おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第八十四回 宇宙船レッドシャーク/横山光輝

「うちの本棚」、今回は横山光輝の代表作のひとつである『宇宙船レッドシャーク』を取り上げます。宇宙開発もまだまだ夢物語という時代に太陽系を飛び出して宇宙を駆けめぐるレッドシャークと隊長の健二。ロマンあふれる物語でありながらシビアな要素も含んだ秀作です。

本作は横山光輝の代表作としてプロフィールにもたびたび記載されていたにもかかわらず連載終了後、2005年2月の講談社文庫で刊行されるまで単行本化されなかった作品。


  • 同じ時期に「少年マガジン」に連載されていた『コマンドJ』も同じように単行本化されていなかったことを考えると昭和40年(1965年)前後は連載=単行本化という出版の流れができる以前で、単行本化されないままになっている作品が多いのかもしれない。もちろん本作が横山の代表作として知られている点などを考えると、連載終了後にも単行本化のオファーはあったはずなので、何からかの事情で作者自身が単行本化を拒んでいたとも考えられる(『コマンドJ』などはそのあたりの事情がありそうだが)。
     
    本作は「疫病神ジャック」「ガニメド」「マロー星探検隊」「反乱」「宇宙からの帰還者」の5話からなっている。主人公は一色健二という養成学校を卒業したばかりのパイロットの卵で、一流の宇宙パイロットに成長していく物語といえる。もっともそのような内容をストレートに描いているのは第1話であり、第2話以降は歳は若いが優秀なパイロットとして隊長という立場で活躍していく。

    横山作品は時に非情な展開を見せることがあるのだが、本作ではそれが全般的に見られるように感じた。もちろんヒューマニズムに基づくギリギリの判断という展開であることが多いわけだが、連載当時の対象読者層を考えるとそうとうにシビアで、もしかするとトラウマになるような展開だったかもしれない。その代表的なエピソードが第1話であり、個人的にはこれが本作の中でももっともよくできていると思える。

    また、単にロケットで宇宙を冒険するというだけでは読者に飽きられると考えたのか、第4話ではスパイ物的な要素が見られたり、第5話では宇宙怪獣が登場したりもしている。もっとも連載当時を考えてみるとスパイブーム、怪獣ブームという社会状況があったことも影響しているのだろう。

    ちなみにタイトルでもある「レッドシャーク」は健二が乗るロケットの名前。さまざまなミッションを与えられる健二であり、そのつど要求される内容も違うので、本来であれば乗るロケットはミッションに合わせて変わってもよさそうなものだが、タイトルにしてしまったこともあり、常にレッドシャークに搭乗することになる。とはいえ、今であればロケットそのものに装備などで個性をもたせるだろうが、本作では単なる乗り物として扱われ、セリフの中でもあまり「レッドシャーク」という単語が出てこなかったりする。『鉄人28号』その他のロボット物で、主人公とメカとのつながりを描いていたことも考えると、レッドシャークに対する健二の愛着がほとんど描かれていないのはちょっと意外な気もする。

    蛇足だが、連載当時本作はソノシートも発売されていた(アニメ化の企画もあったはず)。主題歌は『21世紀に遺したいアニメソング大全』でCD化された。

    初出/集英社「少年ブック」(1965年4月号~1967年3月号)
    書誌/講談社・講談社漫画文庫(上下巻)

    (文:猫目ユウ)

    あわせて読みたい関連記事
  • ニュース・話題

    『魔法使いサリー』への道が判る横山光輝幻の作品が初単行本化

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十四回 まんが集/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十三回 くれない頭巾/横山光輝

  • うちの本棚
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十二回 ジャイアント・ロボ/横山光輝

  • うちの本棚
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十一回 レッドマスク/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十回 宇宙警備隊/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十九回 仮面の忍者 赤影/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十八回 野獣/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十七回 マーズ/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十六回 サンダー大王/横山光輝

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 脂肪と好奇心は人一倍!体重110キロ記者、ゆで太郎「倍盛り鍋かつ丼セット」に挑戦

      脂肪と好奇心は人一倍!体重110キロ記者、ゆで太郎「倍盛り鍋かつ丼セット」に挑戦

      ゆで太郎で期間限定提供されている「倍盛りかつ丼セット」。そばにセットでついてくるかつ丼は、丼ではなく…
    2. お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹さんの公式X

      アインシュタイン稲田の“潔白”が証明された日 暴露文化とSNS拡散が残したもの

      お笑いコンビ・アインシュタインの稲田直樹さんのInstagramが不正にログインされ、卑猥なやり取り…
    3. 【体験レポ】「落とし物:黒い封筒」を開封してみた 自宅で本当に心霊現象が起きる?一夜のゾク体験

      【体験レポ】「落とし物:黒い封筒」を開封してみた 自宅で本当に心霊現象が起きる?一夜のゾク体験

      ホラーイベント「笑える事故物件 笑えない事故物件」公式グッズの体験型キット「落とし物:黒い封筒」を体…

    編集部おすすめ

    1. 松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      松浦勝人会長「月1時間で100万円」“松浦顧問制度”始動 応募殺到で定員の5倍超え

      エイベックスの松浦勝人会長は9月4日、自身のX(旧Twitter)で新たに「松浦顧問制度 シーズン1」を立ち上げたことを報告した。内容は「月…
    2. 「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる」4羽の文鳥 まるで連続写真?

      「なんかやってる……」Xで飼い主さんにこうつぶやかれたのは、4羽の白文鳥さんたち。添えられた写真には、4羽が棚の上に連なって集まり、まるで連…
    3. 法事でオリジナルTシャツ!?音楽フェスのような斬新な引き出物が話題

      法事で配られた家紋&没年入りTシャツが話題 “フェス感”漂うセンスに爆笑

      法事の引き出物(お返し)といえばお菓子やカタログギフトが王道ではないでしょうか。しかしときには予想だにしない品をもらうこともあるようで……。…
    4. 災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      災害関連死ゼロを目指す「EDAN」発足 フィリップ モリスら民間団体が連携

      フィリップ モリス ジャパン(PMJ)が、全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)と共同で、避難生活に特化した支援ネットワーク…
    5. 「週刊文春」2025年9月4日号(8月28日発売)

      週刊文春、最新号表紙は「白紙」 48年続いた和田誠さんの表紙絵に幕

      総合週刊誌「週刊文春」は、2025年8月28日発売の9月4日号で48年間にわたり表紙を飾り続けたイラストレーター・和田誠さんの絵を終了し、大…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト