おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

レッドブル・エアレース復活!「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」として2022年開幕

 惜しまれつつ、2019年で終了したレッドブル・エアレースが、新たな世界選手権シリーズ「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」として復活することが発表されました。航空スポーツを統括する国際団体、国際航空連盟(FAI)とパートナーシップ協定を結び、新たなレースカテゴリーも加えて2022年の開幕が予定されています。

  •  エアロバティック用のプロペラ機が、パイロンで設定されたレーストラックをジムカーナのように飛び抜ける「3次元のモータースポーツ」として2003年からスタートし、2019年に惜しまれつつ終了したレッドブル・エアレース。日本から室屋義秀選手が参戦し、2017年には欧米人以外で初のワールドチャンピオンに輝きました。

    レッドブル・エアレースでの室屋義秀選手

     レッドブル・エアレースが終了してしまったのは、タイトルスポンサーであるレッドブルの撤退によるものでした。しかし、その後も参戦していたパイロットやレース関係者たちによって、シリーズ復活の動きが水面下で進められていたのです。

     2021年2月24日(現地時間)、レッドブル・エアレースは航空スポーツの国際統括団体FAI(国際航空連盟)のパートナーシップ協定を結び、新たに「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」として復活することが正式に発表されました。FAIとのパートナーシップ期間は15年で、レース主催団体のWorld Championship Air Race(WCAR)は、イギリスに本拠が置かれます。

    レッドブル・エアレースでのフアン・ベラルデ選手

     レースのシリーズ・ディレクターを務めるのは、2018年シーズンからレッドブル・エアレースの航空部門とスポーツ部門でヘッドを務めていたウィリー・クリュックシャンク(Willie Cruickshank)氏。イギリス空軍でジャギュアのパイロットとして活躍し、退役後はS-2Bピッツ・スペシャルによるフォーメーション・エアロバティックチーム「ワイルドキャット」のメンバーとして活動しています。

     ワールドチャンピオンシップ・エアレースは、レッドブル・エアレースの伝統を受け継ぎ、新たな歴史を切り開く世界選手権として開催されます。アドバイザリーボード(有識者委員会)のメンバーには、ポール・ボノム氏、ナイジェル・ラム氏、スティーブ・ジョーンズ氏、ジム・ディマッテオ氏、ジム・“ジンボ”・リード氏とレッドブル・エアレースでお馴染みの顔ぶれに加え、ベン・マーフィー選手の配偶者で、元イギリス空軍レッドアローズ初の女性パイロット、カースティ・マーフィー氏(ブレーズ・エアロバティックチームのパイロット/イギリス航空大使)も名を連ねます。

    「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」アドバイザリーボードの顔ぶれ(スクリーンショット)

     また、レース終了後にはハンガーステージにてライブパフォーマンスの実施も構想されているとのこと。より「フェスティバル」的なエンターテインメントも用意されるようです。

     2021年2月24日現在で発表されているレースカテゴリーは、全部で4つ。最高位のカテゴリー「AERO/GP1」は、12チームによる3回戦制で争われるレースとなっており、レッドブル・エアレースのフォーマットに近いものとなりそうです。

    「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」4つのレースカテゴリー(スクリーンショット)

     また「AERO/GT」は、複数のパイロットが所属する3チームによって争われるもの。ル・マン24時間のように、複数のパイロットがリレーする形で飛行し、タイムの合計で順位が決まるという耐久レース形式。1920年代までの航空草創期には、長距離を飛ぶ耐久レースやラリー形式のエアレースが開催されていたので、それに近いものになりそうです。

     新たな試みとして注目なのが、VTOL(垂直離着陸)機を使った「VTOL/J」と「VTOL/E」という2つのレースカテゴリー。将来的に開催される予定、とされています。

     まず「VTOL/J」は、ハリアーやF-35B、Yak-38といったVTOLジェット機によるレース。ジェット機のエアレースはアメリカのリノ・エアレースにありますが、VTOL機というのは史上初。レッドブル・エアレースに参戦していたベン・マーフィー選手は元イギリス空軍のハリアーパイロットなので、その経験を活用できるかもしれません。

