おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第八十八回 野獣/横山光輝

「うちの本棚」、今回取り上げるのは横山光輝のハードボイルドバイオレンス劇画『野獣』です。他の横山作品にはない魅力をご堪能ください。

横山光輝のハードボイルド青年「劇画」といっていい作品。連載時の扉絵を見ると、さいとう・たかをなどの劇画作品に影響されたような「目」を意識的に取り入れているようにも見える。


  • もっとも本編そのものは主人公の年齢が少年漫画作品よりはるかに高いということもあってクリクリの目ではないものの、それほど他の横山作品からかけ離れた印象はない。

    この作品はそれまでの横山作品に比べ、青年劇画というジャンルでもありバイオレンスものという新しいテーマにチャレンジしている感はあるわけだが、当時、大藪春彦などバイオレンスハードボイルド小説も人気となっていたので、主人公の性格設定などにはその影響も見受けられる。

    ストーリーは主人公が恩赦により刑期より早く刑務所を出所するところから始まる。主人公は弟と友人の3人で、ある暴力団が密輸ダイヤの取引を行うことを知りそのダイヤを横取り。追求をかわすため傷害事件を起こし刑務所に入っていた。出所してみると弟はダイヤを横取りされた暴力団によって殺されてしまっていたが、友人は追求を逃れ密かに暮らしておりダイヤの隠し場所を知る唯一の人物となっていた。時を見計らってダイヤを金に換えようとするのだが、新たにそのダイヤの存在を知る組織に主人公は狙われることになる。友人の存在も知られ、ついには友人も殺されてダイヤの隠し場所も謎のままになったかに思われたのだが、死んだはずの友人が生きているらしいことがわかり、主人公の命まで狙い始めるのだった…。

    と、まさにハードボイルドバイオレンス小説といっていい内容。もともと主人公が暴力組織に居たとも思えないのだが拳銃やライフルを撃ちまくり冷酷に人を殺していく。タイトルにもある「野獣」的な性格というわけである。

    またこの作品には少年漫画ではほとんど登場してこない女性キャラクターが主人公と行動をともにするという形でほぼ全編に渡って登場している。表現はおとなしいが濡れ場も描かれているのは横山作品としては珍しいかもしれない。このあたりも青年劇画を意識したためだろう。

    70年というと、小学館では「ゴールデンコミックス」などの単行本シリーズがあり、本作品もそこから刊行されてもよかったと思うが、残念なことに2008年刊行の講談社漫画文庫による単行本化までまとめられることがなかった。

    初出/週刊プレイボーイ[小学館](1970年1月~7月)
    書誌/講談社・講談社漫画文庫(刊行巻数)

    (文:猫目ユウ)

    あわせて読みたい関連記事
  • ニュース・話題

    『魔法使いサリー』への道が判る横山光輝幻の作品が初単行本化

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十四回 まんが集/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十三回 くれない頭巾/横山光輝

  • うちの本棚
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十二回 ジャイアント・ロボ/横山光輝

  • うちの本棚
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十一回 レッドマスク/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十回 宇宙警備隊/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十九回 仮面の忍者 赤影/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十七回 マーズ/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十六回 サンダー大王/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十五回 闇の土鬼/横山光輝

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      海外の映画やゲームが日本向けにローカライズされる際、タイトルも和訳されることもしばしばですが、「あま…
    2. 実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      一歩足を踏み入れると、そこはまるで平成初期のゲームショップ。ショーケースにはファミコンソフトがずらり…
    3. ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      「はたらくくるま」が好きな人に刺さること間違いなしな「工事現場ケーキ」がXで話題です。説明がなければ…

    編集部おすすめ

    1. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    2. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    3. 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      株式会社Gakken(学研ホールディングスグループ)は、同作の映画公開40周年を記念して、劇中の「タイムサーキット」を再現した時計「バック・…
    4. 電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が10月21日朝、公式Xアカウントに声明を掲載。「京王線車内の本学の広告にQRコードは記載しておりません」と述べ、車内広告にQR…
    5. 特別災害対策本部車(国土交通省)

      消防車も自衛隊車もNERVも! 防災車両がずらり「ぼうさいモーターショー2025」10月26日開催

      東京臨海広域防災公園(東京都江東区有明)で、10月26日に「ぼうさいモーターショー2025」が開催されます。警察や消防、自衛隊をはじめ、通信…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト