おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

批評を書くための教科書をめざした——著者にきいてみる(深水英一郎氏寄稿)

 こんにちは、深水英一郎(ふかみん)です。
 
 今回は、新書「批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く」著者の北村紗衣さんに著書の紹介をしていただきます。

  • ▼書籍DATA
    「批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く」(北村紗衣著、ちくま新書)2021年9月9日発売

    ▼著者 北村紗衣さんプロフィール
     武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。北海道士別市出身。専門はシェイクスピア、舞台芸術史、フェミニスト批評。著書に「シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち──近世の観劇と読書」(白水社、2018)、「批評の教室――チョウのように読み、ハチのように書く」(ちくま書房、2021)など 。
    https://saebou.hatenablog.com/

    ■ 書いた人にきいてみる

    ——本日はよろしくお願いいたします。「批評の教室」はどんな本なんでしょうか?

    【北村さん】
     本書は、大学に入ったばかりの学生に批評を書いてもらうための教科書として構想した本です。

     批評の入門書というと批評理論の解説を中心にしたものが多いのですが、この本はそれ以前に必要なテクニック、つまり戯曲や映画、小説などの作品を細かいところまでよく理解し、分析するやり方を解説したものです。

     私は大学で教えているのですが、入学時点でほとんどの学生はそもそもどうやって本を読んだり、映画を見たりすればいいのかわからず何も手がつけられないという状態なので、そういう学生に読んでもらうための本です。

    ——タイトルに「批評」とあるので、難しい内容かな、と思って手にとったのですが、開いてみると、馴染みのある最近の映画を引きながらわかりやすい語り口で読みやすかったです。

     そもそも「批評」は難しいというのが勘違い……というか、日本ではきちんと作品を読解して批評するということにあまり馴染みがない人が多く、批評に悪いイメージがついているのが問題だと思います。

     本来は批評というのは音楽やスポーツなどと同じで、誰でもやりたいと思う人は趣味として簡単に参入できるものだと思います(専門家としてお金をもらうレベルになるのは大変ですが)。

    ——最終章(第4章)にあるような、互いに批評を読み合い、コメントするコミュニティというのは、誰でも参加できるものなのでしょうか? もしあれば、どこにその情報はあるのでしょうか。
     
     そういうコミュニティは基本的に自分で作るものです。自分で知り合いと一緒に読書会や映画の鑑賞会をやってみましょう。また、映画や本の感想シェアサイトに感想を書いてみるだけでもある種のコミュニティができます。読書会などをやるのはちょっとハードルが高いという人は、そのあたりから始めてみてもよいと思います。

    ——なるほど、まずは知り合いとはじめればよい、ということなんですね。ところで、北村さんがこの本を執筆するきっかけは何だったのでしょうか?

     筑摩書房からフェミニスト批評の新書を書かないかというお誘いを頂いたのがきっかけでした。しかしながらフェミニスト批評以前の話として、そもそも大学入学時点で批評をどうやってやったらよいのかわからないという学生がほとんどだったので、批評の新書はどうですかと提案し、この本を書くことになりました。

     また、この本を書く前に映画批評を書く訓練をするゼミを1年だけ勤務先の武蔵大学でやっていたことがあり、その授業はやっているほうも楽しくて受講者の受けも良かったのですが、カリキュラムの関係で1年しかできませんでした。楽しくやっていたゼミが終わってしまったところでつまらないなと思っていたので、せっかくだからゼミでやっていたようなことを本にしようというところもありました。

    ——北村さんの今後の活動予定について教えてください。

     現在作っている最中の一般向けの本が2冊あり、片方は大学などで使うような教科書的な本の翻訳です。またその後にもう1冊くらい教科書的な本を作ることになりそうなのですが、その後はしばらくは専門である近世イングランド研究に専念したいです。

     私の最初の単著は「シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち」という学術書で、意外にシェイクスピア研究以外の方にも読んでいただけて嬉しかったのですが、書いていた時はたぶん世界で10人くらいしか興味を持たないのでは……と思って作っていました。今後も世界で10人くらいしか興味を持たないような専門的なトピックに関する学術書を書いて、学問に貢献したいです。

    ——本日は、ありがとうございました。

    (了)

    【ききて・深水英一郎 プロフィール】
    真冬の釣堀に落ちたことがあります。
    そんな私も今は著者に著書を紹介してもらう「きいてみる」企画を進行しています https://kiitemiru.com/
    個人のちからの拡大とそれがもたらす世の中の変化に興味があります。
    ネット黎明期にインターネットの本屋さん「まぐまぐ」を個人で発案、開発運営し「メルマガの父」と呼ばれる。Web of the Yearで日本一となり3年連続入賞。新しいマーケティング方式を確立したとしてWebクリエーション・アウォード受賞。元未来検索ブラジル社代表で、ニュースサイト「ガジェット通信」を創刊、「ネット流行語大賞」や日本初のMCN「ガジェクリ」立ち上げ。スタートアップのお手伝いや執筆をおこなっています。

