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めんど臭さもネ申クラス…『神のごときミケランジェロさん』/第01巻(だけ)レビュー

 本連載では、数多くある漫画から選りすぐりの1冊をピックアップ。その「第01巻だけ」レビューをお届けします。

  • 【関連:その顔がほしい。処女作『累(かさね)』で晒す「美醜」の彼岸/第01巻(だけ)レビュー】

     最近、歯に衣着せぬ物言い、見た目と中身のギャップがウケて、ファッションモデルからバラエティ番組のひな壇まで席巻する「外人タレント」=「外タレ」の活躍がすごいんですが、何か忘れてはいやしませんか? まぁ、かなり昔の話ですが……。

     ――今からおよそ400年前! 舞台はヨーロッパ!! 彫刻、絵画、建築、音楽など芸術はもちろん、科学や医学はじめ学問でも数多くの才能<タレント>が開花し、文明が未来へとおおきく踏み出したルネサンス期には、現代と比較にならないほど巨人的「外タレ」たちが存在していました。
     代表格は、「最後の晩餐」「モナ・リザ」などを手がけるかたわら、解剖学にも精を出し、一方で都市防衛の兵器を開発したり、果ては飛行装置まで作ろうとしていた、偉人の中でもチート中のチート、レオナルド・ダ・ヴィンチさん。15世紀のイタリアでも名をはせたダ・ヴィンチさんですが、数百年を経て小説や映画、海外ドラマの題材となり「こまったらダ・ヴィンチさんで」というミステリー界のクローザー的な感すら、あります。

     そんなダ・ヴィンチさんから遅れること20年あまり。もうひとりの偉大な外タレ、もとい巨匠がフィレンツェで生を受けました。代表作「ダヴィデ像」で知られるミケランジェロ・ブオナローティさん、その人です。

    神のごときミケランジェロさん

     最近のミケランジェロさん(以下、ミケさん)といえば、『GANTZ』(奥浩哉)後半で羽つき「ダヴィデ像」が各国チーム相手に暴れまくっていたり、テレ東での放送もなつい『ミュータント・タートルズ』が映画版でリブートして話題になるなど、ご本人にスポットライトは向かず。しかし! 本作『神のごときミケランジェロさん』(以下、『神ミケ』)ではミケさん自身が主役として大抜擢、大活躍してくれます。

     でも、表紙オビには「コミュ障こじらせ男」との解説。なんかこの巨匠、めんど臭い感じがプンプンだぁ……。

    ■しっかり描写で、めんど臭い巨匠の時代<ルネサンス>を描く!

     依頼品を取りに来た公爵の使いを、中年ミケさんが追い返す場面から物語はスタートします。当時の貴族や、一国の王といってよい領主はもちろん、十字軍遠征の失敗で権勢は衰えたものの、ヨーロッパ宗教界およびカソリックの頂点にたつ「神の代理人」ローマ教皇相手にも「口答え」するミケさん。88歳まで生きられたのは、周囲の人々が寛大だったからというのも、一理いや百理ありそうです。
     冒頭の壮年期ですら、いまだコミュ障をひきずるミケさん。どうしてこんな性格になったのか? 厳格で家柄を重んじる父(でも無職)の芸術に対する理解のなさ、友人の彫刻ディスったら顔面パンチで鼻つぶされる(一生治らず)など、性格ねじ曲がりそうなイベントをこなしながら、やがてルネサンス期の芸術家にとり最大のパトロン・メディチ家当主「ロレンツォ」と出会い―― といった、ミケさんの青春期が描かれていきます。

     ここで注目したいのは、本作が「爆笑コメディ」と名乗りながら、しっかり歴史描写をしているということ。ミケさんの傲岸不遜ぶりはさて置いても、当時の芸術家は王たる領主と直に会って依頼を受け、場合によっては意見したり従わないこともあり、単に画家や彫刻家という括りのできない影響力を持っていました。このあたり「事情」がかいつまんで紹介されており、分かりやすさという点では「歴史まんが」にも負けないクオリティでしょう。

     各エピソードの幕間には「メディチ家について」といった具合に、登場人物たちがちょっとした歴史トリビアを教えてくれる小コーナーもあり、割と本気で世界史のルネサンス期を勉強する前に、本作を読んでおくといいのでは? と思えてきます。

    ミケさんの風評。熱狂的な支持のある一方、教皇もあきれる変人っぷり

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    公爵の使いで来た商人の態度が気に食わないミケさん。このあと…

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    ■ミケさん VS.ダ・ヴィンチさん

     ローマで成功したのち故郷・フィレンツェにもどったミケさんを迎えたのは、「ダ・ヴィンチ凄すぎる~」という民衆の声。冒頭ふれたとおり20歳以上年が離れていながらミケさんとダ・ヴィンチさんは、お互いを強く意識していたと伝えられます――。

     あの肉々しい どぎつい絵(ダ・ヴィンチ → ミケ)
     仕事を途中で放り出す(ミケ → ダ・ヴィンチ)

     ……はい。こりゃあ喧嘩は不可避ですねぇ。ただし「喧嘩」といっても口撃ばかりでなく、お互い創作活動を通じてそれぞれ信念を表していたわけで、その過程にて生み出された「名作」誕生秘話も、本作の見どころです。

     高さ5メートルを超す巨大岩を前にして「巨人像<ダヴィデ>をつくって」と、ミケさんにムチャ振りするフィレンツェ共和国長官。あたり前ですが、手彫りですよ、手彫り。

     無理なら 無理でいいから
     ダ・ヴィンチにも頼んでみようかなあ と

     ……うん。これでカチンとこない方が無理ってもんですねぇ。これで火の付いたミケさんが果たしてどんな「作品」をつくりあげるか、そのてん末はご自身の眼でお確かめください。

    ■ミケランジェロ=曹操!? 斬新な「主役選定」に光るセンス

     ――今からおよそ20年前、1994年のこと。作・李學仁(イ ハギン)、画・王欣太(きんぐ ごんた)コンビにより、三国時代の英(奸)雄・曹操孟徳(そうそう もうとく)を主役にすえた歴史大河『蒼天航路』が連載開始された時、筆者は衝撃を受けました。
     それまで三国志作品といえば、横山光輝『三国志』をはじめ劉備玄徳(りゅうび げんとく)が主人公として活躍する作品こそ、大半をしめていたからです。

     時空は異なりますが、ルネサンス期をテーマとした作品においても、曹操と同じようにミケランジェロが主役となったケースは稀で、主役の数ではライバル、ダ・ヴィンチが圧勝といってよいでしょう。そんな中、あえてミケランジェロの漫画『神ミケ』を描こうと決めた作者・みのる氏のセンスが光ります。

     イタリア旅行中、ガイドさんの解説が本作を描くきっかけになったと明かす、みのる氏。あんがい軽い動機と思われるかもしれませんが、巻末に列挙された参考文献をご覧あれ! これは歴史小説なみの分量で、時間をかけたていねいな下調べを物語ります。なにより、読み終えた後には「笑い」だけでないある種「知的な満足感」が得られることも、楽しいのです。

     生まれ変わったら。
     ラファエロは政治家、ダ・ヴィンチは科学者。
     ミケランジェロは芸術家になる。神のごとき偉大な――。

     しかし、その素顔はうぬぼれ屋、女嫌い、フケツでコミュ障な引きこもりだった!? そんな後世の名声とは裏腹な“めんど臭い”オヤジ・ミケさんの人生、とても愛すべきものです。

    画像提供:
    『神のごときミケランジェロさん』http://renta.papy.co.jp/renta/sc/frm/item/75994/

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