10月26日、茨城県小美玉市の百里基地で自衛隊記念日行事として、航空観閲式が行われました。これは11月1日の自衛隊記念日に近い日程で、毎年陸海空3自衛隊が持ち回りで実施している行事。昨年は陸上自衛隊の観閲式があり、来年は海上自衛隊の観艦式が実施されます。今回の航空観閲式は、1954年に航空自衛隊が発足してちょうど60周年という節目の年に実施されることになりました。
今回は諸般の事情で、航空観閲式当日の取材が叶わなかった為、前週19日に同内容で実施された事前公開の様子から、航空観閲式の流れをご紹介します。参加したのは、人員約740名、車両約26両、航空機約80機(地上展示等含む)。本番は当初あいにくの曇り空でしたが、事前公開は齊藤航空幕僚長が挨拶で、1964(昭和39)年の東京オリンピック開会式中継の名アナウンスを引いたように「世界中の青空を集めたような」素晴らしい天候の下、実施されました。
百里基地のエプロンには、ひな壇式の巨大な観覧席が設置されています。この観覧席や観閲台は、観閲飛行や祝賀飛行の参照点(編隊の見た目の基準になる場所)になる為、航空観閲式の事前訓練が始まる9月には既に設置されていました。ちょうど格納庫の前を塞ぐように作られているので、通常の訓練で飛行機を格納庫へ出し入れする際は、ルートを変更したりと様々な工夫が必要だったようです。
観閲式に先立ち、航空自衛隊航空中央音楽隊が記念演奏。曲目は航空自衛隊60周年記念曲「蒼空」「風薫る」、「美中の美(The Fairest of the Fair)」(ジョン・フィリップ・スーザ作曲)、「サーカス・ビー(Circus Bee)」(ヘンリー・フィルモア作曲)、航空自衛隊行進曲「空の精鋭」の5曲。
続いて、観閲を受ける地上部隊の隊員が入場します。航空自衛隊(481名)は3つの大隊に分かれ、それに海上自衛隊、陸上自衛隊の部隊(各184名)、航空自衛隊の儀仗隊、航空中央音楽隊が続いて、観閲台前に整列。観閲地上部隊の指揮官は、中部航空方面隊司令官の平本空将。航空観閲式の執行者は、航空総隊司令官の中島空将です。
観閲官である安倍首相(事前公開では石川防衛政務官)が入場し、特別儀仗隊(陸上自衛隊第302保安警務中隊)と陸上自衛隊中央音楽隊が栄誉礼を行います。
海上自衛隊東京音楽隊の三宅3曹による国歌独唱。
これまでの殉職者を哀悼する慰霊飛行が行われます。会場正面方向から第203飛行隊(北海道・千歳基地)のF-15Jが4機、シェブロン(傘型)隊形で進入し、そのうちの1機が編隊を離れ、蒼空高く翔け昇っていきます。魂が天に昇る様を示す「ミッシングマン・フォーメーション」というもの。
▼ミッシングマン・フォーメーション動画
観閲飛行が始まります。先頭を行くのは陸上自衛隊のヘリコプター部隊。第4対戦車へリコプター隊(千葉県・木更津駐屯地)、東部方面航空隊(東京都・立川駐屯地)を中心としたAH-1S、AH-64D、OH-1、OH-6D、UH-1Jで構成される編隊。それに海上自衛隊のヘリコプター部隊が続きます。第21航空隊(千葉県・館山航空基地)のSH-60Kが3機。そして、航空自衛隊のCH-47J(入間ヘリコプター空輸隊)・UH-60J(小松救難隊)ヘリコプターが通過します。
続いて固定翼機(ヘリコプターではない通常の飛行機)。まずは海上自衛隊。第71航空隊(山口県・岩国航空基地)のUS-1A最終号機(本番ではUS-2も参加して2機編隊)に続き、第2航空隊(青森県・八戸航空基地)のP-3C編隊がやってきます。
航空自衛隊固定翼機の先頭は、第601飛行隊(青森県・三沢基地)のE-2C早期警戒機。航空救難団(新潟救難隊他)の救難捜索機U-125Aが3機編隊で続きます。
続いては輸送機。第401飛行隊のC-130H、第402飛行隊のC-1が編隊飛行。
ひときわ大きい機体が近付いてきます。垂直尾翼の日の丸もまぶしい第701飛行隊(北海道・千歳基地)のB-747政府専用機。先頃、後継機としてB777-300ERが選定(2019年度運用開始予定)されましたね。これに続くは第404飛行隊(愛知県・小牧基地)のKC-767空中給油・輸送機。機体後部の給油ブームを降ろした状態で航過します。404飛行隊のKC-767は、この7月にイギリスで開催された世界最大のミリタリー航空ショウ「ロイヤル・インターナショナル・エアタトゥー(RIAT)」に参加したのも記憶に新しいところ。さらに第602飛行隊(静岡県・浜松基地)の早期警戒管制機E-767が続きます。
いよいよ戦闘機部隊の登場。まず、地元百里基地に所属する第302飛行隊のF-4EJ改。第8飛行隊(青森県・三沢基地)のF-2Aに続き、第303・306飛行隊(石川県・小松基地)で構成されるF-15Jの編隊がトリを務めます。
この観閲飛行、各地の基地・駐屯地から飛び立った航空機が、秒単位で定められた予定通過時刻に合わせて次々進入してくるのは見事の一言。素晴らしい統制です。……が、実はこの後に注意しなければなりません。ヘリコプター、プロペラ機、大型ジェット機、ジェット戦闘機と、速度の遅い機体から速い機体へと進入順が設定されているので、会場を通過した後に後続機が前を飛ぶ編隊に追いついてしまいます。異常接近(ニアミス)しないように、追いついた後続の機体が先行編隊を避けるのも観閲飛行の難しいところなのです。
