おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

手話が分からなくても伝える方法 スマートなスマホの使い方に「真似したい」

 今は視覚や聴覚に障害があっても、スマホを使えば必要な情報を得ることができるようになりました。しかし、突然の事態にはやはりすぐ情報を得ることは難しいものです。そんな不安な時に、ある見知らぬ人が助け船を出した方法が素晴らしい、と関心を集めています。

  •  先天性の聴覚障害を持つ、“ねこ(耳をお空に置いてきた)”さん(以下ねこさん)。普段は手話で友人などとコミュニケーションをとっていますが、耳が聞こえないながらも、ろう・難聴・手話関連の情報提供や、聞こえない人と聞こえる人が互いに理解し合って、聞こえない人への偏見や無理解をなくしていく活動などを行っています。

     そんな聴覚障害の当事者であるねこさんが体験したことをツイッターに投稿したところ、1.3万件のリツイート、4.3万件のいいねが付きました。その内容とは……。

    今夜飲み会の帰り友達と電車乗ってたんだけど、なかなか発車しない。
    どうしたのかな?と友達と手話しながらキョロキョロしてると、向かいに座ってた人がiPhoneの画面を見せてくれて「中央線で人身事故があって停車すると放送がありました」って。
    わーこういうの嬉しい!

     という話。電車に乗っていると、都市部では電車がしばしば人身事故に巻き込まれやすく、特に東京寄りの中央線では多いようです。大概こういう時は車掌さんが車内へアナウンスをして案内をしてくれますが、ねこさんもご友人も耳が聞こえず、手話で何が起こったのだろうか、と、若干の不安をおぼえつつ会話していたのだそう。

     それを見ていたのが、向かい側に座っていた人。手話独特の手の動きから、どうして電車が止まってしまったのかが分からずに不安に思っているであろうと、スマホのメモ帳アプリを使い、事故があった旨を伝えてくれたのです。

     何故突然、電車が動かなくなってしまったのかが伝わっていなかったねこさんたちにとっては、その行動は分かりやすくありがたかったものだったことでしょう。

     電車内のドアの上などに付いているディスプレイや、首都圏を走る電車に使われているデジタル広告には、こういった事故の情報はいったん運転司令所に集められ、そこから各列車に一斉配信する仕組みになっているので、発生したばかりの事態についての情報を即座に反映させることができません。お向かいの人による親切な行動は、ねこさんたちにとって具体的な内容を知らせることとなり、不安を解消してくれるものとなったのです。

     駅でもない場所で突然電車が立ち往生となってしまうと、聴覚障害がある人にとっては何が起こったのかを把握できず、不安だけが強くなりがち。

     車内の情報ディスプレイにも事故情報が反映されないので、こうした機転の良さを利かせてくださった方の行動はツイッターでも話題となり、「手話ができなくても助けたい、という気持ちがあれば、今の時代は伝える手段がたくさんある」といった意見や、「何が起きたか分からなくて不安になってるな」という風に判断して手助けしてくれたんでしょうね、といったリプライが届いています。

     そして、「その時が来たら自分も真似して助けたい」という人が何人も。逆に聞こえない方の人からも、手話だと他の人には通じないのでスマホのメモ帳で同じように聞いた事があります、という声も。

     また、「せっかく電車内ディスプレイがあるのだから緊急時のアナウンスはディスプレイにも即座に表示されるようになってくれたら、聞こえる人たちも分かりやすいし外国人にも分かりやすいのにね」といった意見も。現状では先述の通り、システム上すぐに反映させることは困難。運行中の一編成に、直接リアルタイムな情報を表示させることができる設備も開発が進んでいるようですが、まだ全車両へ導入されるようになるかは明らかではありません。

     聞こえる人にとって簡単に手に入れることができる情報は、時に聞こえない人にとっては同じように手に入れることができません。こうした突発的な状態を誰にでも分かるようにするのも、バリアフリー社会をつくるために必要なことであると思います。

     ねこさんは、ご自身が聴覚を失いながらも働いていくことについて、「発音ができなくても、耳の聞こえが悪くても、周りの方々とパソコンでチャットや筆談したりなどの方法で仕事をしたり、また、聞こえる部下を何人か持って出世したりしている人もいます。当事者の頑張りだけでなく周囲の方々の理解もあれば聞こえる方も聞こえない方もともに生きていくことができます」と、道具と周囲の理解がそろうことでバリアフリーに働けることをお話してくださいました。

     そして、「聞こえないということは決して不幸なことではない」とも。余計な雑音や騒音が聞こえてこないのはもちろんですが、理解のある人と、周囲のちょっとした手助けを感じることは「当たり前」ではないのです。ありがたい、と感謝することが幸せを感じることに繋がるでしょう。

     先天性の難聴は、風疹による「先天性風疹症候群」や、遺伝性のものなどがありますが、成人後にも聴覚を失う病気は多くあります。いずれの場合も、聞こえないことを他の方法でカバーすることで、社会活動を続けていくことができます。そのためには、やはり周囲の理解や表示方法などの改善など、物心ともにバリアフリー化を進めていくことが肝要。

