミカビル」を自主回収 子どもの指挟み事故発生で

      株式会社タカラトミーは9月8日、7月19日に発売した玩具「グランドモールトミカビル(トミカ55周年記念特別仕様)」について、子どもの指を挟む…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト