新型コロナウイルス禍でリモート講義が続き、通学しやすい場所に住むべきか迷っている大学生も多いかと思いますが、どこまでの範囲だったら通学可能なのか、知りたくありませんか?京都にある立命館大学の地理学サークルが、鉄道を使って午前9時に始まる1限目に間に合う範囲を示したマップを作成、公開しました。

 このマップを作成した立命館大学地理学研究会は、大学の学術部公認サークルとして活動している団体。フィールドワークと呼ばれる現地調査をしたり、測量したデータなどをもとにパソコン(GISソフト)を使って地図を実際に作ったりといった活動を行っています。

 今回、サークルの公式Twitterアカウントで公開された「1限に間に合うマップ」は、もともと学園祭で展示した地図をもとにアップデートしたもの。学園祭ということもあり、一般の方に地理や地図について興味を持ってもらおうと、このようなマップ作成に至ったそうです。

■ 条件は「立命館大衣笠キャンパスへ9時までにたどり着けること」

 作成にあたっての条件は、「京都市北区等持院北町にある立命館大学衣笠キャンパスに、1限の講義が始まる午前9時までにたどり着ける範囲」。目と鼻の先には石庭で知られる龍安寺があり、金閣寺や北野天満宮もほど近いという立地のキャンパスですが、鉄道を使って移動することを前提として調査・作図が行われています。

 衣笠キャンパスの最寄駅は、京福電鉄北野線の等持院駅もしくは龍安寺駅。とはいえほかの鉄道から乗り換えが難しい路線なので、京都市内各駅からキャンパスまではバス移動可という条件です。

 鉄道ファンなら、このチャレンジに親しみのある人も多いのではないでしょうか。JR各社の普通列車が1回あたり1日乗り放題になる「青春18きっぷ」を使い、できるだけ遠くまで乗ってやろうというのを逆にしたようなものですね。

 乗換案内のアプリやウェブサービスを使って調べていったそうですが、経路や交通機関の組み合わせ条件によっては納得のいかない結果が出ることもあり、そういった場合は時刻表を丹念に読み込んで乗り継ぎを調べていったんだとか。シビアな乗り継ぎをすることもある鉄道ファンが、冊子の時刻表を信頼するのも分かりますね。

 また、今回のマップでは「午前9時の1限に間に合うギリギリの遅い時刻」という条件で作られているとのこと。なので姫路や米原といった近距離でも、積極的に特急や新幹線を利用する形で経路が計算されているといいます。

■ 最東端は千葉県・茨城県

 こうして検索した結果を集め、ArcMapというGIS(地理情報システム)ソフトを活用して完成したのが、通称「1限マップ」。地理学的なお遊びが詰まった地図になっています。

立命館大学地理学研究会の「1限マップ」(立命館大学地理学研究会提供)

 新幹線恐るべし、ということを感じさせるのが、最東端の茨城県の取手駅(JR常磐線4:44発)や守谷駅(つくばエクスプレス5:04発)、千葉県の蘇我駅(JR京葉線4:50発)。京都からは500kmほど離れています。これは、6:00に東京駅を発車する「のぞみ1号(京都着8:08)」に間に合うギリギリの時間ということでしょう。

 筆者は実際に「のぞみ1号」に乗って博多まで行ったことがありますが、朝早いので発車してすぐに眠ってしまい、気がついたら広島に着くところだったということがありました。2時間あまりで着く京都で降りるなら、居眠り厳禁ですね。

■ 特急・新幹線利用可で地理的逆転現象も

 新幹線や特急を積極的に使う分、マップに示された点は必ずしも連続しておらず、所々途切れているのが特徴。東海道新幹線では静岡県でプツプツと途切れています。「のぞみ」が利用できない静岡県の三島駅では、JR東海道線で静岡まで行って新幹線ひかり533号(京都着8:00)に乗るため5:32発、逆に東京都の羽田空港駅が5:34発(京浜急行快特)でもOKと、地理的な逆転現象も起きています。

 北端は特急が使える金沢で、5:35発の特急サンダーバード2号(京都着7:51)。西は山口県の岩国駅で5:16発の普通列車に乗り、広島で新幹線(6:26発のぞみ90号)に乗り換えるパターン。意外と四国でも、愛媛県の伊予西条駅から4:59発(特急しおかぜ3号・岡山で新幹線のぞみ90号に乗り換え)で間に合うんですね。

 南端は和歌山県の御坊駅。5:12発の京橋行き直通快速に乗り、海南駅で特急くろしお6号(6:16発)、新大阪でのぞみ214号(8:09発)に乗り換えると、京都駅へ8:22に到着します。

■ 普通列車のみだとどれくらいの範囲?

 ちなみに現実的なパターンで、普通列車のみで到達できる最大の範囲をうかがってみたところ「東が愛知県の高蔵寺駅、西が兵庫県の上郡駅、南が和歌山県の和歌山駅、北が福井県の敦賀駅でした」とのこと。この範囲ならば、通常の通学定期券で通えなくもない、ということになりそうです。もちろん、早起きは必須ですが。

 このマップ、午前9時前に京都駅まで到達できる範囲を示しているということは、会社で「京都まで日帰り出張できる」かどうか、ということにも使えそうです。あくまでも理論上のことで、もし実際に活用する会社があったら、けっこうブラック企業的かもしれません。

 地図を作成した代表者の方は、取材に対し「立命館大学で学べる地理学の授業には、今回活用したGISソフトを扱うものが多数開講されています。このマップが話題になることで、地理学の知名度が上がれば嬉しいですね」と語ってくれました。

 地理的に離れた場所であっても、交通機関が発達していれば比較的短時間に移動できる、ということを示した立命館大学地理学研究会の「1限マップ」。こういう別の視点から日本や身近な土地を見直すというのは、地理学の醍醐味のひとつです。自分なりの切り口で地図を見ていくと、意外な発見があるかもしれませんよ。

<記事化協力>
立命館大学地理学研究会(@Rits_Chiriken)

(咲村珠樹)