     もし、誰かが困っている様子を見つけた時は、その人が何に対して困っているかを観察して、少しの勇気と一緒に「一緒に解決しよう」というサインを送ることが、より住みやすい社会を作っていくのではないでしょうか。

    <記事化協力>
    ねこ(耳をお空に置いてきた)さん(@catfoodmami)

    (梓川みいな)

    あわせて読みたい関連記事
  • LLブック トップページ
    社会, 経済

    ひそかに話題の「LLブック」とは?「誰でも読める」全ての人に優しい本なんです

  • 付属のスロープで、バリアフリーのごっこ遊び
    商品・物販, 経済

    車いすに乗った「バービー」が新発売 付属のスロープでバリアフリーも

  • 叩いた音が「見える」マンガ太鼓 二次元と三次元が融合したユニーク作品に注目
    インターネット, おもしろ

    叩いた音が「見える」マンガ太鼓 二次元と三次元が融合したユニーク作品に注目

  • 障害のある猫が受け入れられる社会に 全盲猫との暮らしを発信する飼い主さんに話を聞いてみた
    インターネット, 感動・ほのぼの

    障害のある猫が受け入れられる社会に 全盲猫との暮らしを発信する飼い主さんに話を聞…

  • 「ダイアログ・イン・サイレンス」×「電話リレーサービス」コラボ企画プレス説明会の登壇者
    イベント・キャンペーン, 経済

    音声と手話でスムーズに通話「ダイアログ・イン・サイレンス」×「電話リレーサービス…

  • ミケランジェロさん(@Twepf9pOm6k7KuF)提供
    社会, 経済

    現代のオートメイル 義手ユーザーが内部構造を紹介

  • これが私の「Born this way」。最高に自分らしいスタイルでガガ様のライブを楽しんだ車椅子ギャルの最強な一日。
    エンタメ, 音楽・映像

    これが私の「Born this way」 最高に自分らしいスタイルでガガ様のライ…

  • 環境音やアナウンスを文字化した「エキマトペ」で音の「正解」を知ったうさささん(うさささん提供)
    インターネット, 感動・ほのぼの

    あの「音の正解」はこれだった!上野駅「エキマトペ」で耳の聞こえない人が感動

  • 手話教育の功労者・高橋潔を描く映画「ヒゲの校長」
    エンタメ, 映画

    手話教育の功労者・高橋潔を描く映画「ヒゲの校長」 完成目指しクラウドファンディン…

  • 車椅子ユーザーはつみさんのツイート
    インターネット, 社会・物議

    健常者も車椅子の楽しさを体験してほしい! ある車椅子ユーザーの取り組み

  • 梓川みいな看護師(正看護師有資格者)

    記事一覧

    一般内科、呼吸器科、整形外科、老年科、発達障害などを得意とする。医療・介護福祉等に高反応。雑多なネタも紹介していきます。
    娘二人(ともに発達障害あり)とネコ二匹の母。シングル。

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと
    社会, 雑学

    災害ボランティアに行く前にやっておくべき大切なこと

  • お餅での事故を防ぐ ここがポイント!(出典:政府広報オンライン)
    社会, 雑学

    お餅での事故を防ぐ 3つのサインと3つのポイント!

  • 巨大イベントへ遠征に行ったらインフルエンザを拾ってきた話(画像:イラストACより)
    ライフ, 雑学

    巨大イベントへ遠征に行ったらインフルエンザを拾ってきた話

  • 【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?
    ライフ, 雑学

    【ナースなコラム】MRIに禁忌なアレコレ え?増毛パウダーも!?

  • みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?
    ライフ, 雑学

    みかんは体に良いってほんと? 効能は?適量は?

  • 【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし
    ライフ, 雑学

    【看護師コラム】実はこれやっちゃダメなんです!処方薬の使いまわし

  • トピックス

    1. 夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      毎日暑い日が続くと、火を使う料理が億劫になるもの。そんな時におすすめのレシピを、料理研究家のリュウジ…
    2. 愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      あらゆる意味で一生忘れられない誕生日になりそうです。4歳のシーズー犬「てんぽ」ちゃんのため、飼い主さ…
    3. ポケポケ新カードに不備、公式が謝罪 ホウオウ・ルギアのイラスト差し替えへ

      ポケポケ新カードに不備、公式が謝罪 ホウオウ・ルギアのイラスト差し替えへ

      株式会社ポケモンは7月30日、スマートフォン向けポケモンカードゲームアプリ「Pokemon Trad…

    編集部おすすめ

    1. 防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省は7月30日、「今後の観閲式等について」と題した文書を公開。観閲式、観艦式、航空観閲式について、今後は開催しない方針を明らかにしました…
    2. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    3. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    4. 子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子どもにとっては待ちに待った夏休み。しかし親にとっては……。我が子が夏休みに突入したある母の後ろ姿が、まるで“戦士”のようだとXで話題を集め…
    5. KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      株式会社KADOKAWAは7月23日、イラストレーター・がおう氏に関する一連の報道を受け、同氏が関与した複数の出版物について、紙書籍の回収・…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト