世界中で新型コロナウイルスの感染が広がっています。イギリスでは重症患者を受け入れる病院の容量が足りず、政府はNHS(国民保健サービス)のもと、コンベンションセンターなどを臨時病院に転用しました。この開設作業に陸軍の部隊が動員されています。
イギリスの国営医療サービス事業を担っているNHS(National Health Service)。利用者の健康リスクや経済状況にかかわらず、公費負担で医療サービスが受けられるという、イギリスの医療制度において根幹をなすものです。
NHSは今回の新型コロナウイルス感染拡大でも、最前線に立って医療活動にあたっています。しかし、重症肺炎患者が増加し、国内の既存の病院では収容しきれなくなりました。そこでイギリス政府はNHSの「ナイチンゲール病院」開設を決断したのです。
ナイチンゲール病院とは、NHSが医療危機事態に際して臨時に開設する病院の総称。複数開設する場合もあり、その際は「ナイチンゲール病院」の後ろに開設地の名称をつけて区別します。
イギリスではこの「ナイチンゲール病院」開設を前提に、地域の大規模なコンベンションセンターやアリーナなど、大規模施設と緊急時の使用協定を結んでいます。今回の新型コロナウイルス感染拡大にあたっては、まずロンドンに最初のナイチンゲール病院を開設することが3月24日に決定されました。
ロンドンでナイチンゲール病院に転用されることになったのは、東部ニューハム地区にあるコンベンションセンター「ExCeL ロンドン」。開設工事に動員されたのはイギリス陸軍。ネパール人兵士で構成される王立グルカ連隊と、施設の構築に長けた工兵部隊です。夜間、開設に必要な資材を積んだ軍用トラックが集結。
現地「ExCeL ロンドン」に到着すると、荷下ろし作業。すぐに病院への改装作業が始まります。
広大な展示ホールに、まず床材を敷きつめます。一方、各病床を区切る壁材の加工も開始。
ガランとした展示ホールに、次々と病床区画が出来上がっていきます。完成した区画ごとに、酸素吸入や人工呼吸器を設置するため、電気配線などの工事も進みます。
ExCeL ロンドンを改装したナイチンゲール病院・ロンドンは、2つの展示ホールに4000床のベッドを確保。各ベッドには酸素の供給と人工呼吸器が備えられており、4月から重症肺炎患者を受け入れています。
イギリス国防省のベン・ウォレス国防長官は「軍の設計者とエンジニアは、NHSと手に手を取ってナイチンゲール病院の開設に協力しています。これ以外にも、軍は感染予防のための物資を国内の必要な場所に配送しています。NHSとイギリス軍は、互いの分野における世界的リーダーであり、この野心的なプロジェクトは、ともに国を救うという目的のために協力し合う一例です」とコメントを発表しています。
イギリス国内の「ナイチンゲール病院」はロンドンのほか、バーミンガムのコンベンションセンター「NEC」に最大2000床、そしてマンチェスターのコンベンションセンター「マンチェスター・セントラル・コンプレックス」に最大1000床の規模で開設が決定されました。NHSでは今後も状況に応じて「ナイチンゲール病院」を増やし、最大で3万3000床のベッドを提供し、1万8000人の医師や看護師を動員するとしています。
<出典・引用>
イギリス陸軍 COVID-19ニュースページ
NHS ニュースリリース
Image:Crown Copyright 2020
(咲村珠樹)