獣医師だというとあるTwitterユーザーが「お金(充分な経済力)がなければ動物を飼ってはいけません」と発言したことに端を発し、今ネット上で改めて動物を飼う飼い主の資質が議論されています。

 動物を飼うことはそもそも飼い主の意志によるものですが、「可愛いから」「可哀想だから」という気持ちだけで飼ってしまうと後々、様々な問題を引き起こすことに繋がることは、特に近年指摘されてきています。しかし「飼ってみたらどうにかなる」という安易な気持ちの人や「飼うのが難しくなったら保健所につれていけばいい」と悪気なく考えているとんでもない人が、どうやら多く存在しているようです。

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診察を受ける犬(イメージ)

■動物を飼うこと=絶対にお金がかかる

 動物は人間と違い怪我や病を治療する際に健康保険が使えません。現在ではペット保険が各保険会社に用意されていますが、任意で加入する場合、犬種や年齢既往歴にもよりますが年間最低でも3万円ほどかかります。そして保険によって限度額や補償割合が違うため、手術が必要な大怪我や大病をした場合は保険の限度額では納まらないことも。それ以外でもワクチン代、エサ代、犬種によってはトリミング代などもろもろ必要です。

■ペットに構う時間はあるのか

 「自分が生活に疲れていて仕事に忙殺されているから癒やしのために飼う」という人もいます。ペットにかけられる資金が充分にあり、ペットが窮屈な思いをせずに過ごすことのできる家があり、そんなペットと向き合う時間もある人の場合はそれでも問題はないと思います。

 しかし近年問題になっているのは、癒やしが欲しいからと飼ってみて、結局蓋を開けてみたらペットにかける精神的余裕も時間もなかったからと手放す人々です。
「飼ってみないとわからないじゃないか」という意見もありますが、例えば子供を産んでみて「産んでみたけど手がかかるからいらない」と手放すことはできません。人間の子供の場合は行政が手を差し伸べてくれますが、ペットの場合はそういう保障はありません。

 ペットは飼い主さんだけが頼りです。極端なことを言えば、万が一自分が不慮の事故で死んでしまった後も面倒を見てくれる人を探しておくくらいの備えは必要です。

■長期的に飼育できる経済力・居住環境や条件は整っているか

 もしもペットに窮屈な思いをさせるような家である場合は飼うべきではありません。子供にせがまれたし情操教育にもいいからと飼ってしまい、後々家が狭すぎてペットのストレスになり病気を発症した、新しい家を傷つけられた、広い家に引っ越したくなったけれどペット飼育可の家が見つからないなどの住居に関する問題も多く起きています。

 中には転勤することがわかっていたのに飼い始め、転勤先でなかなかペット飼育可の住居が見つからないからと手放すケースもあります。これはペット飼育可の住居が見つかるまで引っ越しをしない、見つからなけば転勤の辞令を受けた家族だけ一時的に単身赴任にしてもらうのが「理想」というか、飼い主としての「覚悟の絶対条件」ですが、そこまでできない人は最初から飼うべきではありません。

■SNSの人気アカウントになりたいあまり

 SNSではこの数年、ペットを紹介するSNSアカウントが人気を博しています。人気アカウントの人たちは、飼っている動物を心から愛し、その上でペットの写真を紹介している場合がほとんどですが、中にはそうした「人気アカウントに憧れ」を抱き、自分が人気者になるためだけにペットを飼うという人が存在しています。

 そういう人に限って、動物は命であるのにブランド品や宝石と同等の扱いをしており、飽きたり飼いきれなかったら簡単に捨ててしまうのだとか。編集部では捨てられた犬・猫問題に以前から注力しており、保護団体の方からお話を聞くことがありますが、その中で以前こんな話を聞きました。ある日愛猫家だという方が現れ、経済・飼育条件全てクリアし互いに納得の上譲渡したのに「ソファーを傷つけた」というだけで戻してきたのだとか。よくよく聞くと、飼った理由がSNSに猫の写真をアップしたかったから。

 ブームが去った犬、とくに室内で飼える小型犬は大量に捨てられているという話もよく聞きます。現在では10年くらい前にブームが到来していたチワワが里親募集を賑わせているのはご存じでしょうか。現在「空前の猫ブーム」と言われていますが、数年後に「空前の捨て猫ブーム」とならないこと願っています。

■飼う前に動物を飼うデメリットを調べること

 動物を飼っている人は、生活するお金にも住居にも余裕のある人が圧倒的に多いです。その理由は「余裕がないとペットを不幸にする可能性があるから」。でも同時に飼い続ける覚悟がないのにこうもペットを安易に飼ってしまう人が多いのは何故でしょう?編集部でこの問題に長期取材した上で感じていることですが、「ペットを飼う時にデメリットを調べない人が多いこと」。これにつきると思います。

 ペットショップで売られる犬猫、そしてインターネットでの犬猫の紹介のほとんどが「良いこと」しか書いてありません。例えばロシア生まれの大型犬「ボルゾイ」。大型だけれどもスマートで美しい毛並み、そして何より一目を引く優雅な姿に憧れる人が多い犬種です。

ボルゾイ

ネットのおすすめ記事や販売サイトを軽く調べると

▽ネットや販売サイト
-大型だけど性格が穏やかなので室内では大人しく過ごします。だからマンションでも飼育可能。
-吠えることがほとんどない
-飼い主にそっとよりそう優しい性格
-オーナーに女性が多いほど飼いやすい犬
-何よりもその優雅で気品あふれる見た目が美しい

しかし、実際に飼ったこのがある人の声を聞いてみると。

▽現実
-元狩猟犬なので運動量がはんぱない。1日2回1~2時間の散歩が理想。室内でもストレスがたまれば暴れる時は暴れる。大きい分暴れた時の破壊力は抜群!
-吠えないので逃げたらどこにいるか分からなくなる
-もともと狩猟犬なので獲物を追って飼い主とはなれたら「自分で考え行動する」ことが求められた。その名残からしつけをしようにも素直に言うことを聞かず自分で考える癖がある。ドッグトレーナーによってはトレーニングしにくいという評価もあるほど。だから、ペットというより相棒くらいの考えの方がいい。
-外で自分より小さい動物を見つけると狩猟犬としての本能がうずき、俊敏に動いてしまうことがある。
-美しい外見を維持するために週に2~3回のブラッシングが必要。また大きすぎるのでお風呂が大変。
-うんこがでかい

 動物を飼うには経済力が必要なのは勿論ですが、飼い続ける上での忍耐も必要です。もともと忍耐力のある人ならば問題ありませんが、「良い話」だけ鵜呑みし飼ってしまい、後から「こんな事じゃなかった」ということにならないためにも、飼う前に「デメリット」をしっかり調べ、その上で自分が飼い続けられるかられないかを冷静に考える必要があります。

 もし今、少しでも「動物を飼いたい」「飼う予定」という状況の方は、今一度よくよく考え、「メリット」だけじゃなく、経済力含めた「デメリット」を知って、改めて考えてからにしてくださいね。

※写真はイメージです。

(文:大路実歩子)