    あわせて読みたい関連記事
  • 「M3GAN/ミーガン 2.0」公式サイトは日本公開中止の告知のみの画面に
    エンタメ, 映画

    映画「M3GAN/ミーガン 2.0」日本劇場公開が突如中止 理由は不明

  • 支援金1億円超のクラウドファンディング不正流用 映画化プロジェクトが中止へ
    インターネット, 社会・物議

    支援金1億円超のクラウドファンディング不正流用 映画化プロジェクトが中止へ

  • 音声入力が当たり前の世界
    インターネット, 雑学・コラム

    えっ!まだキーボードで入力してるの? 2倍速入力も狙える「音声入力」に乗り換えよ…

  • 車の中に潜んだペニーワイズ!売りに出したあとで気づいたうっかりミス
    インターネット, おもしろ

    車の中に潜んだペニーワイズ!売りに出したあとで気づいたうっかりミス

  • 名刺入れの中には半券などがビッシリ
    インターネット, おもしろ

    映画の紙チケットや半券は名刺入れに!映画好きが保管方法を紹介

  • 東洋の魔窟「九龍城砦」を約10億かけ再現 「トワイライト・ウォリアーズ」美術メイキング映像公開
    エンタメ, 映画

    東洋の魔窟「九龍城砦」を約10億かけ再現 「トワイライト・ウォリアーズ」美術メイ…

  • ホラー映画「ソウX」と婚活イベントが異色コラボ 色んな意味でドキドキしそう
    企業・サービス, 経済

    ホラー映画「ソウX」と婚活イベントが異色コラボ 色んな意味でドキドキしそう

  • クロス新宿ビジョンに「温泉シャーク」が登場/(C)2024 PLAN A inc.
    エンタメ, 映画

    日本発のサメ映画「温泉シャーク」完成披露上映会が開催決定!クロス新宿ビジョンには…

  • 映画「帰ってきた あぶない刑事」舞台挨拶 タカとユージの登場にファン歓喜
    エンタメ, 映画

    映画「帰ってきた あぶない刑事」舞台挨拶 タカとユージの登場にファン歓喜

  • 「踊る大捜査線」が謎のカウントダウンを開始 3月18日21時に注目集まる
    TV・ドラマ, エンタメ

    「踊る大捜査線」が謎のカウントダウンを開始 3月18日21時に注目集まる

  • 深水英一郎(ふかみえいいちろう)現代歌人・エッセイスト

    記事一覧

    短歌や詩を書いています。『短歌の日』呼びかけ人 、短歌投稿企画『ついうた』主催 | 笹舟にちょうどよい笹にみとれて川に転落したことがあります | 基本いつでものんきです | シュークリームが好き | 日本でのCGM・フリーミアムモデルの先駆けとなるメルマガプラットフォーム「まぐまぐ」を個人で開発したため「メルマガの父」と呼ばれる。まぐまぐは Web of the Year 年間総合大賞を受賞、日本一のWebサイトとなりました | Twitter https://twitter.com/fukamie

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 音声入力が当たり前の世界
    インターネット, 雑学・コラム

    えっ!まだキーボードで入力してるの? 2倍速入力も狙える「音声入力」に乗り換えよ…

  • 短歌の日
    イベント・キャンペーン, 経済

    短歌バトルにクイズも?ネット短歌企画者があつまる「短歌の日」スタート 5月7日ま…

  • 「ひろゆきに裁判で勝った人」が考える「金融庁が広報動画にひろゆきを起用」したことの危険性
    インターネット, 社会・物議

    「ひろゆきに裁判で勝った人」が考える「金融庁が広報動画にひろゆきを起用」したこと…

  • プレゼンリモコンに電子書籍のページめくりという新しい役目を与えよう(深水英一郎氏寄稿)
    ライフ, 雑学

    プレゼンリモコンに電子書籍のページめくりという新しい役目を与えよう(深水英一郎氏…

  • 泣き顔はどれ?
    社会, 雑学

    「泣き顔」「眠い顔」「よだれ」の絵文字を見分けられますか?(深水英一郎氏寄稿)

  • NFT解説マンガのセリフ、どこが間違ってる? 深水英一郎
    インターネット, サービス・テクノロジー

    NFT解説マンガのセリフ、どこが間違ってるかわかる?(深水英一郎氏寄稿)

  • トピックス

    1. 脂肪と好奇心は人一倍!体重110キロ記者、ゆで太郎「倍盛り鍋かつ丼セット」に挑戦

      脂肪と好奇心は人一倍!体重110キロ記者、ゆで太郎「倍盛り鍋かつ丼セット」に挑戦

      ゆで太郎で期間限定提供されている「倍盛りかつ丼セット」。そばにセットでついてくるかつ丼は、丼ではなく…
    2. お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹さんの公式X

      アインシュタイン稲田の“潔白”が証明された日 暴露文化とSNS拡散が残したもの

      お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹さんのInstagramが不正にログインされ、卑猥なやり取り…
    3. 【体験レポ】「落とし物:黒い封筒」を開封してみた 自宅で本当に心霊現象が起きる?一夜のゾク体験

      【体験レポ】「落とし物:黒い封筒」を開封してみた 自宅で本当に心霊現象が起きる?一夜のゾク体験

      ホラーイベント「笑える事故物件 笑えない事故物件」公式グッズの体験型キット「落とし物:黒い封筒」を体…

    編集部おすすめ

    1. 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      エイベックスの松浦勝人会長は9月4日、自身のX(旧Twitter)で新たに「松浦顧問制度 シーズン1」を立ち上げたことを報告した。内容は「月…
    2. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    3. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    4. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    5. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト