前2年からの「コロナ禍」や、不穏な世界情勢も相まって、やや「ネガティブ」なニュースが散見された2022年。

 心理学では「悪いニュースを見ると、心身に悪影響を与える」という研究結果も報告されていますが、それを逆手に取り、「いいニュース」だけを流す装置を開発した技術者が現れました。

 「悪いニュースばかり見てるとメンタルヘルス的に良くないそうです。そこでニュース内容をネガポジ判定して、ポジティブ度合いが強いものだけ表示する『いいニュース電光掲示板』があったらいいなと思って、ラズパイとLEDマトリックスで作ってみようと思います」

ラズパイAIを活用したLEDの「電光掲示板」。

 つぶやきとともに、作品をTwitterに投稿したのは、IoT(Internet of Things)やDX(Digital Transformation)のコンサルタントとして活動するSteve Kasuyaさん。併行して、東京都にあるコワーキングスペース「秋葉原ハッカースペース」を運営し、電子工作やIoTのワークショップ教室を不定期に開催しています。

 加えて、最新の技術・製品・サービスを組み合わせた「楽しくて役に立つもの」を趣味として製作。本作は、冒頭の「知識」と、自身がかつて遭遇した「経験」が製作のきっかけでした。

 「以前、新幹線車内の電光掲示板で、『ネガティブ』なニュースばかり流れて、せっかくの楽しい気分に水を差されたことがありました。その経験から、『良いニュースだけ表示する電光掲示板があれば、毎日いい気分で過ごせるのでは?』と考えました」

 ラズパイに、機械学習(AI)の技術を組み合わせたことがこだわりの本作。続く投稿では、「将棋の藤井聡太竜王が史上最年少タイトル防衛」「ワールドカップで企業の特別休暇推奨の動き」「ブラックビスケッツ20年ぶり復活」「世界最高齢恋するカメ推定190歳」など、「いいニュース」のみが流されています。

動画ではただひたすらに「いいニュース」のみが流れています。

 確かにこれだと、不快な思いをすることはないラインナップ。一方でSteveさんは、いいニュースの「分類」に難しさを感じたといいます。

 「実際に作ってみてから分かったことなんですが、予めラズパイでインターネットからニュースのヘッドライン一覧を取得し、それを機械学習で判定を行って、ニュースが『ポジティブ』かどうかを分類させると、人が見ると、そうではないものが多くあったんです」

 「そこで、特定の単語が含まれたら表示されない『NGワード』を設定したら、今度は思った以上にそれが多くなってしまいました。『これほどまでにニュースに使われていたのか!』と驚きましたね。AIではなく、仕組みとしてNGワードの条件判断させることに、もっとも時間を要しています」

 こうした苦労の末完成した「いいニュースだけ表示する電光掲示板」。現在は個人レベルの開発となっていますが、話をうかがう内にこのコンセプトにはそれなりの需要があるのでは?という気がしてなりません。近頃は電光掲示板に限らずオススメ記事を自動でだすニュースサイトが増えています。おかげで好みにあわないものをオススメされることも珍しくなく。

 読者側のその日の気分によって、出てくるニュースの方向性を選べる。それが当たり前になる時代が少し先の未来にあったらいいな、と個人的にも感じてしまいました。

<記事化協力>
Steve Kasuyaさん(@SteveKasuya2)

(向山純平)