おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

ホラー・ミステリ「致死量の友だち」を書いた田辺青蛙さんにきいてみる(深水英一郎氏寄稿)

 こんにちは、深水英一郎です。 

 著者による著書紹介、今回お話をきくのはホラー・ミステリの書き下ろし新作「致死量の友だち」の作者、田辺青蛙さんです。

  •  まずはどんな作品なのか、その紹介文を見てみましょう……

     学校で苛烈な虐めをうける少女、宇打ひじり。クラスでは言葉によるものだけではなく、暴力もうけており、死をも考えるようになった。そんな状態のひじりは、クラスメイトの夕実から毒を使って一緒に仕返しをしようと誘われる。夕実も校内で悍ましい仕打ちをうけていたからだ。彼女に誘われるまま、仕返しを考えるようになったひじりは、夕実から毒の知識を得るとともに、彼女からの指示によって毒物を集めて報告するなど、憧れや恋に似た依存を強めていく。そして、次々と学園内で事件が起こりはじめ……。

    【著者 田辺青蛙さんプロフィール】
    田辺青蛙(たなべ せいあ)
    大阪市在住。2006年ビーケーワン怪談大賞で「薫糖」が佳作となり、「てのひら怪談」に5作品が収録される。2008年日本ホラー小説大賞短編賞を「生き屏風」で受賞。同作で角川ホラー文庫でデビュー。著書に「大阪怪談」「関西怪談」「人魚の石」など
    https://twitter.com/Seia_Tanabe

    【紹介してもらった本】
    「致死量の友だち」(田辺青蛙著、二見書房) 2022年2月21日発売

    ——本日はよろしくお願いします。この作品の着想はどこで得られたのでしょうか。

    【田辺さん】
     「青酸コーラ無差別殺人事件」という事件が1977年にあり、3名の方が亡くなっています。また、「パラコート連続毒殺事件」という1985年4月30日から11月17日の間に日本各地で連続発生した無差別毒殺事件もあり、除草剤のパラコートを飲み物に混ぜた事件で12名の方が亡くなっていて、どちらの事件も犯人も動機も不明なまま時効を迎えています。

     子供の時に一人留守番をしていて、TVを見ていると過去の事件を扱った番組で、それらの事件の当時の報道が映し出されていて、凄くインパクトがあって怖かったのを覚えています。

     ホラーを書く上で大事なのは、自分が怖いと思ったり、感じたことを書くことだと、先輩の作家からアドバイスを受けたことがありました。この話のアイディアを考えていた時に、ふっと子供の時に見た映像から感じた、得体の知れない怖さみたいなものを「毒」を使った事件ということで表現出来ないかなと思って書きました。今だと監視カメラ等があって、こういう犯罪を起こすことは不可能だと思うので、作中の時代は今から数十年前に設定されています。

     理不尽な虐めの怖さと、それに対抗するエネルギーもまた怖いぞっていうのを、読んでほんの少しでも感じていただければ嬉しいです。

     それと、作中の設定が今から数十年前っていうことで、インターネットの黎明期のネタを入れたのですが、編集者から今どきの人は分からないですよ……と言われたので、ザックリ削りましたが、少しだけ残している部分もあります。読者の方の大部分がどーでもいいよと思う箇所かもしれませんが、ちょこちょこと出て来る単語に当時の懐かしさを感じてくれるといいですね。

    ——そういう仕掛けがあると、読んでいる方も楽しみですね
     
     あと「毒」ということで、食べ物の描写をあえて美味しくなさそうにしています。

     本筋とあまり関係ないそういうちょこっとしたところに力を入れて書いているのは、私の性分ですね。

    ——今回ミステリ執筆に挑まれたのはなにかきっかけがあるのでしょうか?

     もともとは編集者からの依頼からはじまりました。

     二見書房さんがホラー×ミステリの新しいレーベルを作るというのが依頼のきっかけです。今まで書いたことないジャンルの依頼だったので、二見書房さんも冒険だったのではないかと思います。

    ——今回の作品、田辺さんがこれまで多く手掛けてきた怪談作品とジャンルが異なるので作り方が異なってくるのではないかと思うのですが

     ホラー・ミステリという依頼を受け、初めて書くジャンルなので何をどうすればいいか分からず、数パターンの原稿を送り、その中から編集者の意見を聞きながら内容を詰めていくという流れで書いていきました。

