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「赤チン」って通じない!? 今でも残る慣用句に潜むジェネレーションギャップ

 ジェネレーションギャップは、生活のいたるところに潜んでいます。場合によっては、死語となった言葉が慣用句に使われ続け、若い世代にとっては意味が通じない、ということも。

 労働災害予防のために使われている「ヒヤリカード」に「赤チン災害」という欄があり、若手社員から「赤チンってなんですか?」と質問された衝撃を、とある製造業の公式Twitterが明らかにしました。

  •  このツイートをしたのは、鋳物や鋳型づくりの技術を活用した発泡スチロール製品を作っている、株式会社木村鋳造所の公式Twitterアカウント。ここに出てくる「ヒヤリカード」とは、労働災害の芽となる「ヒヤリ・ハット事例」を報告し、労働災害を未然に防ぐために活用されているものです。

     このカードは業種・事業者によってさまざまな書式がありますが、木村鋳造所では類型に「赤チン災害」という項目があるとのこと。骨折などとは違い、赤チンを塗っておくだけで治る程度のごく軽度な負傷を指しているようです。

     そもそも「赤チン」とは、正式名称「マーキュロクロム液」という、かつて日本薬局方に記載されていた消毒薬(局所殺菌剤)のこと。メルブロミン(マーキュロクロム)という有機水銀化合物のごく薄い水溶液で、傷口に適量塗布して用いられました。

     メルブロミン自体は深い緑色をした物質だそうですが、水に溶かすと鮮やかな赤色を呈します。この見た目から、同じように消毒薬として使われる「ヨーチン」こと希ヨードチンキ(ヨウ素のエタノール溶液)と並んで「赤チン」の通称で呼ばれました。

     刺激性があり、傷口に「しみて痛い」ことがあるヨーチンに対し、赤チンはしみることがないため、特に小さい子の怪我には広く使われました。しかし傷口に赤い色がついてしまうという欠点があり、ほかの「しみず、色のつかない」消毒薬が出回るようになると、いつしかシェアを減らしていったのです。

     また、成分が有機水銀化合物ということもあり、世界的に水銀による環境負荷を減らす潮流もあいまって、日本でも「水銀に関する水俣条約(水俣条約)」を批准。条約には水銀を使用した局所消毒剤の製造を規制する規定があり、2020年12月末をもって赤チンの国内製造が終了しました。

     ある一定の年代以上にとっては馴染み深い「赤チン」ですが、若い世代にとっては別の消毒薬がポピュラーになっている様子。名前を知らないのは無理もないかもしれません。

     木村鋳造所のTwitter担当者は、幅広い年代の社員が働いているため、今回の「赤チン」のようなジェネレーションギャップを感じる場面は比較的あるんだそう。

     「木村鋳造所には社員が800人以上おり、10代から60代の幅広い世代がいます。普通だと思っていた言葉が通じなかったり、世代によって受け取り方が全く異なることがありそのたびに『これにもジェネレーションギャップがあるのか!』とベテラン社員が震えます」

     ジェネレーションギャップは、意識していない「当たり前だと思っていること」ほど自覚した時に衝撃が大きいもの。今回の「赤チン」は、その最新版だったようです。

     ツイートには、往年の「赤チン世代」だけでなく、すでに目にしたことがない、といった反応も寄せられています。名前だけが名残のように残っていることについて、木村鋳造所のTwitter担当者は次のように語ってくれました。

     「『赤チン』という物自体はなくなりましたが、その意味と言葉が残っているのが面白いと思います。これから先も、実物はなくなるけどその意味や言葉だけが受け継がれていくものが増えていくんだろうな、と思うと感慨深いです」

     皆さんの身の回りにも、実物は見たことがないけど慣用句で耳にする物や、行為があるかもしれません。それが一体どういうものであったのか、調べてみるのもいいかもしれませんね。

    <記事化協力>
    株式会社木村鋳造所(@KimuraFoundry)

    (咲村珠樹)

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