ドイツ軍の老朽化した大型輸送ヘリコプターCH-53Gに代わり、新型機を導入する「重輸送ヘリコプター(Schwerer TransportHubschrauber=STH)」計画。2018年11月に議会で予算が承認され、それにともない各メーカーに提案要求を出していましたが、2019年5月27日(現地時間)、シコルスキーがCH-53Kで提案書を提出したと発表しました。すでに5月24日、ボーイングもCH-47で提案書を提出しており、ローターレイアウトの異なる2機種による一騎打ちの様相を呈してきました。

 ドイツ軍は現在、CH-53Gを輸送ヘリコプターとして運用しています。しかしこれは1971年から1975年にわたって調達されたもの。寿命延長の改修や搭載機器の近代化改修を行ってきましたが、さすがに限界を迎えてきました。このため、2030年までに退役させるという計画を示しています。

 このCH-53Gの後継機を選定するのが、重輸送ヘリコプター(STH)計画。議会に承認された内容によると、総額40億ユーロ(約4900億円)を予算の上限とし、45~60機を2023年から2029年にかけて調達します。ドイツ政府は各メーカーに提案要求を出しましたが、現在のところ提案書を提出したのは、ボーイング(CH-47)とシコルスキー(CH-53K)の2社のみということになっています。

 CH-47は、前後に2つのローターを配置した「タンデムローター」式の大型双発ヘリコプター。チヌーク(ネイティブアメリカンの部族名)という愛称でも知られています。前後のローターが逆方向に回転し、互いのトルクを相殺するため、テイルブームやその先端のテイルローターを必要としないのが特徴。このため、機体の全長をフルに貨物室として使用できます。

 ボーイングはSTH計画の提案書提出に先立つ2018年4月25日(現地時間)、ドイツの航空関連企業9社とCH-47の生産や訓練、保守整備などに関して提携を結んでおり、採用された場合はドイツの産業や雇用面でもプラスになるとアピールしています。提案しているのはCH-47の最新型、CH-47Fの航続距離を延長したCH-47F ER(Extended Range)。

 対するシコルスキーのCH-53Kは、アメリカ海兵隊の要求により開発されたCH-53シリーズの最新型。大きなメインローターと、胴体から後方に伸びたテイルブーム先端にテイルローターを配置し、メインローターのトルクを相殺する標準的なレイアウトのヘリコプターですが、エンジンの数はCH-47よりも多い3発機となっています。このため、重量物の運搬能力はCH-47をしのぎます。

 シコルスキーのアピールポイントとしては、現在ドイツ軍が運用しているCH-53G(こちらはエンジンが2つの双発機)直系のモデルなので、これまでの延長線上で使える、ということ。ローター配置が異なり、操縦特性も若干異なるCH-47に比べ、パイロットが移行するのも容易だといえます。また、シコルスキーもドイツの防衛産業大手ラインメタルをはじめとするドイツ企業9社と、STH計画の戦略的パートナーシップ協定を結んでおり、ボーイング同様にドイツ国内でのメリットを提供する構えです。


 ドイツ政府は、6月24日に選定機種を発表する予定。はたしてCH-47F ERとCH-53K、どちらが次期大型輸送ヘリコプターの座を射止めることになるのでしょうか。

<出典・引用>
シコルスキー プレスリリース
ボーイング プレスリリース

Image:SikorskyBoeingBundeswehr

(咲村珠樹)