     怪談は怪奇現象の体験者から聞いた話を原稿にするところが、創作で書いていく小説との違いだったと思います。

     そして、小説は主人公を含めたキャラが何故、どうしてそのような行動を取ったのか、今誰が何を考えているかを想像しながら書きますが、怪談の場合は幽霊が出てきても、幽霊の気持ちは分かりませんし、私の取材した範囲での話になりますが……幽霊を見た人の気持ちも驚いたり、気持ち悪がったりと、正直言ってあまりパターンは豊富ではありません。

     怪談は細かい部分を説明し過ぎると怖くならない場合が多いので、何故そこに幽霊なり、お化けが出るんだろう? という想像の余白部分を残す必要がありますが、ミステリで人を殺した理由は不明です……じゃ駄目だと思うので、その辺りの切り替えが苦労というか、しんどかったです。今回、執筆中は霧の中にいるような気分で、編集者のアドバイスにかなり助けられました。

    ——田辺さんの今後の活動予定について教えてください。

     今年は、昨年出した「大阪怪談」の続刊とWeb連載中の「北海道の怖いはなし」を出す予定です。幻冬舎Webで連載中の「人形怪談」も含めて、怪談の執筆は今後も続きそうですが、それだけでなく「人魚の石」のような幻想小説もこっそりと書き溜めている最中です。

    ——今後の活躍も楽しみにしております。本日はありがとうございました!

    (了)

    【ききて・深水英一郎 プロフィール】
    作った人自身に作品を紹介してもらう「きいてみる」を企画中 https://kiitemiru.com/
    個人作り手によるアウトプットの拡大とそれがもたらす世の中の変化に興味があります。
    ネット黎明期にインターネットの本屋さん「まぐまぐ」を個人で発案、開発運営し「メルマガの父」と呼ばれる。Web of the Yearで日本一となり3年連続入賞。新しいマーケティング方式を確立したとしてWebクリエーション・アウォード受賞。元未来検索ブラジル社代表で、ニュースサイト「ガジェット通信」を創刊、「ネット流行語大賞」や日本初のMCN「ガジェクリ」立ち上げ。スタートアップのお手伝いをしながらメディアへの寄稿をおこなう。シュークリームが大好き。

    あわせて読みたい関連記事
  • 仮装用卒塔婆にまさかの情操教育 弟の本気がホラーすぎた
    インターネット, おもしろ

    仮装用卒塔婆にまさかの情操教育 弟の本気がホラーすぎた

  • 危険なテレビ裏に突撃する我が子 近寄らせないために「化け物」を仕掛けた結果
    インターネット, おもしろ

    危険なテレビ裏に突撃する我が子 近寄らせないために「化け物」を仕掛けた結果

  • 【体験レポ】「落とし物:黒い封筒」を開封してみた 自宅で本当に心霊現象が起きる?一夜のゾク体験
    エンタメ, 映画

    【体験レポ】「落とし物:黒い封筒」を開封してみた 自宅で本当に心霊現象が起きる?…

  • 怨念渦巻く家で、ナダルと村重杏奈が「リフォームホラーハウス」に挑む
    TV・ドラマ, エンタメ

    一軒家を魔改築する「リフォームホラーハウス」、MBSテレビで放送

  • 愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴
    インターネット, おもしろ

    愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

  • 家中に出没する「謎の生き物」……10歳息子の力作に仰天
    インターネット, おもしろ

    家中に出没する「謎の生き物」……10歳息子の力作に仰天

  • 音声入力が当たり前の世界
    インターネット, 雑学・コラム

    えっ!まだキーボードで入力してるの? 2倍速入力も狙える「音声入力」に乗り換えよ…

  • ホラー映画のワンシーンにしか見えない
    インターネット, おもしろ

    仄暗い廊下の奥から老女が迫る……!「トラウマ級」の鬼ごっこ写真

  • 車の中に潜んだペニーワイズ!売りに出したあとで気づいたうっかりミス
    インターネット, おもしろ

    車の中に潜んだペニーワイズ!売りに出したあとで気づいたうっかりミス

  • 一瞬でホラー映画の世界観に!謎の楽器「ウォーターフォン」とは?
    インターネット, 雑学・コラム

    一瞬でホラー映画の世界観に!謎の楽器「ウォーターフォン」とは?

  • 深水英一郎(ふかみえいいちろう)現代歌人・エッセイスト

    記事一覧

    短歌や詩を書いています。『短歌の日』呼びかけ人 、短歌投稿企画『ついうた』主催 | 笹舟にちょうどよい笹にみとれて川に転落したことがあります | 基本いつでものんきです | シュークリームが好き | 日本でのCGM・フリーミアムモデルの先駆けとなるメルマガプラットフォーム「まぐまぐ」を個人で開発したため「メルマガの父」と呼ばれる。まぐまぐは Web of the Year 年間総合大賞を受賞、日本一のWebサイトとなりました | Twitter https://twitter.com/fukamie

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 音声入力が当たり前の世界
    インターネット, 雑学・コラム

    えっ!まだキーボードで入力してるの? 2倍速入力も狙える「音声入力」に乗り換えよ…

  • 短歌の日
    イベント・キャンペーン, 経済

    短歌バトルにクイズも?ネット短歌企画者があつまる「短歌の日」スタート 5月7日ま…

  • 「ひろゆきに裁判で勝った人」が考える「金融庁が広報動画にひろゆきを起用」したことの危険性
    インターネット, 社会・物議

    「ひろゆきに裁判で勝った人」が考える「金融庁が広報動画にひろゆきを起用」したこと…

  • プレゼンリモコンに電子書籍のページめくりという新しい役目を与えよう(深水英一郎氏寄稿)
    ライフ, 雑学

    プレゼンリモコンに電子書籍のページめくりという新しい役目を与えよう(深水英一郎氏…

  • 泣き顔はどれ?
    社会, 雑学

    「泣き顔」「眠い顔」「よだれ」の絵文字を見分けられますか?(深水英一郎氏寄稿)

  • NFT解説マンガのセリフ、どこが間違ってる? 深水英一郎
    インターネット, サービス・テクノロジー

    NFT解説マンガのセリフ、どこが間違ってるかわかる?(深水英一郎氏寄稿)

  • トピックス

    1. 警告ポップアップで強引に広告誘導 悪質業者が仕掛ける正規サービスを悪用した罠

      警告ポップアップで強引に広告誘導 悪質業者が仕掛ける正規サービスを悪用した罠

      インターネットを使っていると、ふとした瞬間に現れる「警告ポップアップ」。 近ごろでは「サポート詐欺」…
    2. 母に何気なく70年万博の話をしたら……“55年前の資料”にテンション爆上がり

      母に何気なく70年万博の話をしたら……“55年前の資料”にテンション爆上がり

      大阪・関西万博をきっかけに、55年前の1970年の大阪万博(以下、70年万博)に興味を抱くようになっ…
    3. ハチワレ特製「暗殺者のチャルメラ」を再現 トマトと粉チーズでインスタントラーメンが大変身

      ハチワレ特製「暗殺者のチャルメラ」を再現 トマトと粉チーズでインスタントラーメンが大変身

      10月1日にXで公開された漫画「ちいかわ」にて、ハチワレがちいかわに振る舞った“暗殺者のチャルメラ”…

    編集部おすすめ

    1. ネカフェの個室に不気味なトランプが……Xユーザーの“恐怖体験”に17万いいね

      ネカフェの個室に不気味なトランプが……Xユーザーの“恐怖体験”に17万いいね

      キーボードに差し込まれたトランプのジョーカーと、その裏に書かれた「げぇむすたあと」の文字。Xユーザーの「たーけ」さんが、たまたま入ったネット…
    2. フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

      フライドポテトで、白ごはんを食べる……?ドンキ新作が過去イチ理解できなかった件

      「みんなの75点より、誰かの120点」を合言葉にドン・キホーテが展開している偏愛メシシリーズ。10月1日に「本当にこの組み合わせが好きな人が…
    3. 将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

      将棋倶楽部24、2025年末でサービス終了 27年の歴史に幕

      オンライン将棋対局サービス「将棋倶楽部24」が、2025年12月31日をもって終了することが発表された。運営する席主の久米宏氏が10月1日付…
    4. pium、“カスハラ声明”きっかけに炎上 接客批判受け謝罪と改善策

      pium、“カスハラ声明”きっかけに炎上 接客批判受け謝罪と改善策

      アパレルブランド「pium」が9月30日、店舗スタッフの接客に対する多数の指摘や批判を受け、公式Xにて謝罪文を公開しました。併せて再発防止策…
    5. 「ビー・バップ」クラファン始動、清水で“高校与太郎祭”実現へ 返礼に「鉄橋ダイブ」関連も

      「ビー・バップ」クラファン始動、清水で“高校与太郎祭”実現へ 返礼に「鉄橋ダイブ」関連も

      映画「ビー・バップ・ハイスクール」のロケ地として知られる静岡市清水区で、作品ゆかりの企画を集めた大型オフラインイベント「清水 ビー・バップ・…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト