「特撮映像館」、第43回は1960年「ガス人間第一号」を取り上げます。
東宝特撮映画では「ゴジラシリーズ」などの怪獣もの以外にも特撮シーンをふんだんに使った作品がつくられている。中でも「〇〇人間」と題された作品は数本あり、シリーズという明確な名称はないが、シリーズ作品として認識されている。本作『ガス人間第一号』はそんな作品の一本だ。
鍵のかかった銀行の金庫室から数百万の現金を奪って姿を消した銀行強盗。犯人を追う刑事たちを尻目に3度目の犯行を予告してくる犯人だが、逮捕してみると真犯人だと名乗る男が現れ、鍵のかかった金庫室から逃げるのを刑事たちの前で再現して見せる。男は自分の体をガス状に変化させることができるのだった。
ガス人間とマスコミによって名付けられた水野という男は、刑事たちが犯人と関わりがあるとにらんだ日本舞踊の家元である女性と関わりがあり、奪った金で発表会を開こうとしていた。
自ら犯人だと名乗り、刑事たちの目の前で銀行員や刑事のひとりの生命まで奪ったガス人間だが、正体がわかっても捕らえることができないまま警察も手をこまねく。
そして可燃性のガスといっしょに爆破するという計画が実行されることになるのだが…。
本作のキャストを見ると、ほかの東宝特撮作品には見られない顔ぶれを中心にしていることに気がつくだろう。もちろん土屋嘉男をはじめ怪獣映画の常連といっていい俳優たちも出演している。が、三橋達也、八千草薫といったキャスティングで制作されたことは、本作が怪獣映画とは違うターゲットを狙って制作されたことを示しているだろう。
実際ガス人間というSF的なテーマを扱っているとはいえ、ストーリー自体は人間ドラマを中心に描いており、土屋嘉男がガス状になる特撮シーンを目当てに子供が鑑賞しても退屈してしまいそうな内容といっていい。怪獣映画とは違う特撮映画の方向を探っていた時期の作品といってもいいだろうが、残念ながらハリウッドをはじめとする外国映画のように一般映画として特撮作品が浸透するには至らなかったのは残念なことである。
ところで、八千草薫の美しさは本作の見どころのひとつ。また家元役としてしっかりと舞う姿も堪能できる。この舞踊シーンは本作のクライマックスでもあり、ガス人間というSF的なイメージと対照的なものでありながら、本作を印象づけるものである。
音楽を担当したのは、その後『ウルトラQ』『ウルトラマン』でも音楽を担当する宮内国郎。ご存知の方も多い思うが本作の音楽は「ウルトラシリーズ」に流用されている。特に『ウルトラQ』で印象的に使われていたことが多く、本来の作品である本作を観ていても『ウルトラQ』のイメージが浮かんできてしまうという結果になってしまっている。
監督/本多猪四郎、特技監督/円谷英二
キャスト/三橋達也、土屋嘉男、八千草薫、佐多契子、左 卜全、ほか。
1960年/92分/日本
(文:猫目ユウ)