初期症状がほとんどないため早期発見が難しい、膵臓のがん「膵がん」は、見つかったときには進行が進んでいることが多いがんの一つ。病院で膵がんと診断される70~80%の患者さんは手術ができないほど、がんが転移し、進行していることがほとんど。

 そんな難治性のがんに新しい治療法をもたらし、保険適用とするための臨床研究の費用を募るプロジェクトを、関西医科大学がクラウドファンディングサイト「Readyfor」を通じて2019年6月10日から始めています。目標金額は1000万円。

■ がんの中でも特に死亡率が高い「膵がん」

 膵がんは、診断された人の5年生存率が7%前後。年間4万人近い方が亡くなっている、「難治性のがんの代表」。発見がどうしても遅くなりがちなため、診断されたときには腹膜や他の部位に転移している事も多く、がん細胞のある膵臓や周辺のリンパ節、転移した腹膜などを切除する手術を行っても、予後が短いがんです。

 手術の他にも、化学療法や放射線療法がありますが、膵がんの腹膜転移は、化学療法ですら続けることが難しくなります。腹膜に転移があれば治療をあきらめることも珍しくなく、腹膜転移を起こしている患者さんが5年生存することはまずありません。

 関西医科大学附属病院の里井壯平診療教授は、外科医としておよそ30年間患者さんの治療にあたり、そのうち20年間胆膵外科という領域で多くの患者さんを診てきました。膵がんの専門であるがゆえに、腹膜転移に伴う腹水がたまり痛みやごはんが食べられないというつらい症状が出てくることにより満足な治療ができず、苦しむ患者さんをたくさん診てきたという里井診療教授は、胃がんで腹膜転移の治療法に関する臨床研究を実践していた東京大学の北山丈二教授(現自治医科大学教授)に協力を仰ぎ、胃がんの腹膜転移の治療法に使われている「S-1+パクリタキセル経静脈・腹腔内投与併用療法」を膵がんへの応用に踏み切ったのでした。

 胃がんや膵がんなどに優れた治療効果がある経口抗がん剤である「S-1」と、胃癌や乳がんなどに優れた治療効果がある「パクリタキセル」を点滴剤として併用し、さらに「パクリタキセル」をおなかの中に投与する治療方法により腹膜転移に対してがんの進行を制御することがその目的です。

 ただ、抗がん剤自体が高額なうえ、この膵がんに応用した新しい治療法は、胃がんでは保険適用として認められているものの、膵がんの患者さんに対して保険適用とはなっていないのが現状。自費診療となるので患者さんに多額の費用負担(関西医科大学附属病院の場合約82万円+入院料その他)が発生し、現実的な選択肢とはなっていません。そして、日本では混合診療(保険診療と自費診療の混合)が許されておらず、2018年に公布された臨床研究に関する法律により臨床研究の実施が厳格化されたことにより、新規治療を実地診療で行うことは困難であることが大きな壁となっています。

■ 現時点では保険適応になっていない、膵がんの新しい治療

 そのため、「保険適用の治療」にするためには、(1)第1相試験(試験薬の用量設定を行う) → (2)第2相試験(試験薬の治療効果確かめる)→ (3)第3相試験(試験薬の有用性を無作為化比較試験で確かめる)→ (4)薬事承認審査委員会(厚生労働省)の大きく4つのステップを通過する必要があります。

 そこで、里井診療教授らは、「腹膜転移治療研究会」を立ち上げ、呼びかけに集まってくれた膵がんの専門医と全国30施設に協力を仰ぎ、臨床研究(第1相ならびに第2相試験)を行ってきました。そして、33名の患者さんに新しい治療法を導入したところ、生存期間の延長や、腹膜転移が消失して手術ができる患者さんがおよそ24%に認められ、今回の臨床研究に該当する第3相試験における新規治療が2017年に厚生労働省が主導する先進医療に承認されました(2017年 (先-269)第3号)。

 こうした実績を積み、確実に治療成果を上げているのですが、次のステップである厚生労働省に薬事申請を行い、承認を得るには高いハードルが待ち受けています。臨床研究の質や透明性を確保するために第3者機関であるデータセンターでの患者さんの登録、データ管理、モニタリング、監査などの工程と、データを統計学的に解析する作業が行われますが、ここまでの第3相試験を行うためには、総行程5年間、少なくとも1000万円ほどの莫大な運用資金が必要となります。

 1000万円の内訳は以下の通り

・500万円:有用性と無作為化比較試験の費用(データ管理・維持費)
・200万円:Electric data capture systemの構築(電子的に臨床データを収集するシステム)
・200万円:10施設にて臨床試験を受ける方を集う広報を行う費用
・100万円:臨床試験の進捗状況や問題点を討議するための会議費用

■ 1000万円の高いハードルと、期待できない製薬会社からの協力

 本来であれば期待したいのが製薬会社等からの資金提供ですが、「新規治療はジェネリック医薬品で構成されているため、製薬会社からの資金提供は期待できず、臨床研究の遂行は暗礁に乗り上げています」といいます。

 そこで、クラウドファンディングという形でこの薬事承認検査を受けるための臨床研究費の応援を募ることとなりました。より早く保険適用とし、より多くの患者さんがこの治療法を試せるように、そして将来、いつ自分や家族が膵がんで辛い思いをすることになったときにも、保険適応で治療が受けられるための土台を作り上げるためにも、膵がんのスペシャリストたちが立ち上がっています。

 関西医科大学附属病院へのクラウドファンディングを通した寄附については、税制上の優遇措置が受けられます。

 クラウドファンディングの目標金額は1000万円。クラウドファンディング「Readyfor」にて行われ、掲載ページアドレスは「https://readyfor.jp/projects/suigan」。9月8日午後11:00までに、1000万円以上集まった場合に成立となります。6月11日午後2時現在で達成率は32%。寄付金額に応じて、御礼状、寄附証明書、報告書、報告書に氏名の掲載(希望者のみ)、記念品が送られます。

<参考・引用>
学校法人関西医科大学 2019年6月10日発表
Readyfor「膵がん腹膜転移の患者さんに希望の光を。新しい治療法の挑戦へ」

(梓川みいな)