飛行機に関係する様々な数値。そこには我々が普段使っている単位の他、独特のものもあります。中には同じものをはかるのに複数の単位を使っていたり。ちょっと混乱してしまうこともあるのですが、今回はそんな「飛行機にまつわる単位のいろいろ」についてご紹介しましょう。
まずは空気(風)の力によって飛ぶ飛行機にとって欠かせない風速。天気予報など、一般にはメートル(m/秒)を使っていますが、飛行機ではノット(knot=kt。海里/時)を使います。これは航空の世界ではありがちな、船の用語をそのまま持ってきたようです。帆船の時代、風速はそのまま船の速度に直結します。そんな訳で、船の世界では風速も船の速度も同じ単位を使っているんですね。
飛行機でも、飛行に必要な「対気速度(Air Speed)」はノットを使っています。翼にどれだけの風が当たっているか、の目安が対気速度ですから、風速と同じ単位を使う方が判りやすいからですね。……もっとも、旧日本陸軍の飛行機では、陸の単位を基準としていたのか、それともメートル法のふるさとであるフランスを手本にしたせいか、km/時を用いていたようです。旧日本海軍では、船の速度単位であるノットを使っていました。
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ノットは「1時間に何海里進むか」という単位なので、距離を示す際も海里(nautical mile=nm。約1.8km)を使っています。通常「マイル」という時は、この海里(ノーティカルマイル)を指しているのですが、アメリカのパイロットなど、時々陸のマイル(約1.6km)を使って話をしてくるので、微妙に誤差が出てきます。あれ? と思った時は「land mile」か「nauticai mile」なのか、確認が必要です。ちなみに航空会社のマイレージは、陸のマイルを基準にしています。
船の基準を航空に応用した、という点では、他に針路を表す方位があります。船の航法では、北を基準(0/360度)として時計回りに何度ズレるか……という形で針路を表します。飛行機でも同じで、航空管制では「針路を090に(本来は英語です)」と言われると、それは「真東(北から時計回りに90度ズレた方向)へ機首を向けなさい」という意味になります。これは飛行場で吹いている風の方角も示す際も同様。滑走路の伸びる方角と風の方角が異なっている場合、自分の速度と風速によって、パイロットは機体がどれだけ流されるのか、という計算をすることになります。
また、これとは別に、相対的な方角を示すものとして「時(o’clock)」も使います。これは進行方向正面を時計の文字盤の12時として、どの方角に他の飛行機や目標物があるかを指し示すものです。「3時」と言えば右の真横、「6時」と言えば真後ろに当たります。戦闘機では、真後ろに回り込まれることは撃墜の危険を意味するので「チェック・シックス(6時方向注意)」というのが合い言葉。
ちょっと複雑なのが、燃料をはかる単位。飛行機を運用する時には、燃料は重さで表現します。通常はポンド(lbs)を使いますが、キログラム(kg)やトン(t)を使う時も。
これにはちょっとした理由が。液体である燃料は、温度によって体積(密度)が変化します。それに対し発生する熱量は、燃料に含まれる炭化水素の分子量(質量)に比例します。炭化水素が燃焼し、発生したガスの力(量)が推力となる飛行機の場合、重要なのは燃料の体積ではなく、炭化水素の分子量(質量)なので、重量を基準としているのです。
また、燃料や積み荷を合計した機体の全重量によって離陸重量は決まりますし、同時に離陸決心速度(V1)や機首引き起こし速度(VR)などが算出されるので、運用上、燃料は重量で表現した方が都合がいいんですね。
しかし、石油会社からの請求書は「給油量(体積)」で計算されるので、そちらではリットル(キロリットル)やガロンといった単位が使われています。機体設計上の燃料タンク容量も同様です。体積が小さくなる寒い場所で給油した方がお得なのですが、世界中を飛び回るエアラインでは、そうもいかないのがつらいところ。結局、トータルで見ると体積と重さは平均化されているようです。
飛んでいる高度(フライトレベル)を表すのはフィート(ft。約0.3m)。これも航空管制では単位を省略して話すので、暗黙の了解になっています。これは航空機の気圧高度計を使った値で、気圧29.92水銀柱インチ(inHg)/1013.2ヘクトパスカル(hPa)を高度0として換算したもの。厳密な海抜高度とは違いますが、飛行中は気圧高度計で高度を見ているので、これを基準として採用しているという訳です。離着陸時は、滑走路の海抜高度との誤差を修正する為、必ず飛行場管制から現在の気圧の値から算出された高度規正値(QNH)を取得することになっています。この規正値はinHg(水銀柱インチ)で表現されるのが一般的です。
ただし、この単位も中国やモンゴルなど、旧ソ連の影響を受けた国ではメートル法を採用しており、航空管制でも飛行高度をメートルで指定されます。フィートとはズレが出るので、これらの国の管制圏に入る時は若干の上昇・降下をして、飛行高度がメートル単位になるよう高度調整をしています。
航空の分野ではイギリスやアメリカが主導的な役割を担ってきたせいか、日本で一般的に用いられるメートル法でなく、ヤード・ポンド法の単位系が一般的。なので、パイロットら航空関係者は、機内アナウンスなど一般の人に話す時、ヤード・ポンド法の単位系から、判りやすいようにメートル法の単位系に換算しています。地味に暗算能力も必要なんですね。
(文・写真:咲村珠樹)