おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

新エアレース世界選手権に正式参戦!室屋義秀2021シーズンキックオフ

 新しいエアレースの世界選手権「ワールドチャンピオンシップ・エアレース(WCAR)」への参戦が正式発表された室屋義秀選手が、ふくしまスカイパークで「2021年シーズンキックオフ会見」を2021年5月13日に行いました。会見には、WCARのウィリー・クルークシャンクCEOもイギリスからリモートで参加しています。

  • ■ 室屋選手の10年プラン「VISION 2030」

     2003年~2019年に開催されていたレッドブル・エアレース。その遺産を受け継ぎ、新たなFAI(国際航空連盟)公認の世界選手権シリーズとして2022年に開幕を予定している「ワールドチャンピオンシップ・エアレース(WCAR)」に、室屋義秀選手の参戦が正式にアナウンスされたのは5月2日のことでした。

     これを受けて行われた、室屋選手の2021年シーズンキックオフ会見。冒頭では室屋選手と、室屋選手が代表を務める株式会社パスファインダーの今後10年における行動指針を示すプラン「VISION 2030」が発表されました。

    「VISION 2030」

     このプランは、室屋選手のフィールドである航空スポーツを主軸にしつつ、そこから「ワクワクする社会・未来へのアクション」を実現しようというもの。その活動は「Being(創造マインドの育成)」と「Doing(産業創造・地域貢献)」に大きく分けられます。

    「VISION 2030」について説明する室屋選手

     創造マインドの育成については、小学3年生~中学2年生を対象に2019年から実施している「空ラボ」や、10代後半を対象として飛行機の操縦ライセンス取得を目指す「Youth Pilot Program(YPP)」が主体となります。「空ラボ」では自分でテーマを設定し、問題解決のプロセスやチームワークを通して、自分自身が主体的に物事を考えるきっかけにしてほしい、というもの。

     産業創造・地域貢献の分野では、福島県立テクノアカデミーの生徒を対象とし、エアレース機の部品を開発するという「Real Sky Project」などを通じ、福島県に航空を中心とした新しい産業の種をまこうというもの。全体として、人々に“創造マインド”を醸成していこう、というのが「VISION 2030」となります。

    「Real Sky Project」
    将来構想

     2021年のスケジュールでは、6月6日に福島県で「スカイスポーツ教室」、そして6月には「空ラボ」の開講と、ワールドチャンピオンシップ・エアレース参戦に向けてレース機のテストフライトが予定されています。エアレースのチーム体制などについては、夏頃をめどに参戦発表会を改めて行い、発表するとのこと。秋頃にはエアショウの予定もあるそうです(新型コロナウイルスの感染状況によって変更の可能性あり)。

    2021年スケジュール

    ■ ワールドチャンピオンシップ・エアレースについて

     さて、2019年に惜しまれつつ終了したレッドブル・エアレースの遺産を受け継ぎ、新たなFAI(国際航空連盟)公認の世界選手権として2022年にスタートする「ワールドチャンピオンシップ・エアレース(WCAR)」。4つのレースカテゴリーのうち、トップカテゴリーとなる「AeroGP1」クラスには室屋選手をはじめ、12名のパイロットが参戦すると発表されています。

    室屋義秀選手((c) Osamu Abe/Pathfinder)

     パイロット12名の構成は、レッドブル・エアレースのマスタークラスに参戦していたパイロット7名と、チャレンジャークラスに参戦していたパイロットが5名。参戦するパイロットは以下の通りで、世代的には室屋さんら“2009年組”が最年長となります。

    【 旧マスタークラスより参戦 】
    室屋義秀選手(日本)
    マット・ホール選手(オーストラリア)
    ピート・マクロード選手(カナダ)
    マルティン・ソンカ選手(チェコ)
    フアン・ベラルデ選手(スペイン)
    ミカ・ブラジョー選手(フランス)
    ベン・マーフィー選手(イギリス)

    【 旧チャレンジャークラスより参戦 】
    フロリアン・バーガー選手(ドイツ)
    メラニー・アストル選手(フランス)
    ケビン・コールマン選手(アメリカ)
    ダリオ・コスタ選手(イタリア)
    パトリック・デイビッドソン選手(南アフリカ)

     この顔ぶれを前に、室屋選手は「2019年チャンピオンのマット・ホール選手、2018年チャンピオンのマルティン・ソンカ選手とは、またライバル関係になっていくのかなと思っています」とコメント。チャレンジャークラスから参戦してくるパイロットについては、実力は未知数だとしながらも、チャレンジャークラス最多勝記録を持つフロリアン・バーガー(フランス系ドイツ人なので発音は「バーガー」より「ベルジェイ」が近い)選手の実力を評価しており、自分たちと近いところに来るのではないか、と語りました。

    WCARについて語る室屋選手

     エアレースの世界選手権が復活するということで「ドキドキとワクワクが交錯している」と語る室屋選手選手。「自分の力がどれだけ出せるか楽しみにしている」と抱負を述べました。

     ここで、シリーズを統括する「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」のウィリー・クルークシャンクCEOが、イギリス(現地時間は午前3時)からリモートで会見に参加しました。クルークシャンク氏は元イギリス空軍の戦闘機パイロット(大佐)で、エアロバティックチーム「ワイルドキャット・エアロバティックス」で活躍しているほか、2018年からレッドブル・エアレースの航空部門とスポーツ部門の責任者を務めていました。

    「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」のウィリー・クルークシャンクCEO

     ワールドチャンピオンシップ・エアレース(WCAR)へ室屋選手が参戦することについて、クルークシャンクCEOは「非常にスキルフルなパイロットであり、彼が参戦を決めてくれて嬉しい」とコメント。レースについては「2022年の第1四半期に開幕する予定」とし、8月に全8戦の開催地とスケジュールを改めて発表するとのことです。

     また、FAIとは15年間の世界選手権シリーズ開催を契約していますが「永遠に続けられるようにしたい」と、シリーズ継続に意欲を見せました。2022年シーズンは全8戦ですが、2023年は全10戦、2024年は全12戦とする構想も明らかにしています。

     気になる日本での開催についてですが、クルークシャンクCEOは「開催地については自治体や関係する諸機関との折衝、商業的に成算があるかを検討している最中であり、まだ明らかにはできない」としながらも「その国を象徴するアイコニックな場所や、有名な都市などで開催したい」と発言。日本についても「アクセスの良い東京エリアや、富士山を背景にレースができるといいですね」と見解を述べています。

    ■ ワールドチャンピオンシップ・エアレース参戦についてさらに詳しく

     記者会見終了後の個別取材では、ワールドチャンピオンシップ・エアレース参戦について、さらに詳しくインタビュー。限られた時間ではありましたが、筆者とは以下のようなやりとりがありました。

    会見終了後の室屋義秀選手((c) Pathfinder)

     ――AeroGP1に参戦するパイロットの顔ぶれを見て、室屋選手ら“2009年組”や2010年デビューのソンカ選手が、ちょうど室屋選手が参戦した頃のポール・ボノムさんやカービー・チャンブリスさん、マイク・マンゴールドさんのような「若手の壁」的存在としての役割を期待されているように思えたのですが?

     室屋選手「自分の口からはそんなこと(若手の壁になるとは)言えませんけれども、確かに年齢の面では一番上の世代になっちゃいましたね。もうそんな年か、という気もしますけれども」

     ――チャレンジャークラスから参戦することになるパイロットの中で、フロリアン・バーガー選手に言及されていました。彼は本業(ルフトハンザ航空のA320パイロット)の関係で年間通しての参戦ができず、マスタークラスへ昇格しないままでしたが、今回室屋選手と同期のマティアス・ドルダラーさんのチームで参戦が決まりました。彼のストロングポイントは?

     室屋選手「まず、とにかく安定してますよね。安定して常に速い。さらにマティアスのチームで、ってことは、多分マティアスのレース機で参戦することになるでしょうから、最初からかなり強さを発揮するんじゃないかと思います。ほかのチャレンジャークラスのパイロットたちとは、頭1つ2つ抜けた存在だと思います」

     ――ワールドチャンピオンシップ・エアレースのAeroGP1では、タイムトライアルで上位の選手が次のラウンドへ進める、というレース形態のようです。ちょうど2014年以前のレッドブル・エアレースで実施されていた「スーパー8」から「ファイナル4」の流れと同じでしょうか?

     室屋選手「現時点でのアナウンスでは、僕もそう考えています。ノックアウト方式なので、ちょうど自動車のF1での予選に近い感じですね。1体1の対戦形式だと、場合によっては番狂わせがあったりしましたけど、この形式なら割と戦いやすいかな、と思いますね。組み合わせを考慮することなくシンプルに、最初からレース全体を見通した戦略を立てやすくなると思っています」

     ――レッドブル・エアレースでは「エアロバティック・パイロットの高い操縦技量をモータースポーツの形式で見せる」という形でしたが、今回のワールドチャンピオンシップ・エアレースでは、そこから航空分野のイノベーションや教育についての側面が強くなっている印象です。これは室屋選手が取り組んでいる「Real Sky Project」などとも親和性が高いのでは?

