風邪を引く人が多くなるこの時期、しばしば話題となるのが風邪薬の効果と副作用。最近では軽い風邪ではあまり処方されなくなりつつある抗生物質で下痢を起こすというのがよく知られているところですが咳止めで意外な副作用が話題になっています。
ヴァイオリニストの高嶋ちさ子さんが処方された風邪の薬の中に咳止めがあったそうなのですが、
「薬剤師さんに『この咳止めは半音下がって聴こえる副作用が稀に出ます』と言われ、昨日は演奏する事があって飲まなかったけど、今日は朝から飲んだら、まず、インターホンが半音下がり『壊れた!』と騒ぎ、I phone の着信音が全部半音下がってて、面白すぎる。凄い!そして咳も止まった」
とツイートし、リプライには「同じ副作用を体験した」「知らなかった」「その副作用を説明できる薬剤師さんすごい」などなど反響が寄せられています。また、このツイート以前にも度々ネット上では処方された咳止めを飲むと音が変に聞こえるという声が上がっていました。
高嶋さんが処方された薬は明らかとされていませんが、この副作用が起きる薬は2008年8月より処方できるようになった「フラベリック錠」(一般的名称: ベンプロペリンリン酸塩錠)という商品名のものがあります。
添付文書によると、効能・効果として、「感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺結核、上気道炎(咽喉頭炎、鼻カタル)に伴う咳嗽(せき)」が挙げられています。
この薬は咳の起こる神経の中枢に作用して病的に過敏になっている咳中枢の興奮を鎮め、肺や気管支が過敏になっている状態を緩める事で咳を落ち着かせる作用がありその強さは麻薬であるモルヒネ系の咳止め「リン酸コデイン」と同等かそれ以上という事です。しかし、フラベリックは非麻薬性の薬で、リン酸コデインに見られる重大な副作用(依存性、呼吸抑制、錯乱、無気肺、気管支痙攣、喉頭浮腫等)の出現が現時点で報告されておらず比較的使いやすい薬と言えます。が、この「半音下がって聞こえる」副作用は音楽関係の人などにはツライ副作用。
音楽を主な仕事にしている人は常に正確な音と向き合っているいるわけで、その作業には正確に音程を聞き取る音感が必要。特にみっちりと音感を鍛え上げているクラシック出身の人にとってこの半音ずれるというのはかなりキモチワルイ状態ではないかと。この聴覚異常(音感の変化等)の副作用は添付文書にも記載されているのですが自発報告の為頻度不明という但し書きが付いています。
音楽を仕事にしていなくても普段から何か音楽をBGMに仕事をしている人は多いかと思います。もし風邪を引いて咳止めを処方された時にはこういった副作用もあるので、まずは慌てずに薬剤名を確認してみて下さい。フラベリック以外にも咳止めの効果がある薬はいくつもあるので、音楽関係の仕事や音大生は他の薬を処方してもらうのも一案です。
また、咳止め以外でも聴覚障害が起きる薬がいくつかあります。神経痛の薬として処方される「テグレトール」(一般的名称:カルバマゼピン)でも半音下がって聞こえるという症例が報告されています。フラベリックにせよテグレトールにせよ服薬を中止すれば症状は改善されるのでもし聴覚に異常を感じたら処方してもらった医師へ相談してみて下さい。
薬剤師さんに「この咳止めは半音下がって聴こえる副作用が稀に出ます」と言われ、昨日は演奏する事があって飲まなかったけど、今日は朝から飲んだら、まず、インターホンが半音下がり「壊れた!」と騒ぎ、I phone の着信音が全部半音下がってて、面白すぎる。凄い!そして咳も止まった
— 高嶋ちさ子official (@chisako824) January 31, 2018
<参考文献>
フラベリック錠20mg
【新連載】3.味覚異常・聴覚異常・視力障害に注意すべき薬剤 |全日本民医連
※画像は高嶋ちさ子official(@chisako824)のスクリーンショットです。
(梓川みいな / 正看護師)