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【うちの本棚】第九十二回 ジャイアント・ロボ/横山光輝

「うちの本棚」、今回は横山光輝幻の代表作『ジャイアント・ロボ』です。

連載から40年、単行本化されないまま幻の作品として知られてきた本作。
2005年に刊行された完全復刻版は横山ファンのみならず、漫画ファンが待ち望んだものだったでしょう。


  • 『ジャイアント・ロボ』は東映制作の特撮テレビドラマとしても高名な作品だが、その原作コミックについてはさまざまな理由から単行本化されないままになっていた、いわば横山の「幻の代表作」だ。本単行本はさまざまな条件をクリアして40年を経て公式に刊行されたものになる。

    原作コミックである本作は、ほぼテレビドラマの放送時期と重なる期間「少年サンデー」に連載されたので、当時雑誌で漫画を読んでいた世代にとっては原作コミックの印象もあるだろうが、たいていは「ジャイアント・ロボ」といえば特撮ドラマを思い浮かべるだろう。その独特な造形(これはもちろん原作コミックも同じだが)、命令を遂行するときの音声、そしてロボを操る大作少年と印象の強い番組であったことは事実だ。さらにいえば原作コミックが連載終了後単行本化されなかったのと違い、テレビドラマは何度も再放送されソフト化もされたのでファンを始め多くの人の目に触れる機会も多かった。

    原作コミックは「少年サンデー」昭和42年20号~43年10号に連載され、当初は横山光輝と小沢さとるが作者として併記されていた。これは『仮面の忍者赤影』のほか数作品を同時に連載していた横山が、メカ作画につよい小沢が参加するということを条件に連載をスタートさせたことによる。しかし小沢も『サブマリン707』などの作品を同時に手がけており途中降板。以降は「横山光輝・光プロ作品」と表記されるようになる。またこの複雑な制作状況が版権にも影響を与えて単行本化ができなかったという噂も漫画マニアの間では流れていた。もっとも本単行本自体、第一部は印刷物を修正して復刻していて、原画が紛失してしまっていたということも単行本化できなかった事情のひとつではあるようだ。

    原作コミック『ジャイアント・ロボ』のストーリーは、世界征服を企てるビックファイアという組織が作っていた「GR」という超兵器の秘密工場に、国連特別捜査機構のエージェントと勘違いされて一旅行者だった草間大作が捕らわれ監禁され、工場の爆発によってなんとか脱出することができるのだが、そのときロボの操縦に必要な声の登録を知らずにしてしまい、ジャイアント・ロボの操縦者となる、というスパイコミック的な展開から始まる。当時は『コマンドJ』などのスパイ物も手がけたあとでもあり、映画「007シリーズ」の影響が漫画の世界にも浸透していたと指摘するものもある(またロボ奪還のために大作の暗殺を企てるあたりもスパイ物的な展開だ)。

    ビッグファイアは奪われたロボを奪還しようとGR2(水中戦用ロボ)、GR3(空中戦用ロボ)を使って大作と国連特別捜査機構を襲う。したがって、特撮テレビドラマのように毎回違う怪獣やロボットが大作やジャイアント・ロボに向かってくるのではなく、GR同士の戦いが描かれるのである。

    横山のロボット作品といえば『鉄人28号』だが、鉄人は映画『フランケンシュタイン』に影響を受けて発想されたということだ。『ジャイアント・ロボ』は鉄人連載終了の翌年に連載スタートしており、鉄人を超えるロボット物という意欲もあったと思うが、やはり横山ロボットのルーツは鉄人と思えるシーンが登場する。それはロボの起動シーンだ。ロボに搭載された新しい原子力エンジンを起動させるために膨大な電気エネルギーが必要で、そのために落雷を利用するのだが、雷の電気エネルギーによって目を覚ます人造人間といえばやはりフランケンシュタインの怪物だろう。ここで鉄人とジャイアント・ロボが同じ作者によって発案された兄弟という印象が強くなる。

    テレビドラマでは腕時計型の送信機でロボに命令を与えるのが印象的だったが、原作コミックでは当初直接ロボに呼びかける形になっていて、半ばテレパシーのような趣もあった(このあたりは鉄人からバビル2世につながっていく)。しかしテレビに合わせて腕時計型送信機も登場し、陸戦用であったGR1に飛行用のロケットも装備される(第三部)。また当初は青年といった雰囲気だった大作も途中から少年に描き変えられている。テレビドラマとの相違点としてもうひとつ忘れてはならないのがビッグファイアの首領である。テレビドラマでは宇宙からの侵略者ギロチン帝王が登場するが、原作コミックではその正体は謎のままで、どうやら地球の人間らしい。

    最後に私事ではあるが、本作品の単行本化を待ち望みながらそれを見ることなく他界した親友にこの単行本を手にして欲しかった。実に残念である。

    書 名/ジャイアント・ロボ(全3巻)
    著者名/横山光輝
    出版元/講談社
    判 型/四六判
    定 価/1、2巻・1700円、3巻・1600円
    シリーズ名/なし
    初版発行日/第1巻2005年2月23日、第2巻2005年3月23日、第3巻2005年4月22日
    収録作品/第1巻 ジャイアント・ロボ第一部、第2巻 ジャイアント・ロボ第二部 第三部、第3巻 資料編(学年誌等に掲載された光プロによるテレビドラマのコミカライズ作品と当時のアシスタント、テレビドラマ、アニメスタッフなどのインタビューや評論)

    (文:猫目ユウ)

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    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

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