     室屋選手「僕たちの参戦するクラス(AeroGP1)では今までと同じようなレースだと思いますが、カーボン・オフセット(今後バイオ燃料を使用し、レースでの二酸化炭素排出量を差し引きゼロにする予定)とか、将来のことを考えたものにはなっていくでしょうね。ワールドチャンピオンシップ・エアレースが世界各地に開講を予定している“アカデミー”がどのようになるか、にもよりますけども、自分自身も次の世代へ道を作ってあげたいな、という気持ちがあるので。浜通りで進められているプロジェクトなども含め、福島に新しい産業の種をまくことができれば、という思いもあります」

    (c) PATHFINDER
    取材協力:株式会社パスファインダー

    (取材:咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 新たなエアレース「AIR RACE X」コンセプト発表(画像:(c) AIR RACE X)
    宇宙・航空

    初戦は2023年10月予定 エアレースパイロット室屋義秀「AIR RACE X」…

  • ファン感謝イベントでフライトする室屋選手のレース機
    宇宙・航空

    “2022年仕様”のレース機も飛行  室屋義秀エアレースチームのファンイベント

  • 2022年のエアレース世界選手権開催断念を伝えるツイート(スクリーンショット)
    宇宙・航空

    エアレース世界選手権2022年の開催断念 新型コロナウイルスと世界経済激変で

  • 室屋選手(右)と佐藤プレジデント((c) Lexus Pathfinder Air Racing / Suguru Saito)
    宇宙・航空

    室屋義秀の新エアレースチーム参戦会見 LEXUSとの「ワークス」体制

  • 2022年開幕の「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」公式サイト(スクリーンショット)
    宇宙・航空

    レッドブル・エアレース復活!「ワールドチャンピオンシップ・エアレース」として20…

  • 宇宙・航空

    室屋義秀 福島県内で応援フライト「Fly for ALL #大空を見上げよう」を…

  • 宇宙・航空

    エアバスが支援する電動飛行機レース「エアレースE」2020年シーズン参戦の8チー…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレースにUS-2がやってきた!その隠された苦労に迫る

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019ラウンド・オブ8〜ファイナル4 室屋義秀優勝で…

  • 宇宙・航空

    レッドブル・エアレース千葉2019ラウンド・オブ14 予想外の風に王者ソンカ敗退…

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 期間限定メニュー「厚切り豚角煮定食」
    インターネット

    ド迫力の塊肉!吉野家「厚切り豚角煮定食」が登場 ねぎラー油&からしで味変も

  • 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…
    アニメ/マンガ, 声優

    朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

  • モランボン、肉主役の「肉肉麻婆豆腐の素」発売 社内の豆腐派を説得して実現
    商品・物販, 経済

    モランボン、肉主役の「肉肉麻婆豆腐の素」発売 社内の豆腐派を説得して実現

  • 麻婆豆腐ごはん中辛
    商品・物販, 経済

    お湯を注いで5分、丸美屋の“即席麻婆ごはん” 開発2年半のこだわり詰めて発売

  • KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け
    アニメ/マンガ, ニュース・話題

    KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

  • 「YOASOBEER PROJECT」の新TV-CMおよびWEB-CM「UNDEAD」篇
    エンタメ, 音楽・映像

    YOASOBI×サントリー新CM公開 ダウ90000の蓮見・園田・上原がゲーム開…

  • トピックス

    1. 夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      夏の救世主!リュウジさんの「やけくそチャーハン」はレンジで2分の革命飯

      毎日暑い日が続くと、火を使う料理が億劫になるもの。そんな時におすすめのレシピを、料理研究家のリュウジ…
    2. 愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      愛犬の誕生日に“狂気のケーキ”を手作り ホラーすぎて家族が悲鳴

      あらゆる意味で一生忘れられない誕生日になりそうです。4歳のシーズー犬「てんぽ」ちゃんのため、飼い主さ…
    3. ポケポケ新カードに不備、公式が謝罪 ホウオウ・ルギアのイラスト差し替えへ

      ポケポケ新カードに不備、公式が謝罪 ホウオウ・ルギアのイラスト差し替えへ

      株式会社ポケモンは7月30日、スマートフォン向けポケモンカードゲームアプリ「Pokemon Trad…

    編集部おすすめ

    1. 防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省、観閲式など原則中止 厳しさ増す安全保障環境を理由に

      防衛省は7月30日、「今後の観閲式等について」と題した文書を公開。観閲式、観艦式、航空観閲式について、今後は開催しない方針を明らかにしました…
    2. 朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      朴璐美さん、新幹線で“とんでもない席トラブル”に遭遇 駅弁楽しむはずが…

      アニメ「鋼の錬金術師」エドワード・エルリック役などで知られる声優・朴璐美さんが、7月27日に自身のX(旧Twitter)を更新。新幹線車内で…
    3. 男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      男性記者が“生理痛”を疑似体験 ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」で見えた“隠れ我慢”のリアル

      生理やPMS(月経前症候群)などの不調を我慢せず、自分に合った「もう一つの選択肢」を持てる社会を目指すツムラの取り組み「#OneMoreCh…
    4. 子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子の夏休み=親は常に戦闘モード “戦士のような母”の後ろ姿が話題に

      子どもにとっては待ちに待った夏休み。しかし親にとっては……。我が子が夏休みに突入したある母の後ろ姿が、まるで“戦士”のようだとXで話題を集め…
    5. KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      KADOKAWA、がおう氏の書籍絶版・配信停止を発表 未成年トラブル報道受け

      株式会社KADOKAWAは7月23日、イラストレーター・がおう氏に関する一連の報道を受け、同氏が関与した複数の出版物について、紙書籍の回収・…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト