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メタバース住人の40%は恋したことがある?「メタバース進化論」著者バーチャル美少女ねむさんにきいてみる(深水英一郎氏寄稿)

 こんにちは、深水英一郎(ふかみん)です。2022年3月19日に発売される「メタバース進化論」の初稿ゲラ刷りを、本書の著者・バーチャル美少女ねむさんのご厚意で読ませていただきました。

 メタバースの向かうべき方向や、乗り越えなくてはならない課題が、ユーザーの「肉声」としてきこえてくる内容で、とっても面白かった。

 なんといってもリアル

  •  利用者の肉声を通してメタバース黎明期の実際の利用者にどのような悩みがあるのか知ることができる内容で、メタバースのビジネス的側面に興味ある人にとってはそれらペインポイントを通してさまざまなヒントが得られる本だと思います。

     本書のポジションですがメタバース本の並びの中では、ソーシャルVR(VR SNS)にフォーカスしたものだと言えます。さまざまなサービスやハードの紹介はありますが、深堀りしているのはソーシャルVRを既に使いこなしているユーザーさんの想いや考え方、そしてそこから導き出される未来の考察です。

     なかでも特筆すべきは「ソーシャルVR国勢調査2021」です。ソーシャルVR原住民1200名アンケートで明らかになるメタバースにまつわる生の数字と、バーチャル美少女ねむさんの的確かつ鋭い解説が貴重。メタバース、特にバーチャル世界のコミュニケーションやSNSに興味のある方に刺激を与える内容です。

     ……というわけで、僕の感想はそれぐらいにして、そろそろ著者であるバーチャル美少女ねむさんに登場いただき、本について語っていただきたいと思います。

     それでは、ねむさん、よろしくお願いします。

    【今回著者に紹介していただく本】
    「メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界」(バーチャル美少女ねむ著、技術評論社)2022年3月19日発売
    https://twitter.com/nemchan_nel

    【著者 バーチャル美少女ねむさんプロフィール】
    メタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している世界最古の個人系VTuber。作家としても活動し、著書に小説「仮想美少女シンギュラリティ」、メタバース解説本「メタバース進化論」(技術評論社) がある。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。

    バーチャル美少女ねむ

    ■ バーチャル美少女ねむさんに きいてみる

    ——ねむさん、はじめまして! 本日はよろしくおねがいします。ゲラ刷り拝見させていただいてありがとうございました。めちゃくちゃ面白かったです。

    【バーチャル美少女ねむさん】
     こちらこそ、感想いただいてありがとうございます!

    ——まず確認しておきたいのは、今メタバースに住んでいる人たちはこの物理世界はもはやどうでもよくて、メタバースに行ったっきりでもよい、という感覚なのか? という点です。

     それについては、必ずしもそうではないと思います。私自身の感覚としては、メタバースでの人生が充実することで、物理現実の人生も豊かになっていきます。

     例えば、物理現実では出来ないこと、やってみたいことに、メタバースなら挑戦できるという事はあると思います。

     私の場合は「美少女アイドルとして活動する」がそれにあたります。また、物理現実とは一線をおいた世界だからこそ、自由に色んなことを周りの友人に相談できたりする側面もあります。

     物理現実とメタバースをいったりきたりすることで、色んな「自分」を切り替えることができます。そのことにより、物理現実も含めて人生がより立体的になり、充実したものになっていくのではないかと私は考えています。

    ——メタバースで生活するという感覚に乗っかれる人は今後どれくらい出てくるのでしょう?

     現在メタバースで生活している人は、特定の目的(技術やコミュニティへの興味など)があったり、特別な事情(心身の性別の不一致とか)があったりという場合がほとんどです。

     そうではない普通の人が使い始めるポイントは、メタバース内で本格的な経済が回り始めた瞬間になると思います。

     本書で解説したとおり、現在のメタバースの経済性は試行段階で、それにはもう数年~十数年の時を要するでしょう。しかし、ひとたびそのポイントをすぎれば、一般の人にもメタバースに入る強い動機が生まれます。現在誰もがスマートフォンを持っているように、誰でも当たり前に人生の一部をメタバースで送るようになるでしょう。

    ——となると将来は、現実世界を意識せずに生活していくことが可能になったりするのでしょうか。

     現在の技術はVRゴーグルでメタバースに入るのが精一杯なので、当分は難しいでしょう。しかし、BMI(脳・コンピューター間インターフェース)が将来的に実用化されると、究極的には全感覚でメタバースに没入し、物理現実を全く意識しないでそこで生きていくことができるようになります。

     ただし、技術的な壁は大きく、私たちが生きている間には民生レベルで実用化されることはないでしょう。その辺りも本書で詳しく解説しています。

    ——メタバースが理想を実現する世界なのだとしたらそこで生活している人たちから見ると、現実世界はどういう風に見えるのでしょうか?

     メタバースに一度慣れてしまうと、移動の不便や姿の不自由さなどの理不尽が多く、物理現実はとても不自由なものに感じられます。ただし、やはり現時点ではVRゴーグルを通したものなので、メタバースに365時間24時間没入するのは不可能ですし、ご飯の美味しさや触覚の臨場感は物理現実の方が上回っています。双方を簡単に行ったり来たりできるのがメタバースのいいところだと思うので、両方のメリットを使い分けていくのが今後の人類のスタイルになっていくのかな、と私は考えています。

    ——メタバースが何を達成したら人類の進化といえるんでしょう?

     本書で紹介したような「メタバース原住民」の生活・文化・可能性を見る限り、もはやそれは現生人類のスタイルからは大きく逸脱しています。私は、すでに進化は始まっていると考えています。生まれたままの肉体から解放された、「アバター」という新しい身体。それで生活する人類はもはや新たな人類である、と言えるのではないでしょうか。

    ねむさん

    ——ソーシャルVR国勢調査によれば、メタバースで恋に落ちたことのある人の割合は40%とのことです。そして30%はVR内で恋人ができたことがある。一方、物理世界でのマクロミルの調査によると、いわゆるマッチングアプリでの成功率は約40%(※)。単純な比較はできないと思いますが、それにしてもなかなかすごい数字だと思います。メタバースには恋に落ちやすい要素があるのでしょうか。(※=マクロミル2018年5月15日発表データより)

     物理現実だと、年齢・性別・立場の壁があって、だれとでもすぐに仲良くなるのは難しいのではないでしょうか。メタバースではそういった壁が取り払われて、心の距離が近づきやすくなることはデータにもはっきりと現れています。

     特に、恋に関しては物理現実と違い、性別の垣根が取り払われる傾向があるのがメタバースでの恋の特性です。そういった要素が、メタバースで恋に落ちることを促しているというのは考えられると思います。

    ——人が操作するアバターとNPCの区別がつかなくなる未来は訪れるでしょうか? そうなったら、ねむさんは恋愛相手がAIでも良い?

     そんなことは絶対ないと思います。2000年代初頭からの第三次AIブーム(機械学習)で明らかになったのは結局「我々人類の知性の深淵は予想以上に深かった」「AI=人工の『知性』は現在の人類では全く作ることができなかった」ということです。現在「AI」と呼ばれているものは、本来の意味での知性でもなんでも無く、AI研究の結果うまれた機械学習による効率化技術に過ぎません。

     一方でメタバースは、言ってしまえば、機械学習による「効率化」とは真逆の技術です。人間らしい非効率的なコミュニケーションをオンラインで行うことができる、という所にメタバースの価値の本質があります。機械学習によりさまざまなことが自動化できるようになったからこそ、自動化できない非効率性・アート性の価値が高まっています。それをオンラインで加速させるための技術こそがメタバースなのです。

    ——本日はありがとうございました。「メタバース進化論」の発売は3月19日です。興味がわいた方は手にとってみてください。リアルで、データ豊富で、ねむさんの解説が鋭い。未来が見えるメタバース本です。

    (了)

    【ききて・深水英一郎 プロフィール】
    昔、真冬の釣堀に落ちたことがあります。
    今は書いた人に著書を紹介してもらう「きいてみる」を企画中 https://kiitemiru.com/
    個人のちからの拡大とそれがもたらす世の中の変化に興味があります。
    ネット黎明期にインターネットの本屋さん「まぐまぐ」を個人で発案、開発運営し「メルマガの父」と呼ばれる。Web of the Yearで日本一となり3年連続入賞。新しいマーケティング方式を確立したとしてWebクリエーション・アウォード受賞。元未来検索ブラジル社代表で、ニュースサイト「ガジェット通信」を創刊、「ネット流行語大賞」や日本初のMCN「ガジェクリ」立ち上げ。スタートアップのお手伝いや執筆をおこなっています。

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