アメリカ宇宙軍の無人宇宙往還機、X-37Bを載せたアトラスVロケットが2020年5月17日(アメリカ東部時間)に、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げられました。X-37Bの打ち上げは通算6回目、今回はアメリカ空軍大学の小型衛星などを軌道に投入します。
X-37Bはボーイングが開発した、無人の再利用型宇宙往還機(スペースシャトル)。当初はNASAのプロジェクトとして始まりましたが、2004年にアメリカ国防総省へプロジェクトが移管されました。現在はアメリカ空軍宇宙軍団を経て、アメリカ宇宙軍のプロジェクトとなっています。
滑空試験用のX-37Aによって、帰還時の航空機としての飛行(滑空)特性が検討されたのち、実際に宇宙へ行く軌道試験機(OTV=Orbital Test Vehicle)として作られたのがX-37B。X-37Bは2機建造され、2010年に初めて打ち上げられました。
機体形状はスペースシャトルのオービターによく似ていますが、垂直尾翼はスペースシャトルの1枚に対し2枚。全長8.92m、全幅4.55mと、スペースシャトル(全長37.237m/全幅23.79m)の4分の1程度の大きさとなっています。
X-37Bの打ち上げは、2017年9月7日以来6回目。前回は初めてスペースXのファルコン9ロケットが使用されたほか、2019年10月27日にケネディ宇宙センターのスペースシャトル帰還施設に着陸するまで、2年余り地球周回軌道にとどまるという、これまでで最長のフライトとなりました。
今回のフライトでは、X-37Bのペイロードベイ(貨物室)にアメリカ空軍大学校の人工衛星「FalconSat-8」が搭載され、軌道に投入されます。このほかには、NASAの依頼による宇宙放射線など宇宙ならではの環境で素材がどのような変化をするのか検証する様々なサンプル(供試体)、宇宙で植物を栽培する「宇宙農業」の基礎研究に使用される種子のサンプル、そしてアメリカ海軍研究所による宇宙発電所の研究に使用される、太陽電池で発電した電気をマイクロ波で地球上へ伝送する実験機が搭載されました。
打ち上げに際し、このミッション(USSF-7/OTV-6)は新型コロナウイルス(COVID-19)の犠牲となった人々を追悼するとともに、今も最前線で戦っている医療従事者らに捧げるものとされ、X-37Bを格納するペイロードフェアリングには、そのことを示すメッセージが書き込まれました。
X-37Bを搭載したアトラスV(501)ロケットの打ち上げ予定日は5月16日でしたが、悪天候のため1日延期され、現地時間17日9時14分にケープカナベラル空軍基地の第41打ち上げ施設から打ち上げられました。打ち上げからおよそ5分後、X-37Bはロケットから分離され、打ち上げは成功しました。
打ち上げ成功を受けて、打ち上げを担当したULAのゲイリー・ウェンツ副社長は「今回の打ち上げ成功は、新型コロナウイルスの感染拡大という非常に困難かつ、絶えず変化する安全や健康面の状況の中、顧客の皆さんと一緒に努力した結果です」とのコメントを発表しました。
ボーイングでこの計画を統括するジム・チルトン上級副社長は「X-37Bはパラダイムシフトをなしとげ、宇宙開発における効率性を再定義する存在です。このプロプラムで可能となった技術の急速な進歩は、宇宙開発コミュニティ全体に利益をもたらし、次世代の宇宙船開発にも影響を与えることでしょう」というコメントを発表しています。
地球周回軌道に投入されたX-37Bは、搭載するFalconSat-8を予定軌道に投入したのち、宇宙空間に長期間とどまって宇宙空間における材料試験を実施するほか、宇宙発電所構想における電力の伝送実験などをする予定。長期間飛行することで、X-37B自身の宇宙空間における耐久性も実験されることになります。
<出典・引用>
アメリカ宇宙軍 ニュースリリース
ULA ニュースリリース
ボーイング ニュースリリース
Image:USAF/Boeing/ULA
(咲村珠樹)