映画「007」シリーズで、主人公のジェームズ・ボンドが操るボンドカー。「007は二度死ぬ(You Only Live Twice)」でのトヨタ2000GTなど様々な車が登場していますが、最も代表的なのがアストンマーティンDB5でしょう。そのアストンマーティンDB5、それもボンドカーが初めて登場した1964年の映画第3作「007 ゴールドフィンガー」に登場した仕様が、アストンマーティンと映画の権利を持つイオン・プロダクションの手によって、公式に「復刻」されることになりました。
2018年8月20日にアストンマーティンが発表したプレスリリースによると、この「復刻版」は、2016年に発表されたアストンマーティンDB4 GTの復刻版「アストンマーティンDB4 GT Continuation(継続という意味)」の好評を受けて企画されたものだといいます。車名はそのものずばりの「ゴールドフィンガーDB5 Continuation」。
映画「007 ゴールドフィンガー」に登場したボンドカーは、厳密にはDB5ではなく、DB5のプロトタイプとなった、DB4シリーズ5Vantageをベースに改良された「DP216/1」として、ロンドンのアールズコート・モーターショーに出品されたもの。これをベースに、映画用に様々なギミックをつけてできあがったものでした。映画公開後の1965年にミニカーブランドのコーギーから発売されたミニカーは、1年のうちに全世界で250万台以上を売り上げたといいます。
ちなみに実物は撮影に使われた2台(特殊装備付きとスタント用)と宣伝に使われた2台、計4台中3台現存(映画で使われた特殊装備付きの車両「DP216/1」は1997年6月に盗難に遭い、行方不明)。うち1台は、2010年10月27日にニューヨークでオークションにかけられた際、アメリカの車コレクターであるハリー・イェーギー(Harry Yeaggy)氏が460万ドル(290万ポンド)で落札しています。この時の仕様は、フロントからマシンガン(もちろん模型です)がせり出し、リヤウインドウ内側に防弾装甲板が出てくる形。そして、フロントのナンバープレートは回転式になっていて「GOLD FINGER」「JB007」と、映画に登場したナンバーである「BMT216A」の3種類が表示されるものでした。
実は、アストンマーティンDB5がショーン・コネリー氏演じるボンドの「ボンドカー」として登場するのは、第3作の「ゴールドフィンガー」と続く1965年公開の第4作「サンダーボール作戦」のみ。その後1995年の「ゴールデンアイ」で、ピアース・ブロスナン氏演じるボンドの個人的な愛車として登場するまでは、その他の車がボンドカーとして使われてきました。しかし「ボンドカーといえばアストンマーティンDB5」という認識があるのは、それだけ登場時のインパクトが強かったということですね。
このため、1981年の映画「キャノンボール」では、当時ボンドを演じていたロジャー・ムーア氏演じるキャラクター(ゴールドファーブと「ゴールドフィンガー」に似た苗字)が乗る車が、アストンマーティンDB5となっていました。また、同じようなスパイものテレビドラマ「0011ナポレオン・ソロ」の1980年代のリメイク版でも、ボンドのイニシャル「JB」というコードネームを持つキャラクター(演じるのは「女王陛下の007」でボンドを演じたジョージ・レーゼンビー氏)が、アストンマーティンDB5に乗って登場します。
さて、今回「復刻再生産」されるゴールドフィンガーDB5 Continuationは、1985年の「美しき獲物たち」から2012年の「スカイフォール」までの007シリーズでスペシャル・エフェクトを担当したクリス・コーボールド氏が参加して、ボンドカーの特殊装備を取り付けることになりました。もちろん、回転式ナンバープレートや、独特のシルバーバーチ塗装も忠実に再現されます。
アストンマーティンのアンディ・パーマーCEOは「アストンマーティンとジェームズ・ボンドのつながりは非常に誇らしいものであり、DB5はジェームズ・ボンドの車としてその後何十年も記憶され続けています。ジェームズ・ボンドのファンにとって、DB5を手に入れることは長年の夢です。しかし、あのシルバーバーチ塗装の、特殊装備を満載したオリジナルのボンドカーと同じ仕様を持ち、同じ工場で作られたDB5はどうでしょう? それはファンにとって究極の夢だと思います。アストンマーティンの卓越した職人と、007映画のスペシャル・エフェクトのチームが協力して、25名の幸運な方に、その夢を現実のものとしていただけます」とコメントしています。
映画「007 ゴールドフィンガー」に登場するボンドカーを復刻した、アストンマーティンのゴールドフィンガーDB5 Continuationは、限定25台。これとは別に、アストンマーティンとイオン・プロダクションがそれぞれ保管するための2台と、チャリティオークションに供される1台が製造されます。価格は実物のオークション落札価格よりやや安い275万ポンド(税抜き)で、日本円にして約3億8870万円。2020年に最初の1台がデリバリーされる予定とのことです。ちなみに、回転式ナンバープレートなどの特殊装備が災いし、一般道を走るナンバーは取得できなくなっていますので、念のため。
Image:Aston Martin Lagonda
(咲村珠樹)