2017年のワールドチャンピオン、室屋義秀選手の2019年シーズンキックオフ会見が1月23日に都内で開かれ、合わせて9月7日・8日にホームレースである千葉大会の開催も発表されました。室屋選手は2018年シーズン総合5位から、再び王座奪還に向けて始動します。
2月8日(予選)・9日(決勝)に開催されるアブダビ(UAE)大会で開幕するレッドブル・エアレースの2019年シーズンは、年間のチャンピオンシップを争うポイント付与の規定が大きく変更されました。2010年まで存在した、予選上位者に対するポイントが復活。予選1位に3ポイント、2位に2ポイント、3位に1ポイントが付与されます。
また、決勝でのポイントも1位から13位までにポイントが付与されることに。初戦のラウンド・オブ14で敗退した選手には5~0ポイント。ラウンド・オブ8進出で5ポイント、ファイナル4進出で3ポイントの追加ポイントがプラスされ、合計すると1位に25ポイント、2位に22ポイント、3位に20ポイント、4位に18ポイントとなり、5位~8位には14ポイント~11ポイントが加算されます。
つまり、予選でトップとなり、決勝でも1位となると、最大28ポイントが得られることになります。これにより、単純な「タイムによる組み合わせ抽選」のようだった2014年~2018年と違い、予選から全力で戦った上で、さらにラウンド・オブ14での組み合わせが決まるというスリリングな展開が予想されます。
これについて室屋選手は「(一発勝負となる)予選は得意なので、そこでポイントがつけられるルールに戻ったことは大きい」と語り、ラウンド・オブ14での組み合わせを意識したものから、もっと白熱した予選が繰り広げられることを歓迎していました。
また、オーバーGのペナルティも変更されました。2018年シーズンは10Gを超えて12G未満が0.6秒以上続いて記録されると2秒のペナルティ、12Gを超えるとDNF(ゴールせず)という形でしたが、これがシンプルになります。11Gを超えると自動的に1秒のペナルティが加算され、12Gを記録した時点でDNFとなります。
これまではバーティカルターンの際、0.6秒未満になるよう、一瞬操縦桿をゆるめて再度引き直し、いわば「Gの分割払い」をするテクニック(ダブルスティック)が各パイロットの間で使われてきましたが、これからは一気に宙返りに行きつつ、うまくGを抜きながらターンするようになると思われます。バーティカルターンを横から見た際、各レース機が描くスモークの軌跡によって、どのようにGをコントロールしながらターンしているかがカギとなります。決して円を描くようにターンするわけではないので、この部分に各パイロットの特徴が出てくることでしょう。
そして、千葉大会が2019年も開催されることが決定しました。これまでの4年間は、5月最終週~6月第1週の日程で開催されてきましたが、2019年は9月7日(予選)・8日(決勝)という秋の開催となります。台風シーズンにかかるのが少し心配ではありますが、梅雨時だったこれまでに比べれば、晴天の確率は上がることでしょう。観戦を予定される方は、これまで以上に厳重な日焼け対策が必要ですね。
2019年のレッドブル・エアレースは、現在のところアブダビでの開幕戦(2月8日~9日)と、この千葉大会しか日程が発表されていません。シーズン全体で何レース開催されるのか、9月の千葉大会が何戦目になるのかは今のところ不明ですが、これまでの傾向から後半戦になる可能性が高いでしょう。室屋選手は「これまではシーズンの序盤での千葉大会でしたが、今年はチャンピオン争いが激しくなってくる時期での開催となるので、よりスリリングなレースになるだろう」と分析しつつ、チャンピオン争いをしている状態で千葉へ帰ってきたいと話していました。
ディフェンディングチャンピオンとして迎えた2018年シーズンを振り返って「ちょっと動きすぎた」という室屋選手。チャンピオンとして守りに入るのではなく、攻めの姿勢で新しいことにトライしていったのですが、新たなパーツを熟成が十分でないまま急いで投入してしまったことを反省していました。しかしアメリカでの終盤2戦を悪くない状態で終えたことは自信になったようで、2019年はその自信を持って、じっくりと腰を据えて戦いに臨みたいと話していました。
千葉大会の予選で投入した、空気抵抗が少なくなる小さな垂直尾翼(スモールテイル)も、時機を見て再度投入する考えだとか。2018年10月にインタビューした際、再度投入する際は「形は千葉のものと変わる可能性がある」と語っていたので、2018年千葉大会の仕様とは異なるものになるかもしれません。
室屋選手のチームでは、昨年までテクニシャンを務めていたピーター・コンウェイ氏がカービー・チャンブリス選手のチームに移籍したため、2019年は別のチームテクニシャンを起用することになるのですが、まだ人選については検討中とのこと。開幕戦のアブダビには、普段ホームベースのふくしまスカイパークで整備を担当している方がチームに帯同してテクニシャンを務める予定ですが、第2戦以降は未定とのことです。しかしタクティシャンのベンジャミン・フリーラブさんも、航空機整備に関しては十分すぎるほどの腕の持ち主であり、テクニシャンが決まらないからチームの戦闘力が落ちるという訳ではありません。
2018年シーズンは、全8戦のうち半分の4戦で勝利したチェコのマルティン・ソンカ選手がワールドチャンピオンに輝きましたが、わずか5ポイント差でオーストラリアのマット・ホール選手、そしてそこから2ポイント差でアメリカのマイケル・グーリアン選手が続くという接戦。チャンピオン争いは2年連続で最終戦のファイナル4にまでもつれ込みました。各チームとも機体の熟成が進み、もともと操縦テクニックは世界最高峰のパイロット達です。ほんのわずかなミスも許されないほどのタイトな争いになることでしょう。
これとは別に、室屋選手は次世代担う子供たちに、航空から未来を考える教室「空ラボ」を、2019年春から福島県でスタートさせます。航空の体験や学習を通じて知的好奇心を育み、将来の自分を見つけ出すプロジェクトです。未来の航空文化・産業を担う航空人はもちろん、直接「空」に携わらなくても、子供たちが将来の社会を担う新しいリーダーとなってくれることを目指すとのこと。室屋さんはプログラムのスーパーバイザーとして、子供たちが自分自身で夢を見つけ、それに向かって歩んでいけるような手助けをしていくそうです。
予選でもポイントが加算されることにより、2018年以上に熾烈な争いが予想される2019年のレッドブル・エアレース。予想もつかないことが起こりそうな気がします。最終戦を終えた時、チャンピオントロフィーを再び手にすることを目指して、室屋選手は2019年開幕戦の地、アブダビへ向かいます。
(取材:咲村珠樹)