     そして「VTOL/E」というのは、電動VTOL機によるレース。現在各国で研究開発が進んでいる「空飛ぶタクシー」のような電動航空機が想定されているようです。

     電動VTOL機のレースが将来企画されているように、気候変動を中心とした環境問題に配慮しているのもチャンピオンシップ・エアレースの特徴。国連気候変動枠組条約(UNFCC)に従い、シーズン5までにカーボンフットプリントを差し引きゼロ(バイオ燃料で吸収される二酸化炭素量で排出量を相殺)とする、環境負荷の少ないモータースポーツとなります。

     ここで大きな役割を果たすのが、現在広く使われている航空ガソリンに替えて使用される、第3世代のバイオ燃料。これにより、2025年までにカーボンフットプリント差し引きゼロを目標に掲げています。

     ひとまず2022年のシリーズ開始当初は、レッドブル・エアレースで使用されていたエッジ540やMXS-Rのようなレース機で開催されますが、シーズンを重ねるにつれ、徐々に環境負荷の少ないものに変わっていく、としています。バイクや自動車のレースが技術革新のゆりかごとなったように、チャンピオンシップ・エアレースも新しい航空技術開発を促進する存在となる、ということのようです。

    カービー・チャンブリス選手のエッジ540V3
    ミカ・ブラジョー選手のMXS-R

     技術開発の促進を目指す上で欠かせないのが、新たな世代の育成です。チャンピオンシップ・エアレースでは、若い航空宇宙技術者育成にも寄与する存在となることを目標に掲げています。

     たとえるならば、現在室屋選手が福島県の産業人材育成充実を目的として進めている、福島県立テクノアカデミーの生徒とエアレースの機体部品を開発する「REAL SKYプロジェクト」のようなもの、といえるでしょう。エアレースを見て、ああいう飛行機を作ってみたいという技術者の卵を産み、航空宇宙産業の未来に資するものでありたい、という考えです。

     もちろん、レースで飛ぶパイロット育成にも取り組みます。自動車やバイクの世界であるような、次世代レーサーを育成する「WCAR ACADEMY」をイギリスに開設し、世界中に設置されるサテライト(分校)とともに、基準を満たせば「AERO/GT」参戦資格が得られるようになるとのことです。

     室屋義秀選手もTwitterで、「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」公式Twitterの投稿を引用する形で「2022年に開幕する新シリーズ “ワールドチャンピオンシップ・エアレース” への参戦について、現在、大会主催者とポジティブに話をしています。きちんと発表できる時期がきたら、正式にお伝えしたいと思います!」と発表。正式な参戦発表が待たれるところです。

     新たなFAI公認世界選手権シリーズとしてスタートするのは、2022年の第一四半期の予定。今後「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」公式サイトや、公式Twitter(@TheAirRace)などで、さらなる情報が発信されていきます。

    <出典・引用>
    ワールドチャンピオンシップ・エアレース ニュースリリース
    国際航空連盟(FAI) ニュースリリース
    ※レッドブル・エアレースの画像を除く画像は「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」公式サイトからのスクリーンショットです。

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 新たなエアレース「AIR RACE X」コンセプト発表(画像:(c) AIR RACE X)
    宇宙・航空

    初戦は2023年10月予定 エアレースパイロット室屋義秀「AIR RACE X」…

  • ファン感謝イベントでフライトする室屋選手のレース機
    宇宙・航空

    “2022年仕様”のレース機も飛行  室屋義秀エアレースチームのファンイベント

  • 2022年のエアレース世界選手権開催断念を伝えるツイート(スクリーンショット)
    宇宙・航空

    エアレース世界選手権2022年の開催断念 新型コロナウイルスと世界経済激変で

  • 室屋選手(右)と佐藤プレジデント((c) Lexus Pathfinder Air Racing / Suguru Saito)
    宇宙・航空

    室屋義秀の新エアレースチーム参戦会見 LEXUSとの「ワークス」体制

  • 2021シーズンキックオフ会見での室屋義秀選手((c) Pathfinder)
    宇宙・航空

    新エアレース世界選手権に正式参戦!室屋義秀2021シーズンキックオフ

  • 宇宙・航空

    室屋義秀 福島県内で応援フライト「Fly for ALL #大空を見上げよう」を…

  • 宇宙・航空

    エアバスが支援する電動飛行機レース「エアレースE」2020年シーズン参戦の8チー…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレースにUS-2がやってきた!その隠された苦労に迫る

