今回は昭和53年の東映映画『宇宙からのメッセージ』をご紹介します。『宇宙からのメッセージ』について、幾つかの視点から観てみましょう。
―― その1・東映時代劇の系譜
かつて時代劇映画を量産した東映ですが、1970年代になると時代劇映画をパタッと作らなくなります。そんな東映が久々に制作した時代劇映画が、昭和53年の大作『柳生一族の陰謀』でした。これに続き、『柳生一族の陰謀』と同じく監督・深作欣二、脚本・松田寛夫の布陣で制作されたのが『宇宙からのメッセージ』です。出演者も、『柳生一族の陰謀』と『宇宙からのメッセージ』で共通している俳優が目立ちます。千葉真一、真田広之、志穂美悦子、成田三樹夫、丹波哲郎、曽根晴美などなど。特に成田三樹夫の場合、『柳生一族の陰謀』では顔面白塗りの悪役公家・烏丸少将、『宇宙からのメッセージ』では顔面銀色の悪役皇帝・ロクセイア12世を演じており、同じ路線といった趣です。
その他、本作には福本清三、阿波地大輔、笹木俊志、波多野博、峰蘭太郎、ナレーターの芥川隆行と時代劇の常連が終結していますし、ストーリーも『里見八犬伝』を元にしたものなので、時代劇色の強い映画と言えるのではないでしょうか。
―― その2・SF映画ブームのさ中で
昭和52年にアメリカで公開された映画『スター・ウォーズ』が海を越えて日本でも強い関心を呼ぶと、昭和53年7月1日の『スター・ウォーズ』日本公開に向けて、ブームに便乗するメディアが現れました。例えば東宝は、低予算且つ短期間の突貫工事で映画『惑星大戦争』を制作し、昭和52年12月17日に公開しました。更に東宝は昭和53年3月18日封切りの東宝チャンピオンまつりで昭和32年の映画『地球防衛軍』の再編集版を上映しています。昭和53年4月29日公開の東映の『宇宙からのメッセージ』も『惑星大戦争』と同様の便乗商法である訳ですが、東宝の『惑星大戦争』と比較すると、東映の『宇宙からのメッセージ』は15億円を投じた大作であり、スピードを重んじるか豪華さを重んじるかという東宝と東映の戦略の違いが浮き出ていると言えます。
因みに劇場版『宇宙戦艦ヤマト』が公開されたのは昭和52年でした。
―― その3・特撮班の挑戦
本作の特撮監督は矢島信男。特撮班は、昭和50年の東映映画『新幹線大爆破』で初めて使用したシュノーメルカメラを存分に用い、要塞のパイプ内部を戦闘機が突き進む描写等を作り上げました。そして本作はアメリカの特撮映画スタッフからも注目される作品となりました。
―― その4・森岡賢一郎の音楽
本作のテーマ曲「エメラリーダのテーマ」を、私は映画音楽史上最高の名曲だと思っています。私は昭和53年当時の本作のパンフレットを持っていますが、そこにはこの曲の楽譜が載っていました。CD『交響組曲「宇宙からのメッセージ」』でも聴くことができます。
因みに指揮者は熊谷弘。熊谷は昭和49年の大作映画『砂の器』やテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』、平成8年のアニメ映画『もののけ姫』等の音楽も指揮した人物です。
―― その5・アクション女優・志穂美悦子
本作のヒロイン・エメラリーダを演じるのは、1970年代を代表する美人女優・志穂美悦子。志穂美が映る画面は、照明の関係か、画面がファンタスティックにぽや~っとしており、志穂美の清らかさを引き立てていました。また志穂美といえばジャパン・アクション・クラブ所属のアクション女優であり、本作でも、男を華麗に投げ飛ばすシーンがありました。
―― その6・大作俳優・丹波哲郎
1970年代の大作映画には全て丹波哲郎が出演しているのですが、本作もご多分に漏れず丹波哲郎が出演しています。丹波の役は地球連邦政府の評議会議長。昭和48年の大作映画『日本沈没』における山本総理役と同様、国難に立ち向かい、いつものあの口調で喋ります。出番は数分しかありませんが、数種類ある予告編のうちの1編では、俳優の中で2番目に名前が表示されるという待遇。流石は丹波。
以上のように、『宇宙からのメッセージ』は1970年代の要素が詰まった映画でした。
【基本データ】
原案・石森章太郎(石ノ森章太郎)/ 野田昌宏/深作欣二/松田寛夫
脚本・松田寛夫
音楽・森岡賢一郎
本篇監督・深作欣二
特撮監督・矢島信男
メカニックデザイン・石森章太郎/他
背景イラスト・渡辺善夫
(文:コートク)
※サムネール画像の写真はイメージです。本文で紹介されている作品とは関係ありません。