おたくま経済新聞

ネットでの話題を中心に、商品レビューや独自コラム、取材記事など幅広く配信中!

99年前の旅客機、リモワの手で復活再生産開始

 2018年3月28日(欧州中央時間)、驚くべき発表がなされました。1919年に初飛行した旅客機が、現代の技術によってよみがえり、再び生産を始めるための型式証明を取得したというのです。仕掛け人は、スーツケースで知られるリモワ(RIMOWA)の社長です。

  •  ドイツのユンカースが開発し、1919年に初飛行したユンカースF.13。世界初の全金属製旅客機です。現在のような主翼が1枚の「単葉機」と呼ばれる形式で、当時の航空技術からすれば10年は進んでいた先進的な旅客機でした。型番のFは、ドイツ語で「飛行機」を表すFlugzeugの頭文字。最大で4名の乗客を乗せることができ、全部で322機が生産されました。

     ユンカースF.13はドイツのルフトハンザ・ドイツ航空(源流のひとつにユンカースが設立した航空会社もある)をはじめ、ヨーロッパやアメリカなど、世界の主要国で運行され、日本でも使われていました。航空技術が急速に発達する1920年代にあっても、その設計の先進性から長く使われ、最後の機体が路線から引退したのは1938年と、当時の飛行機としては異例の長さである18年もの運用期間でした。当時の機体はドイツ、フランス、ハンガリー、スウェーデンの博物館で保存・展示されています。

     機体を製造したユンカース社は、F.13の後「タンテ・ユー(ユーおばさん)」の愛称で知られる輸送機Ju52/3mや、「シュトゥーカ(スツーカ)」の名称で知られる急降下爆撃機Ju87などの名機を世に送り出します。戦後はいくつかの合併を経て、現在のエアバスとなりました。「ユンカース」の名称自体は、現在は商標として、時計(ポインテック社)などに使われています。

     今回、ユンカースF.13復活生産プロジェクトの中心となったのは、リブの入ったアルミ合金(ジェラルミン)製のスーツケースで知られる「リモワ(RIMOWA)」の社長、ディーター・モルシェック(Dieter Morszeck)氏。元々リモワのスーツケースの特徴となっている、強度を増すリブ入りの意匠は、F.13やJu52などユンカース製飛行機の特徴だった、リブ(コルゲート加工)で補強したジェラルミン製外板に注目して、ディーター氏の父親である先代社長のリヒャルト氏が採用したもの。ある意味、リモワの社長がユンカース機復活に取り組むのは自然なことだったのかもしれません。

     プロジェクトがスタートしたのは2009年。フランスのル・ブルジェ航空博物館に保存されている機体(アメリカ向けに8機作られたユンカース・ラーセンJL-6のうちの1機)をレーザースキャナを用いて計測して部品を製作する、リバース・エンジニアリングという手法が用いられました。

     当時は降着装置に緩衝装置(オレオなどのショックアブソーバー)やブレーキがないなど、様々な部分で技術が未発達だったため、そのままでは現代の航空安全基準に合致しません。現代の航空機の安全基準に合わせて改良を施したため、形式的には「レプリカ機」となりますが、可能な限り当時と同じ機体を再現しています。ユンカース機の特徴であり、この機体に採用されているリブ入り(コルゲート加工)ジェラルミン外板は、現在では製造技術が失われていたので、技術者らはスイス航空当局の監修のもと、再現に成功したといいます。

     ユンカースF.13は、ユンカース、メルセデス、BMWの液冷直列エンジンや空冷星型エンジンが搭載されたサブタイプが存在します。この当時は当たり前のことだったのですが、型式証明を取得するには、1種類のエンジンを選ぶ必要があります。検討の結果、今でも多くの個体が残っている1930年代の空冷星型9気筒エンジン、プラット&ホイットニー(P&W)R-985ワスプ・ジュニア(450馬力)を採用することにしました。実際にP&W製エンジンを搭載したモデルも、4機生産された記録があるそうです。

     また、初飛行を行う際にも難問がありました。ユンカースF.13の操縦経験がある人は、すでに亡くなっていたので、飛行特性などの操縦に関する手がかりがなかったのです。このため試行錯誤のテストが続けられ、2016年9月15日、オリバー・バッハマン氏と、自身も30年以上のパイロット経験のあるディーター・モルシェック氏によって初飛行に成功しました。操縦特性は非常に良好だそうです。この初飛行には、ユンカースの創業者フーゴー・ユンカースの孫、ベルンド・ユンカース氏の他、87年前の6歳の時にユンカースF.13に乗って空の旅を楽しんだ男性も出席しました。

     復活したユンカースF.13は、製造・販売のために「ユンカース航空機製造株式会社(JUNKERS FLUGZEUGWERKE AG)」をスイスのデューベンドルフ(チューリヒ近郊)に設立。すでに予約をしているアメリカの3名に、予価250万ドル程度(約2億7000万円)で製造・販売される予定です。もちろん、新規顧客も募集中だとか。この他にも1人乗りの縮小版レプリカ製造・販売の予定もあるとのことです。これからの詳しい予定は、現在開設準備中のユンカース航空機製造株式会社公式サイトで公開されるとのことです。

    Image:JUNKERS FLUGZEUGWERKE AG

    (咲村珠樹)

    あわせて読みたい関連記事
  • 自宅に“機内”を再現!「飛行機オタク」が作り上げた最高の趣味部屋
    インターネット, びっくり・驚き

    自宅に“機内”を再現!「飛行機オタク」が作り上げた最高の趣味部屋

  • 手荷物検査で係員から声かけ……引っかかったのは「鬼滅の刃」フィギュア!?
    インターネット, びっくり・驚き

    手荷物検査で係員から声かけ……引っかかったのは「鬼滅の刃」フィギュア!?

  • 能面でドイツ出国に黄信号!?能楽師の手荷物に「このマスクは何だ?」
    インターネット, びっくり・驚き

    能面でドイツ出国に黄信号!?能楽師の手荷物に「このマスクは何だ?」

  • マクドナルドで揚げたてポテチが食べられる?ドイツ在住Xユーザーの投稿が話題
    インターネット, おもしろ

    マクドナルドで揚げたてポテチが食べられる?ドイツ在住Xユーザーの投稿が話題

  • 飛行機の中の暇つぶしアイデア8選!フライト時間を楽しく過ごそう
    ライフ, 雑学

    飛行機の中の暇つぶしアイデア8選!フライト時間を楽しく過ごそう

  • 紅白の信号旗を掲揚して接岸作業中の護衛艦あぶくま
    宇宙・航空

    実はこっちが元祖! 港を知り尽くした海の「パイロット(水先人)」とは

  • 画像提供:葛屋カツキさん(@S9992020)
    インターネット, おもしろ

    水で地面に「鹿児島にまた来てね」 整備士による心のこもったサービスに感激

  • ぼくは航空管制官4成田パッケージ
    ゲーム, ニュース・話題

    待望の「成田国際空港」が登場!「ぼくは航空管制官4 成田」が11月17日リリース…

  • 羽田エクセルホテル東急でANA機内食ルームサービス付プランを発売
    宇宙・航空

    ANA国際線の機内食を提供 羽田エクセルホテル東急が宿泊プラン発売&ランチタイム…

  • B737フライトシミュレータ「SKY Experience」内部
    企業・サービス, 経済

    ホテルでB737シミュレーターとMD-90キャビンを体験 シェラトン・グランデ・…

  • おたくま編集部Editor

    記事一覧

    おたくま経済新聞・編集部による監修or執筆

    ▼こちらのライターの最新記事▼

  • 宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で
    エンタメ, 舞台

    宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

  • 「3色の鳥・ゆうちょバス 年金受取口座」篇
    エンタメ, 芸能人

    岡田将生さんが再び“謎の男性”に ゆうちょ銀行「ゆうちょバス」CM第2弾が放送へ…

  • 「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾
    アニメ/マンガ, 放送・配信

    「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT …

  • 宝塚宙組「PRINCE OF LEGEND」公演、25日の東京公演が急きょ中止
    エンタメ, 舞台

    宝塚宙組「PRINCE OF LEGEND」、25日の東京公演が急きょ中止

  • 住まいを選ぶ際の考慮
    社会, 経済

    「春と秋、こんなに短かったっけ?」約9割が実感する“二季化”と住まい選びに与える…

  • テキストエディター「EmEditor」でセキュリティインシデント 公式サイトのダウンロード導線に不正改変か
    インターネット, サービス・テクノロジー

    テキストエディター「EmEditor」でセキュリティインシデント 公式サイトのダ…

  • トピックス

    1. 「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      「呪術廻戦」酷似ゲームを巡る騒動 公式声明後にApp Storeから姿消す

      人気アニメ「呪術廻戦」に酷似したスマホゲーム「特級呪術師」が配信され、SNSで物議を醸しました。公式…
    2. 「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾

      「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」26年2月15日放送開始 PROJECT R.E.D.第1弾

      東映は12月25日、11月に発表していた新番組「超宇宙刑事ギャバン インフィニティ」について、202…
    3. テキストエディター「EmEditor」でセキュリティインシデント 公式サイトのダウンロード導線に不正改変か

      テキストエディター「EmEditor」でセキュリティインシデント 公式サイトのダウンロード導線に不正改変か

      テキストエディター「EmEditor」を提供するEmurasoftは12月23日、公式サイトのダウン…

    編集部おすすめ

    1. 宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚宙組公演、25日に続き28日まで中止 主要出演者の体調不良で

      宝塚歌劇団は12月26日、宙組が東京宝塚劇場で上演している公演について、主要な出演者の体調不良により公演の実施が困難な状況が続いているとして…
    2. シートタイプのWebMoney

      WebMoney、事業をビットキャッシュへ承継 一部サービスは終了へ

      オンラインゲームの課金手段として知られる「WebMoney」が事業の節目を迎えます。auペイメントは2026年3月31日付でWebMoney…
    3. 「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      「完全在宅」「未経験OK」のはずが…求人をきっかけに高額契約 消費者庁が注意喚起

      育児などを理由に在宅で働きたいと求人サイトを利用した人が、結果的に高額な契約を結ばされるケースが相次いでいます。「完全在宅」「未経験OK」と…
    4. Netflix映画『10DANCE』

      Netflix「10DANCE」、海外SNSで広がる“困惑と魅了” 「情緒が崩壊した」人も

      Netflixで12月18日に配信が始まった映画「10DANCE」が、海外SNSで大きな反響を呼んでいます。BL作品であることに戸惑いながら…
    5. 「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      「漆黒の指輪」は実在したものの……サン宝石、カプセルトイ「中二病が疼くリング」の“誇大表現”を謝罪

      アクセサリーや雑貨の販売で知られる「サン宝石」は12月16日、同社が展開するカプセルトイ「中二病が疼くリング」について、公式サイトおよびSN…
    Xバナー facebookバナー ネット詐欺特集バナー

    提携メディア

    Yahoo!JAPAN ミクシィ エキサイトニュース ニフティニュース infoseekニュース ライブドア LINEニュース ニコニコニュース Googleニュース スマートニュース グノシー ニュースパス dメニューニュース Apple ポッドキャスト Amazon アレクサ Amazon Music spotify・ポッドキャスト