次世代型の超音速旅客機(SST)を目指してNASAが開発を進めている、低ソニックブーム超音速機。2018年4月3日(現地時間)、その実物大実験機(Xプレーン)の製作を、世界最速のジェット偵察機SR-71を生んだロッキード・マーティンの「スカンクワークス」が受注しました。

 超音速機にとって悩ましいのは、超音速飛行に伴って発生する衝撃波によってもたらされる爆発的な音「ソニックブーム」です。高速で飛行すると、機体前方から後ろに流れて行くはずの空気が前にたまって圧縮されます。風の強い時や車などに乗って走っている際、窓から手を出すと風で手が押されますが、これは手の部分にたまって圧縮された空気の重さを感じているのです。音速を超えるとその圧縮度合いは非常に大きなものとなり、この圧縮された空気が一気に戻る時、大きな音となるのです。

 実際に飛んだ超音速旅客機、Tu-144やコンコルドは、このソニックブームによる騒音被害を避けるため、人家のある場所での超音速飛行をしないようにしていました。コンコルドが就航していたパリやロンドンとニューヨークを結ぶ路線では、超音速飛行を行うのは大西洋上のみ。逆に、超音速飛行できる場所が限られているがゆえに、大西洋を横断する路線にしか就航できなかった、とも言えます。

 超音速旅客機が世界中を飛べるようになるには、このソニックブームの影響を小さくすることが求められます。Tu-144やコンコルドの頃は、まず「超音速で飛べること」が目的であり、ソニックブームの被害について設計で考慮されることはありませんでしたが、超音速旅客機が再び空に戻るためには、ソニックブームを低減することが必須です。

 ソニックブームを低減する旅客機の研究については日本が先行しており、JAXAがスウェーデンのエスレンジ試験場で2015年に行われた、低ソニックブーム試験機(スバルが製作した縮小スケールモデル)による世界初の飛行試験「D-SEND#2」で、ソニックブームを低減する機体形状を実証しています。

 NASAによる低騒音超音速飛行技術(Quiet SuperSonic Technology=QueSST)実証実験は日本に続くもので、実物大の機体を用いるのは世界で初めてとなります。

 注目の実物大実験機の製作を受注したのは、ロッキード・マーティンの「スカンクワークス」。かつてU-2や、世界最速のジェット偵察機SR-71、世界初のステルス攻撃機F-117を生み出した、有名な「秘密プロジェクトチーム」です。有名で秘密というと矛盾しているようですが、現在の「スカンクワークス」は、昔のような存在が隠される極秘部門ではなく、ロッキード・マーティン社内の特命チームという存在です。

 製作される実物大試験機は1人乗り。2016年に発表された初期デザイン案をベースに作られる予定です。全長94フィート(約28.6m)、全幅29.5フィート(約8.99m)で、最大離陸重量は3万2300ポンド(約14.65トン)。機体後部に、F/A-18E/Fスーパーホーネットに使用されているゼネラル・エレクトリック(GE)F414エンジンを1基搭載します。コクピットはT-38ジェット練習機の後部座席を流用するとのこと。高度5万5000フィート(約1万6764m)での巡航速度がマッハ1.42、最大速度はマッハ1.5を計画しています。

 NASAアームストロング飛行研究センターで、このプログラムのテストパイロットを務める予定のジム・レス氏は「超音速の有人Xプレーン(2002年のF/A-18A改造機、X-53以来)を操縦できるなんて、人生に1度くらいしかない経験ですから、非常に興奮しています」と、この機体への期待を語っています。

 この低ソニックブーム実験機は、カリフォルニア州パームデールにあるロッキード・マーティン「スカンクワークス」工場で製作され、2021年の初飛行を予定しています。

Image:Lockheed Martin/NASA

(咲村珠樹)