おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

【うちの本棚】第八十五回 闇の土鬼/横山光輝

「うちの本棚」、今回も横山光輝の作品から『闇の土鬼』を取り上げます。いっけん忍者物のように見えて、実は武芸物という本作。宮本武蔵や柳生十兵衛との対決シーンも見どころです。

江戸時代三代将軍家光のころ、とある農家で貧しさから赤ん坊が捨てられようとしていた。しかしその子は土に埋められても息絶えることの無い生命力をみせ、たまたまそれを見た男がその赤ん坊を引き取りいずこともなく連れて行った。


  • やがて町の道場で親子として暮らすふたりは、父は腕の立つ剣術道場主として、息子は練習している姿さえ見られないがただ者ではないと噂されていた。

    そんなとき、その噂を耳にし道場を調べる虚無僧がいた。父である道場主がかつて所属していた血風党という暗殺組織のひとりで、ついに発見されてしまったというわけだった。

    血風党の仲間たちに倒され、息絶える前にその素性と息子が実の子供ではないことを告白した父の亡骸に、主人公はこれまで仕込まれてきた血風党の裏の武芸を見極めたいと、血風党頭領である無明斉と対決することを誓うのだった。

    主人公の名前である「土鬼」は、冒頭埋められてもなお生きようとする生命力から「鬼のようだ」として付けられた名。また「闇」とは裏の武芸を指すものだろう。

    本作を読む前には、なんとなく忍者物というイメージを持っていたのだが、忍者的な体術を会得している主人公ではあるが忍者ではない。むしろ宮本武蔵や柳生十兵衛との戦いが描かれるなど武芸者という立ち位置である無明斉があみ出したとされる裏の武芸は中国武術を取り入れたもので、土鬼が得意とするのは「七節こん」と呼ばれるもの。また小石などを使った霞つぶてなどは血風党の共通したスキルとなっている。

    物語は、土鬼が血風党をひとりひとり探し出し対決しやがて無明斉に迫るという形で進展していくように見えたが、そこに幕府の思惑がからみ、戦国時代には家康の配下として暗殺などで活躍した血風党も太平の世になり、依頼によって人を殺す集団に成り下がってしまったため、幕府としてもその存在を消そうと画策し始めていたのだ。伊豆守は土鬼の目的、そしてその実力を知って自分たちの目的のため利用しようと企む。もっとも土鬼自身はそういった思惑はさておき、自分の目的のため血風党・無明斉へと迫っていく。

    ところで本作が連載されたのは「少年マガジン」であり本書もその「マガジン」掲載作品を主に収録していた「KCコミックス」での刊行である。本作以前にも「マガジン」には作品を発表していた横山だが、ストレートに連載後単行本化されたのは、実はこれが最初といっていいと思う。連載後時間が経ってから単行本化された作品が横山の場合意外と少なく、昭和40年代後半以降、連載中または終了後まもなく作品が単行本化されていったのを考えると(この時期から連載作品=単行本化という出版の流れもできていた)、過去作品の原稿を整理するのが億劫だったのじゃないかとも思えてしまう。

    横山作品では、たとえば『伊賀の影丸』など相手の忍者がどんな技を使ってくるのかという楽しみとそれをどう攻略するのかというスリルがあったわけだが、本作ではそれぞれ得意とする武器はあるものの、血風党で使われる数種類の武器や武術の中から得意とするものを使うという趣向で、その人物独自の技というのは少ない。その点でも忍者物というより武芸物という印象が強くなっている。ちょっと地味な印象ではあるが、横山作品の中でも忘れることのできない作品のひとつと言っていいだろう。

    書 名/闇の土鬼(全5巻)
    著者名/横山光輝
    出版元/講談社
    判 型/新書判
    定 価/各320円
    シリーズ名/講談社KCコミックス
    初版発行日/第1巻・昭和49年1月20日、第2巻・2月20日、第3巻・3月25日、第4巻・3月25日、第5巻・5月25日
    収録作品/闇の土鬼

    (文:猫目ユウ)

    あわせて読みたい関連記事
  • ニュース・話題

    『魔法使いサリー』への道が判る横山光輝幻の作品が初単行本化

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十四回 まんが集/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十三回 くれない頭巾/横山光輝

  • うちの本棚
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十二回 ジャイアント・ロボ/横山光輝

  • うちの本棚
    コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十一回 レッドマスク/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第九十回 宇宙警備隊/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十九回 仮面の忍者 赤影/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十八回 野獣/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十七回 マーズ/横山光輝

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】第八十六回 サンダー大王/横山光輝

  • 猫目 ユウWriter

    記事一覧

    フリーライター。ライター集団「涼風家[SUZUKAZE-YA]」の中心メンバー。
    『ニューハーフという生き方』『AV女優の裏(共著)』などの単行本あり。
    女性向けのセックス情報誌やレディースコミックを中心に「GON!」等のサブカルチャー誌にも執筆。ヲタクな記事は「comic GON!」に掲載していたほか、ブログでも漫画や映画に関する記事を掲載中。
    本コラム「うちの本棚」は作者・テーマ別にして「ブクログのパブー」から電子書籍として刊行しています。
    また最近は小説の執筆に力を入れています。
    仮想空間「Second Life」やってます^^

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • コラム・レビュー

    複数社から発売された『墓場鬼太郎(ゲゲゲの鬼太郎)』を振り返る

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

  • コラム・レビュー

    【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

  • トピックス

    1. 「クレカ不正利用された」DMに注意 X乗っ取りの新手口と詐欺師を撃退した「最強の方言」

      「クレカ不正利用された」DMの正体 X乗っ取り新手口と方言での検証

      X上でアカウント乗っ取り被害が頻発しています。今回、これまでとは全く異なる方法でアカウントを乗っ取ら…
    2. 明治「超バニラ味グミ」がSNSで賛否 “否”の声、その原因は?

      明治「超バニラ味グミ」がSNSで賛否 “否”の声、その原因は?

      アイスの定番中の定番、「明治エッセルスーパーカップ 超バニラ」がグミになりました。Xでの反響をきっか…
    3. 「新しき村」全景画像:(C)小輪瀬光夫

      武者小路実篤「新しき村」が村長募集 住人3人からの再生プロジェクト

      「仲よきことは美しきかな」――そんな言葉でも知られる白樺派の文学者・武者小路実篤。彼が大正7年に創設…

    編集部おすすめ

    1. 僧侶に恋愛相談ができる体験型イベント「ごえんさんエキスポ2026 恋バナ縁日」

      僧侶50人集結!恋愛僧談フェス「恋バナ縁日」京都で開催 修羅BARに未練データ葬…異色企画が大渋滞

      京都・東本願寺前の「お東さん広場」で3月14日・15日の2日間、僧侶に恋愛相談ができる体験型イベント「ごえんさんエキスポ2026 恋バナ縁日…
    2. ウルトラマン、グローバル版公式Xが乗っ取り被害 その後復旧、管理権回復を発表

      ウルトラマン、グローバル版公式Xが乗っ取り被害 その後復旧、管理権回復を発表

      円谷プロダクションは2月19日、同社が展開するウルトラマンシリーズのグローバル版公式X(旧Twitter)アカウント「ULTRAMAN Gl…
    3. TVアニメ キービジュアル

      「ねずみくんのチョッキ」アニメ化決定 津田健次郎・能登麻美子が複数役担当

      株式会社ポプラ社は2月17日、ロングセラー絵本「ねずみくんの絵本」シリーズ(作:なかえよしを/絵:上野紀子)のテレビアニメ化を発表しました。…
    4. (写真はイメージ/写真AC)

      JR東日本、駅そば巡りスタンプ企画 148店舗参加の「駅そばの達人2026」開催

      JR東日本は、駅そばを味わいながらスタンプを集められるキャンペーン「駅そばの達人2026」を、2月19日から3月18日まで開催すると発表しま…
    5. ラグナロクオンライン3

      「ラグナロクオンライン3」日本展開決定 スマホ&PC対応、特定コンテンツはシーズン制

      ガンホー・オンライン・エンターテイメントは2月13日、スマートフォンおよびPC向けMMORPG「ラグナロクオンライン3(RO3)」の日本国内…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト
    支援