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019ラウンド・オブ8〜ファイナル4 室屋義秀優勝で…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019ラウンド・オブ14 予想外の風に王者ソンカ敗退…

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 北海道産のチーズを2種類使った秋冬限定フレーバー「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」
    商品・物販, 経済

    北海道産チーズのW使い!「かっぱえびせん 北海道Wチーズ味」がこの秋登場

  • クリスプ のりしおバター味
    商品・物販, 経済

    カルビー、「クリスプ のりしおバター味」発売 レアな“ホシ型クリスプ”も登場

  • 特別災害対策本部車(国土交通省)
    社会, 経済

    消防車も自衛隊車もNERVも! 防災車両がずらり「ぼうさいモーターショー2025…

  • ウィキペディアのページビュー
    インターネット, サービス・テクノロジー

    AI時代でウィキペディア苦境 人間の閲覧数8%減、財団が警鐘

  • ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロティカ解禁」方針
    インターネット, サービス・テクノロジー

    ChatGPTが“全年齢対応AI”を卒業? アルトマン氏が語った「成人向けエロテ…

  • ガンホー「ケリ姫スイーツ」2026年1月末に終了 2012年配信開始から13年
    ゲーム, ニュース・話題

    ガンホー「ケリ姫スイーツ」2026年1月末に終了 2012年配信開始から13年

  • トピックス

    1. 目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      目指せ去勢マスター!「繁殖」テーマのローグライクゲーム爆誕

      海外の映画やゲームが日本向けにローカライズされる際、タイトルも和訳されることもしばしばですが、「あま…
    2. 実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      実家の一室をレトロゲームショップ風に改造 本物の什器も揃えた昭和男児の夢空間

      一歩足を踏み入れると、そこはまるで平成初期のゲームショップ。ショーケースにはファミコンソフトがずらり…
    3. ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      ケーキの上は只今工事中!3歳のわが子に作った「工事現場ケーキ」が楽しそう

      「はたらくくるま」が好きな人に刺さること間違いなしな「工事現場ケーキ」がXで話題です。説明がなければ…

    編集部おすすめ

    1. 職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      職員室を自由に物色! 体験型展示「あの職員室」が11月15日より開催

      株式会社チョコレイト(CHOCOLATE Inc.)は、あの頃入りたくても入れなかった職員室を体験できる展示企画「あの職員室」を、11月15…
    2. カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      カービィのエアライダー、桜井政博こだわりの「酔い対策」が話題 アクセシビリティ配慮に称賛の声

      2025年10月23日22時より配信されたNintendo公式番組「カービィのエアライダー Direct 2」にて、ゲームクリエイター・桜井…
    3. 「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      「なぜ誹謗中傷は起きたのか」 にじさんじ運営が加害者心理を公表

      ANYCOLOR株式会社は10月22日、所属ライバーである甲斐田晴さんをめぐる極めて悪質な誹謗中傷・荒らし行為への対応結果を、加害者側の意識…
    4. 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開40周年 タイムサーキット型時計が登場

      株式会社Gakken(学研ホールディングスグループ)は、同作の映画公開40周年を記念して、劇中の「タイムサーキット」を再現した時計「バック・…
    5. 電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が注意喚起 京王線の車内広告に何者かが不審なQRコード“貼り付け”か

      電気通信大学が10月21日朝、公式Xアカウントに声明を掲載。「京王線車内の本学の広告にQRコードは記載しておりません」と述べ、車内広告にQR…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト