2019年2月20日、インド国防省は開発中だった国産戦闘機「テジャス(Tejas)」MK.Iが最終の運用試験に合格し、完全な運用能力を獲得したと発表しました。2013年の初度運用能力(IOC)獲得以来、1500回の飛行を重ね、ようやく完全な運用能力を手にしたことになります。
テジャスは、旧式のMiG-21戦闘機を置き換える「軽戦闘航空機(Light Combat Airclaft=LCA)」計画に基づいて開発されたインドの国産多用途戦闘機。開発作業はインドを代表する航空機メーカーHAI(ヒンドスタン航空工業)が中心となり、アメリカの技術支援も受けながら、インドの工業界が合同で行ってきました。
機体の全長は13.2m、全幅8.2m、全高4.4m。空虚重量6.56トン、最大離陸重量は9.8トンと、ほぼMiG-21と同じサイズで、計画にもある通り現代においては小型(サーブ・グリペンより一回り小さい)の軽戦闘機といえます。水平尾翼のない無尾翼デルタ機ですが、単純なデルタ翼ではなく、高迎え角時の失速特性を良くするために、前縁の後退角が付け根側50度、そして外側が62.5度という複合デルタ翼となっています。通常、複合デルタ翼の場合、外側の後退角を少なくするケースが多いのですが、テジャスの場合は逆に外側の後退角の方を大きく設計しています。このような形式のデルタ翼を持つ戦闘機は、スウェーデンのサーブ・ビゲンくらいしかありません。ビゲンは大きな先尾翼(カナード)を組み合わせたクローズカップルドデルタ(Close Coupled Delta)という形式なので、無尾翼デルタの戦闘機としては唯一の存在といえるでしょう。無尾翼デルタ機の常として、翼端の「ねじり下げ」も行われています。
エンジンはF/A-18やサーブ・グリペンなどに使われている、アメリカGE製のF404ターボファンエンジンを1基装備した単発機。F404ファミリーの中でも最大の推力を持つF404-GE-IN20(最大推力1万9000lbf/84kN)を採用しています。この大きな推力により、どの高度でも超音速飛行が可能とされています。また、最大制限荷重はプラス8G/マイナス3.5Gと公表されています。
兵装はGSh-23機関砲のほか、左右の主翼下に3か所ずつ、胴体下に2か所の計8か所に兵装ステーションがありますが、胴体下の1か所は複合センサー専用。また、主翼の一番外側の兵装ステーションも近距離空対空ミサイル専用となっています。増槽は胴体下と主翼の一番内側の計3か所に装備され、視程外空対空ミサイルは主翼下内側の2か所ずつ計4か所、爆弾(レーザー誘導爆弾も使用可)は主翼一番外側の2か所を除く全ての兵装ステーションに装備可能です。
コクピット計器は大型の多機能ディスプレイ(MFD)とヘッドアップディスプレイ(HUD)を使用したグラスコクピット。操縦もコンピュータが介在するフライ・バイ・ワイヤ方式で、飛行制御や火器管制に使われるコンピュータシステムは、オープンアーキテクチャのものを採用しています。
初期運用能力を2013年に獲得したテジャスは、2016年7月からインド空軍の第45飛行隊に引き渡され、完全な運用能力獲得に向けて1500回に及ぶ試験飛行が続けられてきました。このうち、作戦遂行に必須とされてきたのが、空中給油(受油)能力と視程外(BVR)空対空ミサイルの運用能力、そして空対地攻撃能力。最後に残っていた空中給油試験が2018年9月4日に成功し、2019年1月には量産許可が政府から出されていました。
インドのニルマラ・シタラマン国防大臣は、このテジャスについて地元メディアに対し、パキスタンが中国と共同開発した戦闘機JF-17サンダーより優れていると発言し、能力はサーブ・グリペンに匹敵するとしています。このところカシミール地方を巡って、インドとパキスタンの間で再び緊張が高まっており、インドとしてはこのテジャスを防衛力だけでなく、工業力の象徴としても考えているようです。
Image:MOD Government of India
(咲村珠樹)