観閲飛行が終了し、観閲官(安倍首相)による地上部隊の巡閲。そして観閲官訓示の後、観閲地上部隊が退場すると、展示視閲が始まります。まずは車両部隊と航空機の展示走行・地上滑走。普段航空祭では見られないような車両も色々登場しますし、航空機の地上滑走では、訓練弾ながらフル武装の状態で戦闘機が見られます。
F-2AのASM-2(93式空対艦誘導弾)を4発装備した姿は、独特の迫力がありますね。残念ながら、どの機体も装備した短距離空対空ミサイルはAAM-3(90式空対空誘導弾)で、AAM-5(04式空対空誘導弾)を装備した姿は見かけませんでした(装備品展示会場には展示)。
行進展示・地上滑走が終了すると、式典は訓練展示に移ります。まずは地元百里基地の第305飛行隊によるスクランブル展示。観閲官の司令ベルを合図に、2機のF-15Jが素早く離陸。機体が浮かび上がるとすぐさま脚を格納し、2700mある滑走路の半ば過ぎで上昇・離脱していきます(風向きの関係で、事前公開と本番では離陸の向きが異なります)。
続いて、同じく地元百里基地の第501飛行隊が、2機のRF-4Eによる航空偵察の展示飛行を行います。先日の御嶽山噴火にも災害派遣され、上空からの偵察で地上の救助部隊に情報を提供していました。先ほどスクランブル展示で離陸したF-15Jの機動飛行を挟み、第3飛行隊(青森県・三沢基地)のF-2Aは、爆弾投下や機銃掃射(模擬)など対地攻撃の展示。
展示視閲が終了したところで、岐阜基地から「試験飛行」の機体が航過飛行を実施。現在開発中の次期輸送機、XC-2試作初号機です。エスコート役で寄り添うのは、元XC-1試作初号機だったC-1FTB。新旧輸送機の試作初号機が揃って登場するのは粋な演出でした。
C-1FTBとXC-2が飛び去ると、ブルーインパルスの出番。今回はダイジェスト版の「航空観閲式バージョン」。6番機の橋本1尉は、この航空観閲式(事前公開)がエアショウデビューとなりました。
ブルーインパルス各機が着陸すると、飛行展示を締めくくる航空自衛隊創設60周年の祝賀飛行です。17機のT-4による「60」をかたどった編隊が進入します。見たところ高度はおよそ609m強、速度は時速400km台後半といった感じでしょうか。
第305飛行隊(茨城県・百里基地)の飛行隊長を編隊長に、第201・203飛行隊(北海道・千歳基地)、第302・305飛行隊(茨城県・百里基地)、第31・32飛行隊(静岡県・浜松基地)、第301飛行隊(宮崎県・新田原基地)など、全国から集まった機体が埼玉県の入間基地(「6」編隊)、宮城県の松島基地(「0」編隊)を発ち、編隊を組んでいます。編隊長は各種調整で各基地を忙しく飛び回ったことでしょうね。特に「6」の形や、ふたつの数字のバランスをきれいに見せるのが大変だったようです。
観閲官が退場し、航空観閲式は終了。しかし、これ以外にも装備品展示があります。エプロンには航空自衛隊だけでなく、陸上自衛隊、海上自衛隊から主要な航空機が並びます。北側の一番奥には、アメリカ海兵隊VMM-265のMV-22オスプレイと、航空自衛隊の次期戦闘機F-35のモックアップ(実物大模型)が(事前公開では展示されず、当日のみ)。
国歌独唱を行った海上自衛隊東京音楽隊の三宅3曹は人気です。様々な人に記念撮影をせがまれていました。
自衛隊唯一の専任ボーカリストとして知られた三宅3曹。実は今年度、海上自衛隊横須賀音楽隊に1名、陸上自衛隊中央音楽隊に2名のボーカリストが入隊しました。陸上自衛隊中央音楽隊のボーカリストは、10月19日に茨城県下妻市で行われたイベント「砂沼フレンドリーフェスティバル2014」で開催された、市制施行60周年記念演奏会でデビュー(ようかい体操第一、Let It Go)。11月の「自衛隊音楽まつり」も楽しみですね。
格納庫では、F-2A、F-15J、UH-60Jのコクピット公開。普段の航空祭では撮影禁止になることもあるコクピット内部を撮影する人も多く見られました。
別の格納庫で行われている装備品展示では、戦闘機の兵装や曳航標的の展示の他、航空機動衛生隊(愛知県・小牧基地)が運用する「機動衛生ユニット」の内部公開が行われました。
重篤な傷病者を適切な環境で長距離の搬送ができ「空飛ぶICU」の別名もある装備ですが、内部には医療機器に混じって重要な装備品があります。それがこの小さなぬいぐるみ。
機動衛生ユニットが搬送するのは大人ばかりではありません。小さな子供の場合もあります。「機械に囲まれた、ちょっと怖い環境ですから、少しでも安心してもらえるようにと(航空機動衛生隊員談)」このぬいぐるみが活躍するそうですよ。
ニコニコ生放送、YouTube、USTREAM、ひかりTV等、ネットで生中継もされた航空観閲式。次回は2017年、同じく茨城県の百里基地で開催が予定されています。
(取材:咲村珠樹)